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115 強さへの渇望

「颯太~もう時間だけど大丈夫~?」

 

 階段下からお袋が声をかけてくる。時計を見てみればもう家を出る時刻だ。いつもならカヲルが早めに迎えに来てくれるので正確な時間なんて気にする必要はなかったのだが、ここ最近は赤城君達と練習をしに朝早くから学校に行ってしまっているので一人登校となっている。おかげで気づいたら時間ギリギリだ。

 

「まっ、いつまでもカヲルに頼りきりになるわけにはいかないしな」

 

 最近のカヲルは目つきも変わり、本気で強くなろうとしているのが伝わってくるし、直向きに努力している姿がとても眩しく見える。

 

 俺はといえば元の世界でも自分の学力で届きそうな範囲の大学しか受験しなかったし、仕事においても本気で打ち込んでいたというわけではなかった。こちらの世界に来てからは、強くなりたいというのも――自分や家族の未来を守るためというのは前提として――成り上がりが目的だし、それも努力してというよりゲーム知識を使っていかに安全かつ楽にレベル上げするかを重視していた。だからこそ毎日必死に頑張る姿を見ていると何だか自分を恥じてしまう。

 

「ちょっとは俺も手伝ってあげたいな……」

 

 今までカヲルに近づかなかったのは、自分が退学にならないようにするという理由があったし、赤城君に任せることこそが幸せになれる一番の近道なんじゃないかという考えもあった。だけどそれよりも俺が近づくことで傷つけ不幸にしてしまうんじゃないかという怖さがあった。ただ逃げていただけかもしれない。

 

 最近は多少リスクがあっても手伝ってあげたいという相反する思いがどんどん強くなってきている。まぁ素直にゲーム知識を教えて“こちら側”に呼び込めたらいいんだけどな。内なるブタオマインドも日々そう訴えかけてきているわけだし。ただしその場合、カヲルを不幸にしてしまう覚悟を持たなければならないが。

 

「よし、こんな感じかな」


 姿見で寝癖を直して、他におかしい箇所がないかチェックしてからカバンを持つ。最近の学校は色々とおかしな方向に進んでいる気がしないでもないが、今日も何のトラブルもなく静かな日であることを願うばかりだ。

 

 

 

 もう7月も目前に迫っているため気温と湿度がぐんぐんと上昇し、ただ歩いているというだけで汗が滲み出てくる。痩せていればこれくらいの蒸し暑さはどうってことなかったかもしれないが、またぽっちゃり颯太君に戻ってしまったことが悔やまれる。だがあの時を逃せば一生食えないような豪華メニューをスルーできたかといえば……多分無理なので、これは確定されたルートだったのかもしれない。

 

 世知辛い世の中を嘆いていれば校舎はもう目の前。家から学校まで徒歩5分の距離なので登校しながらではおちおち考えることもできない。下駄箱に靴を入れて上履きを取り出していると階段から何人かが慌てるように急いで降りて通り過ぎて行った。

 

(あれは……クラスメイトだな)


 もうすぐホームルームが始まるというのにどこへ向かうのだろうか。気にせず教室を目指して歩いているとまたクラスメイト達が走ってきて通り過ぎていく。その際に話していることが聞こえてきた。

 

「場所は第二剣術部の部室で合ってる?」

「いや、闘技場だとよ。女子も暴力の対象になるなんてな……」

「いいから急げっ」


 第二剣術部に闘技場。それと女子。どうにも嫌な感じがするぞ……場所は闘技場か。俺も急いで向かおう。

 

 


 冒険者学校には4つの闘技場がある。全てがマジックフィールド内にあり、多少の魔法や斬撃に耐えうる頑丈な作りをしているので授業や部活で鍛錬するときには重宝する場所である。

 

 そのうちの1つ、Eクラスも剣戟の授業で使っている“4番”と書かれた闘技場前に人だかりができていたので早速割り込んでみる。だが入り口周辺の狭いところに数十人が密集しているため、背伸びをしたり顔をずらしても前がどうなっているのかよく見えない。仕方がないので偶然を装いつつ全体の動きを読みながら強引に体を押し込み、少しずつ前に進んでみる。途中、肘やパンチなどが飛んできたがここはマジックフィールド内のため、肉体強化された俺には通用しない。

 

(さて、どうなってる――って、おいおい)


 やっとのことで隙間から顔を出し、最初に見えたのは第二剣術部部員の倒れた姿だ。壁に激突していたり、うつ伏せ、大の字に倒れていたりと倒れ方は様々。ダメージの具合から一撃でやられているように見える。これはどういうことなのか。

 

 闘技場の奥には制服の上着が引き裂かれ青あざだらけの赤城君と眼鏡が割れて髪もボサボサになった立木君。その背後に無傷のピンクちゃんとカヲルがいた。あの姿を見ると赤城君達が襲われたことは分かるが、やり返したからこうなったのではないだろう。“第二”といってもレベル10を超えてくるそれなりの実力者集団。マジックフィールド外ならともかく、マジックフィールド内にあるこの場で戦ったのなら今の彼らでは荷が重すぎる。

 

 次に目に入ったのは月嶋君。闘技場の真ん中で気だるそうにポケットに手を突っ込み、まだ立っている部員らしき人達を睨んでけん制している。どうして彼がそこにいるのか。いや――あの倒れた第二剣術部部員をやったのは月嶋君か。

 

「て、てめぇ、こんなことしてタダで済むと思うなよ」

「死にやが――がはっ」

「糞雑魚のくせにデケぇ口叩くんじゃねぇよ」


 敵意(あら)わに拳を振りかぶってきたガタイの良い部員に対し、冷静にカウンターを決めて壁までぶっ飛ばす月嶋君。今の一瞬の殴り合いを見る限りでは実力の差は明白だ。ぶっ飛ばされた部員はカウンターパンチが見えている気配はなかったし、月嶋君も上手い具合に動きを読んで一撃で気絶させていた。他の部員達もその実力差を感じ取ったのか動けずにいる。

 

 今ので何が起こっていたのかおおよそ推察できるが……最前列にリサの姿が見えたので経緯を聞いてみよう。2~3発の肘を入れられながら身をよじるように前に出て近づいてみる。しかしこの太った体は人混みで想像以上に身動きが取りにくいな。

 

「(リサ、どうなってるんだ)」

「(遅かったわね、ソウタ。早瀬さんが絡まれてここに連れて行かれたって情報があって――)」


 最初はピンクちゃんとカヲルが目を付けられて第二剣術部の奴らに連れて行かれ、赤城君と立木君が現場に駆けつけたという情報が教室にもたらされた。クラスメイト達がどうするか議論している間に月嶋君が一人で走っていってしまったので、それを見かねてリサやクラスメイト達も追ったとのこと。

 

 この場に着いてみれば、もうこの有様。時間的には1分も経っていないはずなのに月嶋君が半数をぶっ飛ばして睨み合いの状態となっていた。それまでは赤城君と立木君が手を出さず殴られ役を買って出ていたそうだが、それも無駄に終わってしまったわけだ。

 

(はぁ……やはり月嶋君が暴走していたのか)


 20階でのプレイヤー会議のときに「月嶋君はそろそろ動く」とリサが言っていたけどもう動いてしまったか。その割には突発的すぎる出来事のようにも思えるので、月嶋君が計画していたこととは違うのかもしれない。

 

 しかし第二剣術部を相手にこれだけの大立ち回りをしたのは問題だ。部員には士族が多く、貴族にも太いパイプがある。それにEクラスを襲うよう指示したのは第一剣術部。きっとこの騒ぎも陰から――そら来たぞ。

 

 

「……どけ」

「ひっ」「きゃーっ!」


 無遠慮に《オーラ》を放つ生徒がやって来て、その重苦しい魔力を前にクラスメイト達が悲鳴を上げながら散り散りになっている。今の魔力量からいってレベル13から15くらいだろうか。だがこれを放った生徒は1年生、つまり下っ端の《オーラ》でこの魔力量である。続いて、しかめ面をしている集団が入ってきた。第一剣術部のお出ましだ。

 

 上は白、下は黒い剣道着。肩には金色の刺繍で“第一剣術部”と縫われており、纏う空気も第二剣術部とは一線を画している。手にはそれぞれ練習用のゴム剣を持っているが、相応にレベルを上げた者が扱えば大きなダメージを与えられる立派な武器となる。第一剣術部は貴族または上級士族のみで構成される人達なので受け答えするにも気を付けなければならないが……不安でしかない。

 

「おい……どうなっている。ここで起きたことを正確に説明せよ」

 

 先頭にいた1年生部員がドスの効いた声で問い質し、近くにいたクラスメイトがしどろもどろになって経緯を説明している。このままでは第一剣術部の敵意が月嶋君に向かうのは時間の問題。状況は最悪と言っていい。

 

「(リサ。第一剣術部の全員が相手では、いくら月嶋君でもヤバくないか)」

「(う~ん……勝てるかもしれないけど~こんなに大勢が見てる場所で本気を出すとは思えないわ。どっちにしろもう見守ることしかできないわね~)」


 最早こうなってしまえば穏便に済むことはないだろうし、リサの言うように俺達にできることはもう見守ることくらいしかないか。

 

(もっとやりようはあったんじゃないのか……)

 

 月嶋君がカヲルの気を引こうとしていたことは知っていた。そのカヲルに暴力が及ぶ可能性があったから本来計画になかった行動にでてしまったのだろう。仮に俺が同じ立場であっても第二剣術部を全員ブチのめしていたかもしれない……が、少なくともアイテムを使って正体を隠したり闇討ちなどの手段を取って騒ぎが大きくならないよう配慮はしていた。

 

 そろそろ動くと言っていた月嶋君にとっては、これほどの騒ぎでも想定内のことなんだろうか。

 

 さらに状況は動く。後ろから剣道着を着た新たな部員達がやってきた。体が一回り大きい者や、家紋入りの剣道着を(まと)った女生徒までいる。第一剣術部の幹部クラスだろう。その中にはEクラスを襲うよう指示したと思われる足利の顔まで見える。


 写真で見たときのイメージよりも体が分厚くて大きい。1年の部員が足利を「副主将」と呼んでいることから、八龍と言われる部長に次いで2番目の実力者と推測できる。つまり次期部長の最有力候補といったところか。厄介な相手に睨まれたもんだな。


「これは何の騒ぎですか。1年、説明を」

「はっ。あそこに立っている劣等クラスの平民が、第二の部員を殴り飛ばしたとのことです。いかがなさいましょう」

「……Eクラスが第二の部員を? ほう」

 

 その報告を聞いて足利は月嶋君の前まで歩み寄る。その表情は怒っているというより、むしろ嬉しそうだ。隠しきれない笑みを浮かべている。目の前に立つと月嶋君の頭から爪先まで観察するようにまじまじ見つめる。

 

「君があれらをやったのですか?」

「……あぁ? それがどうした」


 倒れている第二剣術部の部員を指差して問う足利に、ポケットに手を突っ込んだまま不敵な笑いで応酬する月嶋君。クラスメイト達も不安そうに見守っている。成り行き次第ではEクラス全体に制裁が波及するかもしれず不安になるのも当然だ。


「一応、理由を聞いておきましょうか」

「雑魚がいい加減ウザかったからだ。黒幕のお前をぶっ潰して終わりにしてやるよ」

「私をぶっ潰す……? 平民の君が? ……フッ……フッ」

「あっはっはは」「ハハッハッ」


 最初は静かな失笑から始まり、やがて大きな笑いの渦となった。明らかに月嶋君を馬鹿にした笑いだ。それはそうだろう、劣等クラスと呼ばれているEクラスの生徒が第一剣術部のナンバー2という冒険者学校でも有数の実力者相手に「ぶっ潰す」なんて言葉を吐いたのだ。単なる無知、もしくは何かのギャグと思うのが普通だろう。

 

 部員達が(あざけ)る声を上げたり、せせら笑う。そんな中でも足利の目だけは笑っていない。月嶋君から目を反らさず重心の動きを注視しているようだ。第二剣術部を無傷で複数人倒したということは、それだけでも第一剣術部の末端くらいの実力があることを意味する。足利の不意を突けば倒すまでは行かなくてもダメージを与える力があると踏んだのだろう。

 

 やがて失笑も収まると痛いほどの沈黙が支配する。この後、二人に起こることを想像し周囲が固唾を飲んで見守る中、均衡を破ったのはカヲルだ。

 

「ご、ごめんなさい。私が悪かったんです! どうかお許しください」

「……下がりなさい平民。私はこの男と話しているのですよ」


 決死の覚悟で前に出て頭を深々と下げるカヲル。元はと言えば自分をかばって起こった出来事。反抗する気は微塵も無かったので許してください、と大きな声で言う。だが、足利は目も合わせない。後ろに控えていた第一剣術部の部員がカヲルを追い払おうと前に出て怒気をぶつけたため、月嶋君も手の関節を鳴らしながら前に出る。

 

「下がっていろカヲル。こいつらはすぐに始末してやる」

「待って、落ち着いて月嶋君」


 慌てるように仲裁に入るカヲルをよそに、月嶋君が体内で魔力を巡らせる。場の緊張が急激に高まり、息を呑む音が聞こえてきた。これだけ野次馬がいる中で第一剣術部と戦闘になってしまえばどれくらい巻き込まれてしまうのか被害が予測できない。カヲルもそう考えて止めたのだろうが、足利は戦う気がないのか右手で周囲を制止させて、しばし考えるようなそぶりを見せる。


「待ちなさい。今この場で戦ってしまうというのもつまらないですねぇ……どうせなら、大勢のギャラリーを呼ぶことにしましょうか。生徒会長や他の八龍の方々もお呼びし、誰が次の生徒会長に相応しいか見定めていただきましょう」


 名案を思い付いたとでもいうように身振り手振りを使い仰々しく話し始めた足利。1週間後の放課後、闘技場1番にギャラリーを呼び込んで1対1の決闘を行おうと言う。その間、第一と第二剣術部はEクラスに手出しをしないという協定も付けてもらったのはいいことだけど、他の八龍まで呼び込むなんて……大事になってきたな。


「私に勝てずとも善戦できたのなら我が第一剣術部の入部を認めてあげましょう……それとも、金品などの褒美のほうがいいですか?」

「いい機会だ。何も知らない無知蒙昧の阿呆共に……真の強さってやつを、徹底的に分からせてやる。クックック……首を洗って待ってろよ足利ァ」

「……そうですか。では楽しみにしていますよ」


 思ってもみなかった期待外れの答えに憐れみの目を向けた後、足利と第一剣術部は倒れている第二剣術部の救護もせずに帰ってしまった。入れ替わるようにサツキが保健の先生を連れてきてくれたので後は任せても大丈夫だろうか。

 

 

 

 保健の先生は到着するとカバンの中から魔道具や医療器具を取り出し、最初は壁際で伸びている第二剣術部から触診に入る。その様子を見ながら先ほどの出来事を振り返る。

 

(決闘なんて大事になったな。これはもう動かしようはないのか……?)

 

 相手は八龍と言われ、冒険者学校において高い影響力を持つ第一剣術部。はっきり言ってAクラスと対立するよりも事態は深刻だ。第二、第三剣術部が敵に回るのは当然として、関連する貴族や上位クラスまで動きかねず、そうなれば決闘に勝っても負けてもEクラスは徹底的に追い込まれるしかない。八龍と戦うということはそういうことなのだ。


(今回カヲルは目を付けられているし矢面に立たされるかもしれないな)

 

 月嶋君が暴走しただけ、と言ってもそんなことは通用しない。貴族が決闘をするというのは重い意味を持つのだ。Dクラスくらいなら今の赤城君達のレベルでもやりようはあるんだがな……

 

 どうにか対策を講じたいけど俺にできることなんてあるのかと、あれこれと考えるものの良案など1つも浮かばない。せめて月嶋君が何を考えているのか知りたいと思って見ていると――ん? カヲルと何か話しているな。こっそり近づいて情報収集してみよう。

 

「月嶋君。さっき見せた力は……何なの? もしかしたら大宮さん以上の――」

「色々と都合があって実力を隠していたんだ。それよりも、カヲル……そろそろ頃合いだし俺と一緒に来い。お前にも“強さ”を与えてやるよ」

「……どういうこと?」


 月嶋君に迫られているカヲルを見ていると胸がざわつき始める。“強さ”とはプレイヤー知識のことだろうけど、それを教えるということか。俺だってサツキに教えていたわけで、とやかく言える立場ではない。この先パートナーとしてカヲルをずっと守ってくれるなら、俺は……


「アイツらをぶっ飛ばしたのも全てお前のためにやったことなんだぜ。俺ならお前を“超一流冒険者”まで引っ張ってやれると約束できるし、その時が来るまで守ってやれる。なぁ“強さ”を欲しくはないのか? 」

「私は――」


 そう、カヲルの夢は一流冒険者になること。個別ストーリーを最後まで進めてたことのあるプレイヤーなら誰でも知っている情報だ。

 

 ゲームではその夢を叶えるために暴力が渦巻く酷い学校生活を送りながら、汗と泥に塗れ足掻きながらも愚直に強さを求めていた。この世界でのカヲルもその心情は変わっていない。今朝だって早くから学校に行き、自らを追い込んで鍛えていた。強さに対する渇望は人一倍あるのだ。

 

 そしてゲームでのカヲルが恋に落ちた決め台詞も「一緒に超一流冒険者になろう」だった。主人公の強さに惹かれ憧れたカヲルは「この人となら自分の夢を叶えられる」とその手を取って誘いを受けたのだ。だからこそ先ほどの月嶋君は「超一流冒険者」という口説き文句を使って攻略(おと)しにかかったのだろう。

 

 カヲルだって第二剣術部を圧倒した現場を目撃したのなら、月嶋君の強さがブラフではないことくらい気づいているはず。共に歩んで行けば強くなれるという可能性にも。事実、プレイヤー知識を手に入れたなら一流冒険者の領域に届く可能性が極めて高くなる。

 

 逆に月嶋君にしても、しっかり者で頭も良いカヲルからいつでも助言をもらえるなら暴走気味な性格や行動にも落ち着きがでるかもしれないし、カヲルの信頼まで得られたならダンジョン内外でも強力な相棒となり支えてもらえることだろう。つまり、二人がくっつけば互いに大きなメリットを享受できる話となるのだ。

 

 戸惑い逡巡するカヲルの手を取ろうと、月嶋君がさらに迫る。それを見た俺の心がさらにざわつき、鼓動が早くなる。俺はこのまま見ている――

 


(――わけがないだろ)

 

 後ろからカヲルの手を引いて俺の元に引き寄せると、カヲルは驚いたのか切れ長の大きな目を僅かに開きながら不思議そうに俺を見ている。何故出てきたの、とでも思っているのだろうか。

 

「何のつもりだ……ブタオ。冗談抜きでぶっ殺すぞ」

「……いやぁ、まぁあの……」

 

 俺の中のブタオマインドがうねるように燃え上がったせいで、衝動的に体が動いてしまった。大事なところで水を差された月嶋君は機嫌を大きく損ね、物凄い形相になっている。今にも襲いかかってきそうじゃないか。

 

 後先考えずに間に入ったはいいが……さてさて。どうやって切り抜けたもんかね。

 

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