165 手渡されたバトン
―― 成海颯太視点 ――
サツキ達が無事に部屋から退避すると、残った味方は真宮、六路木と俺を含めて3名だけとなった。
六路木はダンエクでもお馴染みの武闘派キャラ。【侍】というジョブ特性も俺はよく知っているので、どう動くのか予測できるため連携も取りやすい。
問題は真宮だ。実力を隠すのを止めたのか六路木とさして変わらない魔力を噴き上げており、無害そうな顔は脱ぎ捨てて悪そうに口を歪めて笑っている。こいつに関しては情報が全くないので、どんなジョブでどういった戦闘スタイルを取るのか全く予測できない。連携は諦めたほうがいいだろう。
対するはミハイロ・マキシムと真田幸景。
ミハイロはダンエクにおける中ボスなので何度も戦ったことはあるが、少なくともレベル30そこそこで挑んだことはない。現状は無理やり《オーバードライブ》を使って戦闘能力を底上げしているものの、本当に太刀打ちできるか疑問でしかなく自信もない。
真田についてもお馴染みのキャラではある。ダンエクでは中級ジョブ【プリースト】から同じサポート系の上級ジョブ【クレリック】にジョブチェンジしており、それについての戦闘スタイルは熟知している……つもりだった。しかしこの世界では何を考えたのかサポートとは真逆の【死霊使い】となっているため、参考にはならなそうだ。
その横に控えている、くノ一レッドの死体。真田の巨大な魔力で大幅強化され、動きが機敏になっているのだろうが、あれでは体内の魔力回路が長く持たず焼け切れてしまう。容赦なく使い捨てるつもりのようだ。
そして部屋の隅にある石板……あれはゲートか。ここで切断されて血だまりを作っている白ローブ共はあそこから出てきたのだろうが、神聖帝国にゲートを設置する技術があるなんて初めて知る情報である。この世界にはプレイヤーすら持っていないダンジョン知識があることに戦慄を覚えてしまう。
視線だけを動かし素早く状況確認していると、白く発光する刀を手にした六路木が後ろから小声で話しかけてくる。
「(小僧。何か策はあるのか)」
「(……あとから俺の仲間が来ます。それまで耐えられれば何とかなるかもしれません)」
「(何とかなるってミハイロを倒せるのかい? それができれば苦労しないんだけど――っと!」
小声で話していると、早速ミハイロが魔法弾を撃ち込んでくる。俺と真宮が横っ飛びで躱し、その後ろにいた六路木が刀を傾けて軌道を逸らすと後方の壁に着弾。コンクリート片と共に爆風が巻き起こる。
今の弾道はちゃんと見えていた。何なら剣で受けきることだってできそうだが、牽制として放った魔法弾でこの威力。先が思いやられるぜ。
(さて、どうやってやりすごすべきか)
リサが準備をしているというけれど、いつになれば来るのか情報がないので時間稼ぎをしながら戦うべきか。今発動している《オーバードライブ》は維持するだけでも魔力をかなり消費するため長くは持ちそうになく、もし効果が切れれば俺は足手まといになるどころか真っ先に殺されてしまうだろう。少しでも長持ちさせるためになるべく魔力を使わず省エネで戦いたいところだが……
そんな消極的な姿勢で格上のミハイロと真田を抑えられるわけがなく、時間稼ぎをしている間に殺されるのがオチだ。《オーバードライブ》の効果中だけでも思い切って攻撃的に出たほうがいいだろうな。
打ち込む隙を見つけようと魔力の動きを探っていると、ミハイロの方から多量の魔力を放ち、威圧しながら話しかけてきた。
「神格者は誰だ。素直に名乗り出れば苦痛なき死を与えてやる」
「……心遣いどうも。でもそちらこそ大丈夫なんですか。これだけの被害がでれば本国も相当なダメージでしょ。局地戦で負けちゃいますよ?」
この部屋だけ見ても数十人の白ローブが首を刎ねられ倒れている。真宮が時間を止めて狩り尽くしたのだろうが、元の世界で言えば白ローブ一人の戦略的価値は、最新鋭の戦闘機にも匹敵する。それを数十も失ったとなれば一方面を任せる軍が丸々壊滅するに等しいのではないか。
神聖帝国といえど、これほど派手に壊滅するなど想定していたわけがなく、現在進行形で欧州連合とゴリゴリに戦争している状況において軍の再編は避けられないし、局地的な敗走すらありえる。国家として巨大すぎる損失に違いない。
それを見越して痛いところを突いてみたわけだけど、ミハイロの顔には一切の動揺が見られない。それは強がりでなく、神聖帝国という国は別の枢機卿が勝手に領土を広げているだけであり、ミハイロとしては【聖女】さえ健在なら誰が何人死のうと気にしてなどおらず、領土が減ろうとどうにでもなると考えているからだ。ダンエクプレイヤーだった俺はその点を重々承知しているので「だから何だ」という態度を返されてもさして驚きではない。
だが“神格者”という単語が口から出るあたり、ミハイロの背後にもプレイヤーの影がちらつく。そいつは俺と同時期にやってきたプレイヤーなのか、それとも別のタイミングでやってきたのか……気になるな。
もう少し探りを入れてみたかったものの、すでに別方向でバチバチと魔力をぶつけて今にも殺し合いが始まりそうな二人がいるので落ち着いた会話もままならない。
「早くやろうよ。僕は一度でいいから“カラーズ”の首を狩ってみたかったんだ……《アクセラレータ》!」
「奇遇ですね、私もあなたの首をずっと探していたんですよ。日本を発つ前に忘れ事をするところでした《ストレングスII》!」
血で濡れた双剣を殺意に塗れた顔の前で揺ら揺らとさせ、加速魔法を唱える真宮。夜道で会えば確実に失禁するレベルだが、真田もサーヴァントをさらに強化し、同等の殺意で応じている。二人の間にどんな因縁があるのかは知らないけど、そっちは任せるとしよう。
魔力放出や重心移動による駆け引きが無数に行われ、薄暗く広い部屋の隅々にまで殺意が荒れ狂う。そんな中、予告なくミハイロが魔法弾を放ったことで、ついに殺し合いが始まった。
真宮が一瞬で加速して疾風となり、壁から天井を駆け上がって双剣を振りかぶると、真田が障壁を張って迎え撃つ。ガキンッという金属音を横目に、俺もフェイントを入れながら加速してミハイロに魔法弾を撃ち込む。まずは張られた障壁の種類と強度を確認したい。
だが俺の背後にぴったりと隠れるようについてきた六路木が追い抜くと、魔力を爆発させて我先にと最初の一撃を放つ。
「賊が散れっ! 二の太刀《白刃一徹》!」
前方に白い線が煌めき、それに沿って高濃度の魔力が爆発する。【侍】が誇る高火力斬撃スキル《白刃一徹》。コンクリート片や粉塵が舞い上がり前が見えなくなるものの、強力なつむじ風が吹き荒れて一瞬にして視界がクリアとなる。そこに立っていたのはもちろん、無傷のミハイロである。
今の攻撃で倒せるなんて思っちゃいない。だがミハイロを覆っていた物理障壁が消滅していたことから、強度的には俺でも全力攻撃を繰り出せば破壊できそうなことを確認できた。それなら六路木と攻撃を合わせれば――
(って、あぶねっ!)
近くを通りかかったサーヴァントが俺の後頭部をひっかくようにクナイを振るってきたため、すんでのところで伏せて躱す。この部屋は1階ロビーほどの面積はあるが――それもおかしな話だが――レベル30後半の冒険者が複数動き回るには決して広い空間とはいえない。
冷や汗を流しながら周囲の動きにも注意を割くよう自戒していると、向こうでは真田と真宮が高速で円を描くように立ち回りながら殺意剥き出しに剣をゴキンゴキンとぶつけ合っていた。
サポート職だった真田はダンエクでも後方に回ることが多かったものの、対人において他のカラーズ幹部にも劣らない高い実力を誇っていた。その真田と互角以上、むしろサーヴァントごと押し込んでいる真宮昴とは一体何者なのか。だがあっちをしっかりと抑えてくれるなら好都合だ。
当たったら深刻なダメージを喰らうであろう魔法弾を躱しつつ、ミハイロの背後から斬り込んでいくものの、魔法弾の連射に阻まれ簡単には近づけない。六路木も接近に失敗しており距離を取って俺に尋ねてくる。
「魔法詠唱が早すぎる、何か仕掛けがあるのか」
「《同時詠唱》ですね。あいつは2つの魔法を同時に扱えるんですよ」
通常は単なる魔法弾であろうと体内の魔力を吸い上げ、コネて、それを手に引っ張り、最後に撃ち込むという一連の流れを正確に行う必要がある。そのため魔法は単発でしか発射できない縛りが発生するのだが、奴は先ほどから左右の腕から同時に発射したり、別々の魔法を使ったりしている。それを見た六路木が一体どういうことだと聞いてきたわけだ。
ダンエクの通りならミハイロは【賢者】というジョブのはず。攻撃魔法が得意な【ウィザード】、回復・防御魔法が得意な【クレリック】の良いとこ取りのようなユニークジョブで、おまけに先ほどからパッシブ(※1)で使っている《同時詠唱》というチートスキルまで覚えている。まるで二人の魔術士を同時に相手しているような気分になる。
だがこっちには六路木がいる。肝を冷やしながらも魔法弾を紙一重で躱して右側から斬り込んでミハイロの注意を俺に向けると、六路木も左側から壁を跳躍して勢いと魔力を乗せた斬撃を振り下ろす。
ミハイロの頭上に大型車がペシャンコになるくらいの圧がかかり、周囲の床が砕け、紫電が放射状に発生する。しばらく障壁と拮抗していたものの、六路木が魔力を増大させたことで障壁に罅が入り、ガラスの割れた音と共に砕け散った。
これまで一歩も動いていなかったミハイロが、初めて回避のために数歩後退する。当然、逃がすつもりも障壁を張り直す時間も与えない。
「――死ね」
ずっと大振りに刀を振っていた六路木はより鋭く、よりコンパクトに斬撃を放つ殺意の化身となる。ミハイロは胸元から取り出した細剣で冷たい目のまま迎え撃ち、背後から差す月光を手に持った得物に反射させながらギィンッと重い音を響かせて一撃の応酬が始まった。
さぁ、チャンスが来たぜ!
濃密な魔力の渦を作りながら、床や天井を砕きつつ入れ替わるように斬り合う二人。そこに向かってありったけの魔力をかき集め、渾身のウェポンスキルをぶっ放す。
「爆ぜろっ! 《ボーパルスラスト》!」
「――無に帰せ《ディスペル》」
重低音を伴って俺の前に赤黒い雷光が3つ現れる。《オーバードライブ》により通常時とは段違いの魔力と膂力が乗っており、エフェクトがまるで別物。こちらに背を向け無防備となったローブを三等分するように強力な斬撃が放たれる。
しかしミハイロはこちらの動きを正確に読んでおり、ブレるように動いたと思ったら俺の斬撃に乗っていた魔力が剥ぎ取られ、剣速も大幅に鈍化し、最後に勢いそのものまで完全に消え失せてしまった。
見たこともないスキルで俺のウェポンスキルが掻き消されたことに六路木が目を見開いて警戒を露わにする。ミハイロが使ったのは、あらゆるスキルを弱体、または無効化する上級魔法《ディスペル》だ。
俺としてはこのスキルの存在を予期していたので驚きはない。むしろ、こんなチートスキルがあるならさっさと吐き出させて長いクールタイム中にさせておきたかったので狙い通りである。
ミハイロが障壁を張り直してしまったため、再び距離を取って仕切り直す。横目でもう一つの戦いを見ると早くも決着しそうな気配であった。
真田の格闘術を上体逸らしで躱した真宮が、落ちていた血濡れの槍斧を側転しながら拾って後方へと振り下ろす。それにより背後に迫っていたサーヴァントの上半身が切断される。
吹き上がるドス黒い血を無視してその勢いのまま操り主の元へ突進していく真宮だが、真田は迎え撃つことを放棄し、外壁に開いた大穴に身を預けて新たなスキルを発動させた。
「はぁはぁ……驚きました……さすがは朧ですね。金蘭会を半壊させただけあります……」
「やだなー違うってば。わざと半壊に留めてあげたんだよ?」
浮遊魔法《フライ》でビルの外に浮かびながら真田がとんでもないことを口走りやがった。真宮の返しもツッコミどころ満載で、ミハイロと向き合っていた六路木も刀を構えたまま怒りで震えているではないか。
朧というのは、様々な陰謀の影にいると噂されている都市伝説的な秘密結社のことである。ダンエクでも何度か登場するものの、メンバーやリーダーの情報は一切明かされていないので俺も知らない――いや、知らなかった。
10年ほど前、その朧と金蘭会が激しく抗争し、金蘭会メンバーの半数が殺された事件があったそうだが、10年前ならそのときの真宮はまだ7歳前後のはずだ。そんな子供が当時ブイブイと言わせていた攻略クランを「半壊で留めてあげた」と言うのだから、冒険者ギルドの揉め事処理に追われていた六路木の心情は察するに難くない。
だがミハイロ・マキシムを前にしてそんなことに意識を持っていかれれば屍を晒すだけだ。魔力の流れを読み取って《オーバードライブ》により大幅強化した体に鞭を打ち、床を砕くように蹴り上げ加速する。フリーとなった真宮も俺と六路木に歩調を合わせ、3方向からウェポンスキルを放とうとする――
――が、ミハイロもスッと後ろに飛んでビルの外に出てしまい、それ以上の追撃ができなくなってしまった。
空中という絶対的な安全地帯に浮かびながら静かにこちらを睨むミハイロと真田。そういえば浮遊魔法《フライ》は、神聖帝国の【聖女】が側近騎士――という名のシモベ――にだけ授ける設定があったことを今更ながらに思い出す。
そのため神聖帝国において浮遊できることは“聖女の使徒”と呼ばれ神聖視されているのだ。つまりミハイロだけでなく真田も無事に【聖女】の犬となったようである。
ここまではミハイロも真田も大技を使うこともなく、俺達の能力をじっと確かめるように受けに回って動いていた。その慎重な戦い方からしてダンエクのときの行動パターンと同じようではある。
だがビルの外から魔法弾を撃ち込まれ放題というこの構図は放っておけない。かといって追撃するにも高高度に浮遊しているためこちらの斬撃を当てることも叶わない。
高所から「どう調理してやろうか」と見下ろしてくる視線に対し、俺と真宮、六路木は「叩き斬ってやるから下りてこいよ」と睨むように見上げながら作戦会議を始めることにした。
「あの魔法いいよね、僕も欲しいなぁ」
「ふん……それで、この状況に対抗できる手段はあるのか?」
「俺はありますけどね。二人は……ビルの合間に引っ掛かってるあの蜘蛛の糸を足場にしてみてはどうですか」
「なんだと? 正気か小僧」
ビルの外にはアーサーが足場として作った蜘蛛の糸が、ビルを連結するようにあちこちに張り巡らされたまま残っている。気を付けなければいけないのは、蜘蛛の糸には移動用の縦糸と捕獲用のネバネバする横糸があり、踏み間違えると強力な粘着力により身動きできなくなってしまうことだ。
それらに注意し戦ってくれと言うと真宮は「落ちたら死ぬよね?」と目を剥いて抗議し、六路木はますます不機嫌顔となる。仮に落ちても落下地点がマジックフィールドなら肉体強化のおかげで助かるかもしれないし、きっと大丈夫だと元気づけておく。
ミハイロはより高く浮かび上がり、悠然とした動作でバフをかけている。その表情を見るに一方的な蹂躙展開でも考えているのだろう……が、そうはさせねぇ。左右から真宮と六路木にガンを飛ばされながら俺も新たな魔法陣を描く。
「では行かせてもらいます――《エアリアル》!」
「それって空中を跳ねる魔法かい?」
両手で魔法陣を描き切ると即座に発動し、緑の風が足元から吹き上がる。これで俺は空をも駆けることができる。真宮の興味深そうな視線を置き去りにして第一歩となる足場を作り、いざ夜空へ飛び出すと――
(うっほぉーー……こっわっ!)
ひとたび空中に身を乗り出してみれば、高所特有の殴りつけるような横風が吹いていたため足を踏み外しそうになる。ふと下を見れば止まっている車が豆粒よりも小さいではないか。ダンエクではこれくらいの高度でも数えきれないほどの戦闘経験があったため気にも留めてなかったが、実際に生身の体でやるとなると竦み上がるような恐怖心が込み上げてくる。
心を落ち着かせながら冷静に周囲を見渡すと、東京の中心街であるにもかかわらず見える範囲で車が動いている様子はなく、人の気配も一切ないことが分かる。最低でも半径数kmくらいは人避け魔法陣の影響下にあると思われる。ここまで影響範囲が広いと今頃外では大混乱となっているに違いない。
目的のためなら手段を選ばない傲慢なやり方に憤りつつ一定間隔に足場を作り、トントンとジャンプしながらゆっくりと近づいていくと、空中戦に打って出てくるとは思っていなかったのだろう、ミハイロが興味を、真田が驚きの混じった視線を向けてくる。
「お前が……神格者か」
「未確認の強化バフ、空中を飛び跳ねるスキル……可能性は高いと思われます」
俺を見てプレイヤーの可能性が高いと判断したミハイロは背後の月が歪むほどの悍ましい魔力を噴き上げ、真田もようやく見つかったと歓喜に口元を歪めて、刺すような殺意を向けてくる。
ご名答、俺こそがプレイヤーだ。お前らの計画通りにまんまと引っ張り出されたわけだ。
まったく……入学式当初はこの夏に入る段階でレベル15もあればいいと思って楽勝気分でいたのに、東京のこんな上空で神聖帝国やカラーズ幹部と殺し合うことになるとはな。今日ここにくるまでだって何度死にかけたことか。これがダンエクだったなら間違いなくゲームバランスが破綻している。開発者はどこだ、カスタマーセンターはどこだと叫びたくもなる。
だが恐れるな、今の俺には抗う力がある。
この《エアリアル》という力を使いこなしてからは数々のトッププレイヤー達を沈めてきた自負があり、“災悪”という称号までも得られた。その経験は今もこの血に宿っている。これほどの広大な空間で空中戦をやるならばアドバンテージは俺の方にあるはずだ。
それだけではない。この状況は仲間達の決死の覚悟と、多くの人達の命の上に作りだされている。
俺が気兼ねなく戦うことに専念できているのは、サツキが命を張って妹を守ってくれるから。ここに辿り着けたのも金蘭会や名も知らぬ冒険者達が命を顧みず道を切り開いてくれたから。俺が到着するまでもアーサーが慣れない体で粘りに粘ってくれた。この手渡されたバトンは何が何でもリサへと繋げなければならない。それらを今一度、肝に銘じよう。
マジックバッグ化したポケットから[ソードオブヴォルゲムート]を取り出し、赤黒い魔力を噴き上げて、かつてない強敵に向き直る。これまでに関わった仲間達の顔を思い浮かべながら必死に闘争心を呼び起こしていると――後ろから軽い口調の声が掛けられる。
「少々頼りないけど、これくらい強度があるなら何とかなりそうかな」
「小僧、これでもし先に死にでもしたら……あとでブチ殺しに行くから覚えておけ」
高層ビル同士を繋ぐように張られた長い糸の上を、多少ふらつきながらも物怖じせず進む真宮と、刀を下段に構えたまま不機嫌顔で歩いてくる六路木。ここからの戦いは俺一人でやるつもりだったのだが……何とも心強いじゃないか。
そんじゃ気を取り直して、第二ラウンドといきますか。
(※1)パッシブスキル
覚えているだけで常時発動するスキルのこと。
『災悪のアヴァロン』コミック9巻が9月19日発売!
活動報告にてコミック9巻、書籍7巻の情報を掲載中です。