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155 黒水晶の妖精

 小瓶くらいの大きさの黒水晶を握りしめた黒髪の少女――真宮千鶴(チーちゃん)と並走しながら、54階の廊下を駆け抜ける。

 

「魔力を注いで『力を貸して』と念じる……それだけですか?」

「ええっ? そんな簡単に妖精が出てくるのっ!?」


 地面スレスレまで着物の(すそ)があるせいで、足首だけをちょこまかと動かし走っているが、高い肉体強化のおかげでオリンピック選手くらいの速度を出している。そんな不思議少女が、胡散臭(うさんくさ)そうに俺と水晶を交互に見ながら疑惑の目を向けてくる。一方で華乃も気になったのか、黒水晶を覗き込むようにして並走に加わった。


(何事もなく44階までいければいいが……)


 仲間と連絡を取り合って情報を集めていた霧ケ谷(きりがや)によれば、51階まではすでに偵察済みなので警戒せず駆け抜けても問題ないとのこと。これだけでもかなりの時間短縮になるのは助かる。

 

 問題はそこから先だ。不意打ちを恐れるあまりゆっくりと進めば、爆破魔法陣のタイムリミットに間に合わなくなるし、かといって神聖帝国の奴らがいるかもしれない通路を走り抜け、万が一にも出会ってしまえば全滅も十分にあり得る。俺の力を出し惜しみせずに使って進むしかないのか――それはともかくだ。


「力を、お貸しくだっ……さいっ! ……あの。駄目なようですが?」

「……いや、もうちょっと笑顔で頼んでみてくれるかな」

 

 チーちゃんが眉間に(しわ)を寄せて睨むように黒水晶に念じているが、ちっとも反応がないと俺まで睨んでくる始末。中に入っているのは警戒心が強い妖精なので、そんな頼み方では出てくることはない。

 

 笑顔で包み込むように魔力を注いでくれと要請すると、わずか数秒でぼんやりとした光が浮き出てきて、手のひらを広げたくらいの大きさの妖精となった。黒肌の“ダークピクシー”である。小心者だが非常に好奇心が強いので、適性ある者が呼びかければ比較的簡単に応じると思ってはいたが……予想以上のチョロ妖精である。

 

 しばらく自分を呼び出したチーちゃんの周りを観察するように飛んでいたものの、問題なしと判断したのか薄青色の翼を畳み、肩にちょこんと乗る。早速、歌うような囁き声で喋り出した。


〖―・――・・―?〗


「……え、なんて言ってるの? というかこれって言葉なの?」

「〖遊んでくれるの?〗と尋ねているようです……あの、力を貸していただけませんか」


 妖精の言葉は風鈴を鳴らしたような音にしか聞こえず、言語かどうかすら分からないと華乃が素直な感想を述べる。しかし呼びかけた者と精霊の間には魔力のパイプができ、言霊(ことだま)となって直接意味が伝わるようになるので心配はいらない。

 

 協力を求められたダークピクシーはコテリと首を傾けて考えるような仕草をしたと思ったら、胸を叩いて立ち上がる。


〖――・・! ――・・―!〗


「〖魔力をもっと。そしたら考えてあげる〗と仰っています」

「それなら千鶴(ちづる)、たんとおやり」


 53階への階段を落下するように下りながらチーちゃんと妖精が会話をしていると、大きなツボを背負った真宮(すばる)が会話に加わる。ツボは見た目以上に重量があるはずだが、それを一切感じさせない走りから相当量の肉体強化が(うかが)える。

 

 続けて52階を下り、51階の階段が見えたところで――

 

「止まってくれ、情報が入った」


 先頭を走っていた霧ケ谷が腕を上げて「止まれ」の指示を出す。この階段をいくつか降りた先で戦闘が起きているとのこと。止まって耳をすませば、確かに怒号のような声と金属音が聞こえてくる。結構近いな。

 

 この辺りを徘徊している戦闘員はどの程度の実力か。ないとは思うが、もし屋上で戦った奴らと同程度の実力者なら、振り切るにしても倒すにしても困難極まることが容易に想像できる。そのリスクを考えれば別のルートから向かった方が賢明か。

 

 この高層ビルには1階から55階までを貫く階段があり、それを利用するのが一番手っ取り早いのだが、当然そこは神聖帝国の奴らが高確率で巡回しているため使えない。したがってビルの東西南北にある4つの非常階段を選ぶ必要があるわけだが……問題はその階段のどれが安全なのか分からないことだ。

 

「こちらへ、わたくしが案内いたします!」


 端末を耳にあてがっていたキララちゃんが、別の方向へと誘導する。先ほどからずっと一人小声で何かを(つぶや)いていたのだが、くノ一レッドと通信していたようだ。

 

 くノ一レッドは、キララちゃんの上司――以前にお世話になったグラマラスお姉さん――が前もってこのビルに潜入して部隊を展開させていたのだが、通信妨害により連絡が途絶し、状況が分からなくなっていたそうだ。しかし俺達が屋上の魔法陣を壊したことで一部の部隊と通信が復活。現在はキララちゃんが仮のリーダーとなって情報をまとめているとのこと。

 

 これで金蘭会とくノ一レッドの双方から敵の位置情報が入ってくるようになったわけか。ならあとはチーちゃんが上手くダークピクシーを手懐けてくれれば魔法陣を探しやすくなるのだが――

 

「……あの。たくさん魔力を注いだのですが、寝てしまいました」

「寝てるというか、酔っぱらってるように見えるけど」


 見ればダークピクシーが肩の上で大の字に寝ているではないか。一応うっすらと目は開けているので酔っぱらっている可能性が高いと華乃が推測する。ダンエクでも大量の魔力を精霊に与えると酩酊(めいてい)状態になることはあったが、ここまで簡単に酔っぱらうとはハズレを引いたか。


 デコピンでもすれば起きるだろうと助言しようとすると、大きな杖を抱えたサツキが走りながら横に並び、小さい何かを手渡してきた。


「ソウタ、これをっ」


 見れば指輪だった。もしかして愛の告白――などではない。何故なら角の生えた厳めしい髑髏(どくろ)の装飾が3つも付いているからだ。これは魔人の城によく転がっているレアアイテムである。

 

「リサが準備(・・)に時間がかかるって言ってたけど、こっちに来て戦うつもりなのかなっ?」

 

 サツキは使えそうなアイテムを抱えて一足先にこちらへ飛んできたわけだが、リサは向こうに残って何かの準備しているとのこと。詳細は聞いていないらしい。

  

 ちなみにこの指輪は[デーモンリング]といってMPを自動消費し、スキルに闇属性を追加するという効果がある。かなり燃費は悪くなるが、闇属性が弱点の敵には攻撃力が大幅上昇するという強力なアイテムとなっている。

 

 しかしミハイロも神聖帝国の奴らも、というか基本的に人間は闇属性が弱点というわけではないので、対人に使ったところで単に燃費が悪くなるだけ。よってこれを渡してきた狙いは攻撃強化のためではない。

 

「リサは本気ということか」

「やっぱりっ、だって凄くピリピリしてたしっ」

 

 リサは闇属性の魔力が満ちた場でのみ自身を大幅に強化するスキルを持っている。つまりこの指輪を使って「場を温めておけ」ということだ。

 

 だがそのスキルは最上級ジョブのエクストラスキル。使用すれば俺の《オーバードライブ》と同等か、あるいはそれ以上の負荷が体にかかり深刻なものとなり得る。余ほどの覚悟があってのことだろうが、今後を見据えた上でここが絶対に落とせない勝負所だと判断したのだ。

 

 とはいえ。俺達が戦闘に巻き込まれたり、リサの出番が来る機会なんて無い方が良いに決まっている。このまま何事もなく魔法陣を壊せますようにと祈りつつ、一応指輪をはめておくとしよう。

 

 

 

「皆様、こちらへ」


 キララちゃんがドレスを翻しながら非常階段に通じるドアを開け、誘導してくれる。照明は小さな非常灯だけなので足元が暗くなっているが、誰も踏み外すことなく数段飛ばしで下っていく。ここにいるメンバーに柔な者などいないので、この程度は造作も――なんだっ!?


「どわっ……ぎゃっふ!」

 

 最後尾にいた俺も後に続いて意気揚々と階段へ踏み出そうとするのだが、突然強い横揺れが襲ってきたため足を踏み外し転げ落ちてしまう。結構いい音で打ち付けた尻を(さす)っていると、さっきまで酔っぱらっていたはずのダークピクシーが、俺の鼻の先まですっ飛んできてピーピーと大笑いしやがる。ダンエクでも妖精という種族は生意気な個体が多かったが、このダークピクシーは輪をかけて生意気のようだ。

 

「ソウタ、足は大丈夫!? 今、回復するからっ」

「いや大丈夫だ。それより今のは……」

 

 サツキが回復魔法を唱えようとしたので、ダメージはないと言って断っておく。しかし超高層ビルにこれほどの衝撃を与える魔法とは。先ほどから非常階段にある小窓がチカチカと明滅しており、明らかに戦いが激化していることが分かる。アーサーはアラクネの体なので死ぬことはないが、せめて魔法陣を破壊するまでは耐えてくれと願うしかない。

 

 しかし、無情にも新たな戦闘情報が俺達の前に立ちふさがる。

 

「待て……また情報が入ってきた。この階段を3つ降りた付近で交戦中だ、回避するぞ」

「ですが、ここから迂回するには大きく回り込む必要がありますわ」


 この先で戦闘が起きていると霧ケ谷が回避の指示を出すと、腕端末を見ていたキララちゃんが懸念の声を上げる。ビルの3Dデータによれば、ここから安全経路を通って別の非常階段に行くには大きく迂回しなければならないと言う。


 何故、神聖帝国はこれほど執拗に待ち伏せするのか。“脱出ゲームの鬼だから”という理由なんだろうが、爆破まであまり時間が残されていないのにどうして悠長に戦っていられるのか。即時離脱できる脱出手段を持っている……もしくは爆破自体がブラフという線もあるのか。いずれにしても確証がない以上、俺達は爆破阻止に動くしかない。 

 

 まずは迂回か、強行突破するかだ。引き続き端末に耳を当ててさらなる情報を集めていた霧ケ谷が、キララちゃんの持つ3Dデータと見比べながら再提案する。


「なら突っ切るか。こちらが優勢との報告だしな。それに――」


 この先には十数人の味方冒険者がいて、対する神聖帝国側は四人しかおらず状況的にも押しているとのこと。さらにその先にはホテル職員専用の“昇降機”もある。もしこれが使えるなら44階まで一気に到達することも可能らしい。

 

 加えて戦闘が起きている場所には金蘭会メンバーもおり、そこまで道を作ってくれるとも言ってきたそうだが……神聖帝国側の強さが気になる。

 

(相手は四人か……どうなんだ?)

 

 屋上で戦ったカフカとスヴェトラーナの二人は、本物の強者だった。それが今回は四人もいるという。しかし、屋上という重要ポジションを守っていたあの二人ほど強いとは考えづらく、またビルを丸ごと爆破されかねない非常に切迫した状況でもあり、俺達に一切の余裕はない。本当に優勢だとすれば多少危険でも行くべきか。

 

 それに今から戦闘が起きると分かっているなら、前もって準備もできる。

 

「隊列はどうするんだい? 僕はこれを背負っているから戦闘は遠慮したいね」

「お兄様が戦えないのは痛手です……ここはやはり迂回すべきかと」

 

 真宮兄は得体の知れない技を持っているはずだが、それを見せたくないのか真っ先に断りを入れてくる。ならば誰が一番危険な切り込み役をやるか。相手は神聖帝国が送ってきた一流冒険者であり、戦争経験者でもある。並の力と技術では斬撃の1つですら受け止めることは難しい。

 

 華乃とサツキはその域まで達していないし、キララちゃんやチーちゃんでも恐らく荷が重いだろう。となれば……はぁ、仕方ないか。

 

「切り込み役は俺がやります―― 《ハンドメイドゴーレム》」

「その技は華乃さんと同じ……なるほどゴーレムというのですか。それを矢面に立たせるわけですね」


 薄暗い廊下で手首を返し、人型サイズのミスリル合金ゴーレムを呼び出す。耐久性は神聖帝国が相手では心許ないが、通り過ぎるだけなので数発も防げれば問題はないだろう。そう頭の中でシミュレーションをしていると、ゴーレムをじっと見つめていたチーちゃんが首を振って俺の提案を却下する。


「失礼ながらこちらのものでは力不足です。そして貴方の実力も大きく不足していると判断します……ダークピクシーちゃんだってそう言っています」

〖――・――・・―!〗

 

 華乃の作り出したゴーレムは全身が純ミスリル製で、内在する魔力もこれより高かった。にもかかわらず神聖帝国が相手では歯が立たなかったというのに、この弱そうなゴーレムで何ができるのか。チーちゃんが静かな怒りを込めてそう(まく)し立てる。


 加えて「この子も〖階段でこけたドジっ子がカッコつけるな〗と仰っています」と、俺の鼻先で長いベロを出す生意気ピクシーの言葉を丁寧に翻訳してくれる。ゴーレムだけでなく、操る俺の実力にも疑問を持っているようだ。確かにそんな不信感しかない者に、皆の命が懸かる重要ポジションを任せたくはないというのも理解できる。

 

 俺を見下ろすように胸を張って仁王立ちするチーちゃんと、その肩の上で同じポーズをして威嚇(いかく)する生意気ピクシー。なんとか言い聞かせられないかと口を開こうとするも「雑魚はすっこんでろ」という強い視線を前に何も言えなくなってしまう。


 だが、その間に割り込む二人がいた。

 

「ま~ったく、チーちゃんは何にも分かってないなぁ。おにぃは最強なんだからっ」

「千鶴、彼ならやってくれると思うよ。任せなさい」

 

 (おにぃ)がどれほど強いか今度じっくり教えてあげると得意げに言う華乃には言い返そうとするものの、兄にまで言われてしまいタジタジになるチーちゃん。最後には俺を睨んで無言の抵抗を試みてくるが、時間がないのでいかせてもらうとしよう。一番危険な先頭にゴーレムを配置し、左手で新たな魔法陣を描きながら指示を出す。

 

「サツキ、動体視力のバフを頼む!」

「了解だよっ! 効果は3分だけですので注意してくださいっ! 瞬視の加護よ、皆の瞳に……宿ってっ! 《アクセラ・ヴィジョン》!」


 サツキが背伸びするように杖を高く掲げると、視界が大きくブレて時がゆっくりと動くような感覚に襲われる。これこそがサツキの就いている【クレリック】の最強バフ魔法。近接戦において動体視力が上がるということは、ステータスや防御力が上がるよりもずっと恩恵がデカいのである。

 

 このスキルに慣れていない霧ケ谷とキララちゃんが(しき)りに手を動かしてスキル特性を把握しようとしているが、この先では攻撃よりも被弾しないことだけに集中して欲しい。

 

「霧ケ谷さん、指示をお願いします」

「戦闘が起きているのは階段を3つ降りた先だ。そこから50m進んで右に曲がれば職員専用の昇降機がある。そして――」


 無事に駆け抜けて昇降機が利用できれば、1分足らずで44階まで到達が可能となる。それによって作られた時間は、魔法陣捜索と破壊のための時間にもなるため、このビルにいる全員の命運を左右すると言っても過言ではない。

 

 だがまずは、誰一人欠けることなく昇降機に乗り込むことだけを考えよう。


 そう言って霧ケ谷が号令をかけると、ミスリル合金のゴーレムはガシャンと音を立てて階段を駆け降りていき、その影に隠れるように俺とキララちゃん、霧ケ谷がついて行く。真ん中にはいつでも回復魔法を捉えられるよう杖を抱えたサツキが続き、後方は真宮兄妹と華乃だ。


 少し下りただけで金属同士のぶつかる音が大きく聞こえてきた。もうすぐそこに神聖帝国の奴らがいてもおかしくはない。神経を研ぎ澄ませ、気を引き締めながら魔力の灯った指で空中をなぞって新たな魔法陣を完成させる。

 

「……《エアリアル》」

「それは何の魔法ですか?」

「どこにでも足場を作れるのっ。でもどうして狭い廊下なんかでそれを使うの?」

 

 緑色の魔力が俺の周囲にふわりと吹き上がると、チーちゃんが目をぱちりとさせてそれは何だと聞いてきた。俺の代わりに答えてくれる華乃だが、さほど広くない廊下でどうして空中戦の用意なんてするのかと首を傾げている。

 

 狭い空間だろうと自在に足場を作れれば戦術の幅を劇的に広げられる。華乃も前々から《エアリアル》を使ってみたいと言っていたので、実戦で見せてみるのもいいかもしれないな。といっても戦うのはゴーレムだが。

 

 

 

 前方は砂埃が舞っていて視界が悪化しているが、俺達は構わず突入していく。金蘭会のメンバーが背後から来た俺達に気付き、霧ケ谷とゴーレムを即座に囲ってサポートに動いてくれる。素晴らしい連携ではあるが、早速――

 

(仕掛けてきやがったぞ)

 

 白いローブを深く(かぶ)り、仮面で顔を隠したナイフ使いが、目の前の冒険者を蹴り飛ばしてジグザグに走りながら向かってきた。味方冒険者が立ち塞がるものの、見慣れないステップですれ違いざまに横腹を斬りつけた後、爆発的な踏み込みでさらに加速してくる。レベル30を優に超えた超一流冒険者の動きだ。


 そのまま壁を駆け上がって先頭を走るゴーレムと俺――は素通りし、その後ろ目掛けてナイフを振りかぶる。霧ケ谷が狙いか。金蘭会メンバーも慌てて反応するが間に合っていない。あらかじめ反転させておいたゴーレムに剣で弾くよう指示を送る。

 

 すんでのところで剣を伸ばし、ナイフを弾くゴーレム。だがかなりの力が入っていたのか火花が激しく散った。

 

『――vei dansa cu mine!』


 ナイフ使いは邪魔されるとは思っていなかったのか一瞬だけ目を見開くものの、再び魔力を爆発させて何かを言いながら壁と天井を跳ね回る。今度はゴーレムに狙いを定めたようだ。

 

(にしても速いぞ……)

 

 狭い廊下を互いにピンボールのように跳ね回ってさらに加速し、嬉々としてナイフを振りかぶってくる。速さだけなら屋上で戦った白ローブ達よりも上かもしれない。あれほどの相手に追ってこられるとさすがに困るので“足止め”の指示を出すと、ゴーレムも魔力を噴き上げて壁を駆け上がる。

 

 すぐに工事現場のような破壊音と金属音が連続で鳴り響き、ゴーレムとナイフ使いによる空中戦が始まった。


「こんなところで空中戦!? でも――」

「どうしてあの貧弱ゴーレムで攻撃を受けられるのでしょう」

 

 ナイフ使いがコンクリートの壁を粉砕するほど強く踏み込み、その運動エネルギーとSTR(膂力)の全てを乗せて斬撃を叩き込む。当たれば自動車一台くらい軽く粉砕できる一撃をゴーレムは空中で上手く受け流し、その反動で体を回転させながらカウンターの斬撃を放って戦っている。

 

 単純にレベルでいえばゴーレムはナイフ使いより10近く低い。にもかかわらず、どうして互角の戦いを繰り広げられるのか、そこにどんなからくりがあるのか早く教えろと華乃とチーちゃんが急かすように問い詰めてきた。

 

 しかし説明よりもまずはこの場から離れるべきだ。あいつは俺が想定していた実力を大きく超えており危険すぎる。ゴーレムもいつまで持つか分からないが、囮として使えば時間稼ぎくらいにはなるだろう。

 

 そう口を開こうとした途端、爆風と共にナイフ使いが背中を向けて近くに着地した。隙だらけだが注意がゴーレムに向いている証拠であり、逃げるチャンスともいえる。

 

 だというのに、怪しく光る小太刀(こだち)を抜いた少女が長い碧髪を(なび)かせて飛び込んでいくではないか。瞬く間に接近し、ナイフ使いの背後から鋭く振りかぶる。

 

「――()ちなさいっ! 《ダブルスティング》!」


 キララちゃんが瞳を殺意で濡らし、参戦した。

 

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