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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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167 漆黒の騎士

 高高度から自由落下してきた漆黒の全身鎧が、自身よりも大きな魔法剣を振り下ろす。対して垂直に上昇してきた白銀のローブが細剣を斬り上げて激突する。紫電が環状に広がり、その衝撃は100m以上離れたこの場所にいても肺の空気を震わせるほどである。 


 リサのレベルは25前後のはず。だけどあの一撃だけみればレベル40前後のミハイロと同等以上の膂力(りょりょく)が備わっているように見える。闇の魔力が満ちたエリアで肉体を大幅強化する最上級魔法《暗黒》が発動しているおかげなのだが、その強化の度合いは俺の《オーバードライブ》を優に超えている。


 今の一撃に込められたエネルギーに目を見張る六路木であるが、同時にリサが纏っている武具にも着目する。


「あやつの武具……あのデタラメな魔力密度は何だ、何でできている」

「スキルで作ったモノなので素材は魔力そのものですね」


 リサを強化させているものは他にもある。あの漆黒の鎧と巨大な魔法剣も最上級ジョブ【暗黒騎士】のスキルによって作り上げられたものだ。機動性や防御力、攻撃力が格段に上昇するものの、莫大な魔力コストはもちろん、精神的負荷という厳しいデバフも発生する。恐らく今のリサは巨大な魔力の嵐の中に身を置いており、まともに喋ることすらできない状態だろう。


 では何故、そうまでしてあの武具を作り出したか。それは簡単に予想が付く。ミハイロに対抗できる武具がないという切実な理由からだろう。


 俺も受けてみて分かったが、ミハイロの放つ斬撃は純ミスリルの剣ですら容易く歪ませるほどに強力だった。真宮も武器を何度も持ち替えて戦っていたが、その理由も武器の強度がこのレベルの戦いについてこられないからだ。耐えられるものがあるとすれば、六路木が持っているような国宝クラスの武具か、純ミスリルよりも上のランクの素材が必要となる。


 しかし概念である魔法防具は、精神力と魔力さえあれば歪むことはない。他の巨大なデメリットには目を(つむ)り、ただ勝利するという一点だけを見据えた彼女の決断には、俺ごときでは計り知れないものが含まれているように思える。


 だがそんなデメリットや俺の思惑など知らぬとでも言うかのように、リサは張られた糸の上に着地すると、残像を残すほどの速度で滑らかに走っていく。そして全身の遠心力を使い、魔法剣に破壊的なエネルギーを込める。


 再び上空で激突し、近くで巨大花火がさく裂したような衝撃波を響かせてくる。近距離戦を見る限りではミハイロのパワーを明らかに上回っており、体にも不調があるようには感じられない。リサは持っている能力を十全に発揮できているのではなかろうか。


 その戦いっぷりに感嘆しているとすぐ隣に真宮が勢いよく落ちてきて、掴まっていた糸を上下に大きく揺らしてくる。ここであってもまだ地上100m以上の高度がある。「もう少し静かにお乗りいただきたい」という意味を視線に込めて真宮を睨もうとすると、向こうも不満顔で俺を覗き込んでくるではないか。


「真田様にまた逃げられたよ、やっぱり空を飛べるのは大きいよね」


 見ればこれまで幾たびの戦闘をしても何一つ乱れていなかった袴や髪が盛大に乱れていた。カラーズのナンバー2を相手に激しい格闘戦をやっていたものと思われる。その無茶ぶりに何を考えているのかと訝しむものの、こいつの思考はタガが外れすぎているので深く考えるだけ無駄である。


 しかし言いたいことは分かる。真宮と六路木は強風に吹かれながら足場の糸を常に確認して立ち回る必要があり、追撃も自由にできないという大きなハンデを抱えて戦っていた。そしてそれは糸の上を飛び回る漆黒の鎧にも当てはまるのではないか、と言っているのだ。


「力も速さも十分に対抗できている……むしろ上回っている。素晴らしいことだがそれ故に、ミハイロは早々に近接戦闘を諦めたようだが?」

「当然の流れだね。さて、あの黒い鎧はどうでるつもりかな」


 リサは全身をバネのように折り曲げたり回転を加えたりして、斬撃にとてつもない威力を込めている。不安定な足場にもかかわらずあれほどの斬撃を放てるのは高い戦闘技術があればこそだ。しかし浮遊魔法が使えるならそんな相手と正面から打ち合う必要などなく、案の定ミハイロは足場の糸から距離を置いて魔法戦に移行しようとする。


 浮遊魔法を使った魔法戦に散々苦しめられてきただけに「大丈夫なのか」と二人が俺を見てくるが「心配いらない」とだけ言っておこう。

 

 空中を飛びながら左右の腕を光らせて同時に雷魔法を撃ち出すミハイロ。バリバリという空気を裂く音が木霊し恐るべき速度で迫ってくる。だが漆黒の鎧はその直前に霧となり、消えたと思ったらミハイロのすぐ上に突然現れて一撃を繰り出してくる。虚を突かれて障壁を一瞬で砕かれたミハイロは、無理な体勢から細剣で受け止めるが、衝撃は受け止めきれず数十mほど飛ばされてしまう。


 その先に待ち構えるかのように霧となって現れ、再び強烈な一撃が放たれる。直角方向に吹っ飛ばされながらもミハイロは反撃の魔法弾を撃つが、リサはすでに黒い霧となっており、そこにはいない。


 上空で行われている異様な戦術に、六路木と真宮が食い入るように見つめている。


「……あんな戦いが……ありえるのか」

「自在に瞬間移動するスキルがあるなら確かに飛ぶ必要もないね。まさに攻防一体だ!」


 予想を超えたリサの戦闘スタイルに真上を見つめたまま、あんぐりと口を開ける六路木。パワーと速度だけではなく、霧となって空間を自在に瞬間移動するスキルまであるのなら、これは勝負あったのではないかと真宮も視線で尋ねてくる。


 しかしあの霧はそんな便利なものではなく、実は単なる回避スキルである。


 使用者が霧になるときも再び現れるときもタイムラグが発生するため、普通はあのような使い方をすれば霧になる前に被弾するし、霧になって逃げきれたとしても出てきたところを狙われて返り討ちとなる。だが空間と魔力の流れを掌握し、相手の動きを誘導または予測できるのなら、そのタイムラグは限りなくゼロとなって攻防一体の空間戦術へと昇華する。


 ダンエクの中でも最強の一角とも評された【暗黒騎士】の戦術だが、完璧に使いこなせたダンエクプレイヤーはリサを含めてわずか数人だけだった。その数人の誰もが己のプライドを賭して俺の前に立ちふさがってきたため、黒い霧と《エアリアル》が大空で入り乱れて壮絶な死闘を繰り広げたものである。こうして眺めているとそのときのトラウマが蘇るぜ。


 ミハイロがなすすべもなく押されていくのを見かねて、真田が参戦してサポートするも、リサの動きを全く捉えられていないのか的外れな方向に魔法弾を発射している。もっと接近して魔法戦を挑めば当たるかもしれないが、ミハイロさえ上回る近接戦闘能力の持ち主に近づくことは自殺行為と判断して真田は距離を保とうとしているのだろう。


 その圧倒的な立ち回りに過去を思い出しながらも応援していると、下から何者かが迫ってくる気配がした。俺と真宮はとっさに身構えるものの、六路木は刀を鞘に入れたまま動こうとはしない。


「――“持瓔珞(じようらく)”、“黒歯(こくし)”……お前達か」

「六路木様、御無事でありんしたか!」


 俺達が乗っている糸をほとんど揺らさずに、二人の人物が飛び乗ってきた。一人は夜なのに日傘を差したゴシックドレスの女である。


 長い銀髪をロールさせており、服装も相まって十代のように見えるが、顔の化粧が濃いので年齢は読めない。しかし俺を上回る魔力を纏っており相当な手練れであることは間違いなく、さらに持瓔珞(じようらく)という十羅刹特有のコードネームで呼ばれたことから幹部である可能性が高い。


 そしてもう一人は、般若(・・)の面で顔を隠した男。こいつは……


「お前は……確か成海だったか? それに劣等貴族様までいるとは、一体どんな巡り合わせだ」

十羅刹(じゅうらせつ)の大幹部様に顔を覚えてもらえているとは光栄です、僕も有名になったものだね」


 十羅刹の幹部であり武闘派筆頭“黒歯(こくし)”。俺だけでなく、真宮のことも知っていたようだ。気付けば他にも十人ほどの気配が近くにあり、こちらを静かに(うかが)っていた。こいつらも恐らくは十羅刹のメンバー。ということは、ついに結界が破られたということだ。


 聞けばカラーズの部隊も来ており、ビルの1階から突入して白ローブと戦闘に入ったとのこと。短い時間で状況が目まぐるしく動き出しているが、さらなる大きな波が押し寄せようとしていると黒歯(こくし)が警告する。


「国軍がここへ向かっている。神聖帝国との交渉次第では本格的な武力衝突となる手筈だが……上のアレは、やれそうなのか」

「あのミハイロと正面からやりあってるでありんすかっ!?」


 上を指差し聞いてくる黒歯(こくし)に、ゴシックドレスの女も信じられないものを見るように目を見開く。十羅刹の幹部二人からしても驚きの声が上がるような戦いが今もなお繰り広げられているのだ。


 遥か上空で破裂音と金属音を出しながら3つの影と魔法の閃光が入り乱れ、ぶつかり合う。リサの射程の長い斬撃を受け流して莫大な魔力を練り、大魔術を詠唱しようとするミハイロと、その詠唱時間を作るために攻撃魔法で弾幕を張る真田。しかし漆黒の鎧は霧となって遠距離から忽然(こつぜん)と至近距離に現れるため、俺の《エアリアル》を見切った真田ですら予測が立てられず翻弄されている。


 そんな有利な状況に加えて国軍まで援護にくるというのだから、もはや勝利は目前か――と思ったのだが、政府は兵士の消耗を抑えるために場合によっては白兵戦などやらず、長射程のミサイルを雨のように降らせてくる作戦を取る可能性もあるという。


「これは政府上層部にいるおっさんの口から直接聞いたことで確実性は高いでありんす」

「あぁ、だが政府としては正しい判断だともいえる」


 神聖帝国の白ローブを一人抑えるのにどれだけ兵士が犠牲となるかを考えれば、ミサイルをぶち込んで一帯を更地にするという手段も理解はできると黒歯が言うが――というかそのようなルートを取るストーリーもダンエクには存在するが――そんなことをすれば俺達だけでなく、今も爆破魔法陣の解除を試みているサツキや白ローブと戦っている冒険者、パーティー会場にいる御神達まで一人残らず死ぬことになる。


 それを回避するためには、今すぐにでもミハイロと手打ちにするか倒すしかないとゴシックドレスの女――持瓔珞(じようらく)が言う。確かに兵士の犠牲を最小限に抑えたい国家としては正しい判断かもしれないが、代わりに神聖帝国の奴らと一緒に犠牲となる俺達からしてみればたまったものではない。


 背後で恐ろしい計画が走っていたことに戦慄するが……でも大丈夫だ。


「ミハイロはもうじき倒せますよ」


 そもそもの話。漆黒武装の召喚という最上級魔法を無事に成功させ、加えてあれほどまでに充満した闇の魔力を全部吸って己の力へと変換できた時点で、リサの勝利はほぼ確定する。


 現にミハイロと斬撃戦を繰り広げながらも真田を追い詰め、致命傷とは言わずとも深手を負わせることに成功している。俺としてはあの巨大な力にリサの体が耐えられず、実力をほとんど発揮できない可能性を懸念していたのだが、それもないとなれば、あとは魔力が続くかどうかだけ。しかし見る限りでは長期戦になりそうもないのでその心配も無用だ。


 俺の返答に真宮や十羅刹の連中が真意を探るように見てきたがすぐに押し黙り、状況を見守ることに決めたようだ。何故なら戦いが一気に終局へと移行しかけたからである。


 左手で眩い火炎魔法を撃ちながら強引に大魔法詠唱を開始するミハイロ。途方もない魔力が渦を巻き、(あふ)れ出た魔力が紫電となって可視化する。あれさえ決まれば猛威を振るっている漆黒の鎧も、遠くから見ている俺達も、おまけに近くに建つ高層ビル群もまとめて一撃で沈められるだろう。それほどの大魔術を放とうとしているわけだが――


 リサがそんな大きな隙を逃すはずもなく、詠唱が最終段階に入る前に魔法剣[バルムンク]に貫かれ無駄に終わる。あの剣に斬られると大量の魔力が吸われ、暗闇状態となるデバフまで受けることになる。ミハイロなら視界に頼らない戦いもできるだろうが、今の一撃はそれ以前の問題。致命傷である。


「伝説の冒険者がここで死ぬなんて……マジでやりやがったでありんす!」

「いえ、あれは魔法で作り出した体なので死ぬことはありませんよ」

「何だと……?」


 ミハイロのユニークスキルは自分の分身を作り出すこと。本体は常に東欧の【聖女】の傍に控えているはずだ。ゆえにミハイロは諸外国が大量破壊兵器で何度殺しても復活してくるため、“不死身の枢機卿”という異名も持っている。これで神聖帝国の右腕が落ちたと思っていた六路木が悔しげに顔を歪める。


 魔法剣で貫かれた自身の体を見つめながら透明化し消えていくミハイロ。本当の意味であいつを殺すなら神聖帝国の【聖女】が住まう宮殿まで行って直接本体を叩く必要があるが、真田はそうじゃない。血を流しながら息も絶え絶えに空中を漂っている。あの状態ならトドメを刺すのは造作もないだろう。


 巨大な魔法剣と闇の魔力を携えて、霧となった漆黒の鎧が真田の目の前に現れる。その頭上に向けてゆっくり(・・・・)と魔法剣が振り上げられるが――


「待ってくれ!」


 軽鎧を着た男が大声を上げて戦いに割り込もうとする。ビルの中から糸へ飛び乗り走っていくのが見えていたので割り込むのだろうとは思っていたけど、案の定というところだ。こいつもダンエクではあまりにも有名すぎるキャラだが、この世界ではテレビ以外で初めてお目にかかるな。


 その男の要請により、リサは魔法剣を振り下ろさないままでいるが、そのことに苛立った六路木が「殺さないなら代わりに殺してやる」と呟いて糸を駆け上がって行ってしまう。


「どうしてこんなことをしでかしたんだ……輝かしい“カラーズ”の未来は、俺達はどうするんだ、幸景(ゆきかげ)

「ふっ……それを君が言うのかい?」


 三十路くらいのガッチリとした体格のイケメン――田里(たさと)虎太郎(こたろう)が身振り手振りを使って感情的に問いかけるが、肩口を斬られ顔を青白くさせた真田は精一杯に呆れた表情を作って首を振り「お前は何もわかっていない」と返す。


 ダンエクでの真田は日本の後進的な冒険者サポートシステム、貴族からの不当な待遇、他組織との抗争に辟易(へきえき)していた。また中級ジョブ【プリースト】のままでいることに強く限界を感じており、己の強化と自由を求めてカラーズの拠点を海外へ移すことを何度も訴えていたのだ。


 だがクランリーダーである田里は国家に忠誠を誓った恩賞として日本固有ジョブである【侍】と男爵位を授かっているゆえに賛同せず、また実質的にカラーズを動かす九鬼と金蘭会が真田に反発。日本政府としても国内最強クランと【侍】が海外に移転するなど許すわけがない。


 ゆえに真田はカラーズ内で孤立を深め、終いには上級ジョブである【クレリック】を求めて単身で神聖帝国へ亡命を決断したのだ。


 そんな背景を思い出しながらも、役目を終えたリサが力なく落下してくる。田里の止める声を無視して真田を殺さなかったのはストーリーを守るためなのか、もしくは他に考えがあるからなのかは分からない。それはともかく。


 レベル25しかない体でミハイロをも上回る力と魔力を行使したのだ。恐らく体のあちこちに後遺症がでていることだろう……が、オババの店で診てもらえば何とかなるはずだ。本当によく頑張ってくれたと労いを込めてまだ何とか動く腕で受け止めると、俺の腕の中で魔法で作られた鎧が解除され、下着姿が露わとなってしまった。


 たわわなお胸を見ないよう慌ててマジックバッグからローブを取り出し四苦八苦しながら被せていると、上の方では六路木が殺気を(まと)って真田に襲い掛かろうとしていた。


 聖属性の白い光を放つ国宝の刀と、同じく国宝である火炎の太刀がぶつかり合い、真田の前で田里と六路木が鍔迫(つばぜ)り合いとなる。


「……いいか小僧。この場であやつを殺せなくとも、政府は決して許しはしない」

「だけど六路木さん、幸景の野望は全てが潰えました。このような過ちが繰り返されないよう話を聞くことも大事だと思いませんか」


 真田と田里は冒険者学校時代からの旧友であり、無名冒険者だったころから共に切磋琢磨しクランを育ててきた。その思いは俺ごときに推し量れるものではない。だがここまでの惨事を引き起こした責任は重く、逃すことも逃れることもできないのは事実だ。捕まれば確実に死罪となる。


 十羅刹の幹部二人が殺気を放って加勢するぞとアイコンタクトを送ってくるが、ビルの中から様子を見ているカラーズのメンバーまで乱入してくる可能性もある。軍が迫っている中で余計な争いなどしている時間はなく、俺達は動かないほうがいいと返答していると、一方の真田は何がおかしいのか苦笑し始める。


「くくっ……私の野望は潰えてなどいませんよ……」


 抵抗する力などもはや残っていないはず。それでもこれほどまでの凶悪な事件を起こした中心人物なだけに警戒せざるを得ない。何を考えているのか注視していると、続けて意味の分からないことを言い始めた。


「確かに、神格者(プレイヤー)の回収という第一優先目標は失敗しましたが……はぁ……それが難しいことを十分に聞かされていましたので……でも成功(・・)しましたよ。しっかりと見ていてくださいましたか……我が(あるじ)……」


 真田が斬られていないほうの腕を上げて頭上を見ると、何とそこに紫色の光が現れたではないか。あれは紛れもなく《ゲート》である。一瞬、アーサーが出したのかと思ったが、それなら俺の頭上に出るはずだ。ではあれは誰が出したというのか。


「私にはまだ()がありますので……それでは皆さん、ごきげんよう」

「行ってしまうのか、幸景」

「……ああ。さらばだ、虎太郎(こたろう)


 口から血を流しながらも最後の一瞬だけ優しい視線を田里に送るものの、すぐに険しい顔に戻し《ゲート》の光の中へ消えてく真田。去り際に言っていた言葉が気になる。今夜起きたすべては何者かが監視していた……だと?



 最初はほんの小さな(ひび)程度のものだった。それが染み渡るように広がり、深い亀裂となって盤石だと思っていた足場が突然崩れた感覚だ。見えていた範囲だけでなく、世界そのものが俺達プレイヤーの知らない方向へと進もうとしている。それは偶然か、もしくは誰かの思惑によって誘導されているのかは分からない。


 今回の出来事でゲートの存在が世に知れ渡り、今まで35前後だったレベルの上限が大きく上がることとなる。それは冒険者界だけでなく社会すらも大きく変容させるに違いない。俺達はその影響の程を検証し、これまでの行動指針を今一度改め直す必要がある。


 だが考えるのは後回しだ。


 完全に魔法陣の効果が消えたのか、遠くからパタパタという音と共に複数のヘリが迫ってくるのが見える。やがてこの場所には軍や冒険者が列をなして押し寄せてくるだろう。


 もう俺にできることなどない。目を覚ます気配のないリサも心配だ。腕端末には『無事に爆破魔法陣を解除しました』とのメールも入っていることだし、さっさとサツキと合流してとんずらさせてもらうとしよう。


それにしても――と、月光に照らされた糸の上を歩きながらも、しみじみと思う。


 「……腹が減ったな」

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