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099 クラス対抗戦結果発表

 ―― 早瀬カヲル視点 ――


 試験の終了時刻となり、各生徒の腕端末に終了を知らせる通知が一斉に発せられる。クラス対抗戦運営本部が設置されている冒険者ギルド前広場では、順位や点数などの結果発表が行われることになっているので、それを見に各クラスの生徒たちが続々と集まってきており、上位クラスではどこが勝つのか話に花を咲かせている。

 

 一方の私達は散々であった。順位も最下位は確実。それでも次回に活かそうと悔しさを目に焼き付けるためにEクラスの皆と一緒にやってきた。他のクラスからも分かりきった結果を何故聞きに来たのかと白い目で見られているけど、それも承知の上だ。

 

 そんな視線を無視するように時計を確認する。そろそろ結果発表の開始時間になる頃。前を見れば運営本部内で先生やスタッフの方達が慌ただしく動き回っていた。


『それでは集計が済みましたので、クラス対抗戦の結果発表に移ろうと思います。映像の方は……大丈夫のようですね』


 広場に特設された壇上にて、三十代くらいのスーツを着た女性がマイクを持ち、後ろにある大きなスクリーンを確認しながら説明する。冒険者学校1年の学年主任だ。

 

 その少し離れたところでは数人が大きなカメラを構えている。あのカメラで撮っている映像は、指定のアドレスを入力すれば腕端末からでもアクセスして視聴できるようになっている。まだダンジョン内にいる生徒でもライブ映像で確認することが可能だ。


「はぁ……間に合ったぜ。思ったより手こずった」


 後ろから私に声をかけてきたのは「大きな魔石を取ってくる」と豪語して勝手にグループを抜け出した月嶋(つきしま)君だ。約束の魔石はすでに取ってきて登録を済ませたというけど本当だろうか。

 

「ま、Aクラスでも取ってこられないような魔石を取ってきたから期待してくれよな」


 ウィンクしながら自信ありげに胸を張って言う月嶋君。期待してと言われても……できることなら最後までトータル魔石量グループを支えてほしかったのに。仮に言っていることが本当だとしたら何故そんなことが可能なのか気になってしまうけど、とりあえず今は結果発表を聞くことに注力しよう。


『では発表します。1位はAクラス。846点。内訳は――』


 後ろのスクリーンには1位であるAクラスと点数、その内訳が表示される。今朝の朝9時に発表されていた途中経過では、いくつもの種目でリードしていたので驚きはない。


「おっしゃー!」

「やりましたわ、世良(せら)様!」

「皆様、頑張ってくれましたわね」


 前方にいるAクラスの集団から歓声が上がる。内訳は「指定ポイント到達」、「到達深度」、「指定クエスト」の3種目で1位。特に指定ポイント到達では他クラスを圧倒した点数を叩き出していた。ユウマもこの種目では最後まで頑張っていたものの、経験とレベル、そして助っ人の有無の差は大きく、覆しようがなかった。

 

「あのクラスは層が厚すぎる。うちのクラスと違って雑魚は一人もいねぇからな」


 月嶋君が辟易(へきえき)しながら呟く。Aクラスには落ちこぼれなどおらず、誰が出てきてもそれなりの戦力になる強みがある。また、首席で入学した世良(せら)桔梗(ききょう)さんや次席の天摩晶さんなど突出した生徒がいるため多少の無理も通せる。何の種目でも、どんな振り分け方にしたところで隙がない学年最強のクラスがAクラスだ。

 

 あの場所をずっと目指して頑張ってきたけど、今の私では遥か遠くに(かす)んで見えてしまう。弱気になりかけた考えを払拭するように頭を振って、次の発表に耳を傾ける。

 

『次。2位はBクラス。828点』


 僅差でAクラスに敗れたと分かり、Bクラスの方からため息と残念がる声が聞こえる。Aクラスとは強烈なライバル意識を持っている生徒が多いようで何人かは睨み合っているのが見える。


「くそっ、たった18点差か」

「周防……すまない」

「皆、頑張りました。次こそは勝ちましょう」


 1位となったのは「指定モンスター討伐」、「到達深度」、「トータル魔石量」で、それ以外は2位。Aクラスとは実力差がそれなりにあると思っていたけど、こうして点数の内訳を見るとほぼ互角。実力者も多く在籍しているようだ。到達深度の同率1位というのは、Aクラスと協定でも結んでいたのだろうか。

 

 集団の中央ではクラスリーダーらしき長い黒髪の男子生徒――たしか周防君だったか――が周囲のクラスメイトに声をかけて(なだ)めている。もしかしたらこれだけ健闘したのも彼の人望や統率力が高いから、という線も考えられる。あとでナオト達と情報を分析、共有しておきたい。

 

『次。3位はCクラス。438点』

 

 2位のBクラスから大きく引き離されたCクラス。ほぼ全ての種目の2位以内をAクラスとBクラスが独占していたために、これほど点差が開いたのだ。だけどレベルや装備を見た限りではそう劣っているようには見えない。個々で見てもあの和風の鎧を着た男子生徒など優秀な生徒もいる。どうしてここまで点数差が出たのだろうか。

 

「Cクラスは助っ人が来ないからな。バックにゃ強力な組織がいるんだろうが、貴族連中のように過保護じゃねぇ。いちいち生徒同士の試験なんかに介入してこねぇよ」


 確かに助っ人がいなければ厳しい戦いとなるのは身をもって体験している。結局、上位クラスと渡り合っていくためには対抗して助っ人を用意するか、助っ人ルール自体を排除しなければならない。いずれにしても難しい問題だ。


 次は4位の発表のはずだけど……なにやら先生方がごたついている。何かが起きたようだ。様子を見ていると磨島君が状況を教えてくれる。

 

「早瀬。集計直前で点数の加算があったみたいだぞ」

「点数の加算? Dクラスかしら」

「オレが取って来た魔石のせいかもな」


 私達のクラスに点数加算なんて思い当たらないのでDクラスかと思いきや、隣で「オレに期待しろ」とニヤケ顔で言う月嶋君。でもそこそこの高レベルの魔石を取ってこられたとしても、それだけではDクラスの点数には届かない。つまり順位の変動は起こりえない。

 

 ――そう思っていたのに。


『失礼。それでは4位。Eクラス。349ポイント』


「何っ!?」

「え、どういうこと?」

「内訳が出るぞっ」


 Eクラスだけでなく、上位クラスまでもが一斉にどよめき驚きの声を上げる。それはそうだろう、今朝の点数発表まで4位のDクラスに100点以上引き離され、ダントツでビリだったのだから。私も、そしてクラスメイト達も理解が追いついていない。何が起きていたのか、皆がスクリーンに映された点数内訳を食い入るように見つめる。

 

 ナオトが率いる「指定クエスト」が3位ということに驚きはない。途中経過で上手くいっていたということは知っている。だけど「指定ポイント到達」と「指定モンスター討伐」は最下位で点数はほとんど入っておらず、「トータル魔石量」にいたっては失格で0点。

 

 そう、ここまでは今朝見たときと同じで絶望的ともいえる点数だ。ここでDクラスに逆転できるなど誰が考えよう。でも――

 

(到達深度が……1位!? どういうこと。颯太は何をしていたの……)

 

 トータル魔石量グループが失格となったことを颯太に伝えようと昨日から何度かメッセージを投げていたのだけど返信はなし。その前にも現在どこにいて何をしているのか確認を取ろうとしても反応はなかった。同率1位ということは20階まで……まさか上位クラスに最後までついていっていただなんて。なんという無茶を。

 

 そこまでいったのなら、高レベルモンスターの《オーラ》を少なからず何度も浴びたことだろう。金蘭会の男の《オーラ》ほどではないにせよ、遥か格上のそれは精神を(むしば)み弱らせてしまう。小心者の颯太なら無茶はしないと思っていたのに、どうしてそんなところまで……

 

 さらに疑問が浮かぶ。AクラスとBクラスはどうして颯太の帯同を許したのか。相手は貴族様ばかりで大量の助っ人を囲っていたし、わざわざEクラスと協定を結ぶ理由はない。気まぐれで帯同を許してくれたにしても、レベル3の颯太を20階まで連れていくのは危険すぎる。無事なのだろうか。

 

「だが……これでも逆転にはほど遠いはずだ。どうなっている」

 

 隣で磨島君が(いぶか)しむ。そう、仮に到達深度が1位だったとしてもDクラスとの点数差が開きすぎて逆転は無理のはず。他に理由がないか、大きなスクリーンに映された項目を念入りに探しているとその理由が新たに表示され、生徒達が再度どよめくことになる。

 

「”魔石格”!?」

 

 魔石格。魔力の一番多い魔石を取ってきた順に点数が入るという種目だ。魔石の格が高いものほど特別ボーナスも入る。当然そのような魔石を取るためには、首席や次席でも倒せないほどの高レベルモンスターを倒す必要がでてくる。魔石格は点数が大きいものの、Eクラスの戦力ではそんな魔石を取ることは不可能なので作戦上、最初から除外していた種目――だったはずなのに。

 

 しかも取ってきたのはただの魔石ではないようだ。

 

「レベル25の……それもレイドボス級の魔石をうちのクラスの誰かが取ってきたというのか!?」

「もしかして……月嶋君が取ってきたの?」

「……いや。オレが取ってきたのはアレじゃねぇな。誰だ」


 魔石格を私達Eクラスが取ったことに驚きつつも、大きな声で周囲から情報を聞き出そうとする磨島君。月嶋君が「大きな魔石を取ってきた」と言っていたので一応聞いてみると、取ってきた魔石はあれとは違うという。じゃあいったい誰が。


 レイドボスとは特殊な条件下でのみ呼び出すことのできる特別なボスモンスターで、フロアボスよりも強力な個体が多いと聞く。落とす魔石の魔力量も一般モンスターのそれと比べて桁が二つほど変わるという。レベル25のレイドボス級ともなればもはや貴重すぎて財宝ともいうべき代物だ。

 

 問題は、そんなモンスターを倒す難度。恐らく金蘭会の加賀と同等以上の冒険者をダース単位でバランスよく集める必要がでてくるだろう。助っ人を頼りにできないEクラスの生徒にそんなものを取って来られるとは到底思えない――けど、実際に点数として加算されているのだから信じざるを得ない。


 クラスメイトがそれぞれ思いを巡らせていると、上位クラスのほうから大きな声が聞こえた。


「どういうことですかっ、世良桔梗!」

「私も存じません。でもまさか……そうとしか考えられませんわ」

「劣等クラスのレベルは確認済み。ならばアレを天摩一人で倒したと言うのですかっ!?」


 突然の大声に皆が振り返って注目する。目を剥いて怒声を放っていたのはBクラスリーダー周防君だ。あのような取り乱し方はしないと思っていただけに私も驚いてしまった。話しかけている相手は学年首席である世良さん。彼らは何かを知っているのだろうか。


「先生。その魔石は“大悪魔”の魔結晶でしたかっ!? データを見せてください」


 周防君が壇上にいる学年主任に詰め寄ってデータ開示を求める。クラス対抗戦では倒されたモンスターと、倒した人数、名前まで腕端末は細かく自動集計している。もしレイドボスを倒したのなら、誰が倒したのか分かる仕組みになっている。


『場所は20階、大悪魔(レッサーデーモン)の討伐を確認しています。討伐者は天摩晶、久我琴音、成海颯太の3名』

「な、なんだと! あの大悪魔を!?」

「3名? ありえないだろっ! 助っ人が手伝ったのかっ」

「天摩は分かるが、残りは誰だ」


 レイドボスの名を聞いて誰もが驚く。しかもたった3名で……助っ人の力を借りた? それなら「討伐3名」とは表記されない。大悪魔とは有名なモンスターのようだけどどんなモンスターなのか……ユニークネームが付くくらいなので、まともなモンスターではないのだろうけど。

 

 それに驚くべきポイントはまだある。颯太はもちろん、久我さんまでいたことだ。彼女もトータル魔石量グループを抜け出していたけど、まさか20階でレイドボスと戦っていただなんて。想定外のことばかり起きてその時の状況が皆目見当つかない。

 

「ブタオは違うな……あいつは単なるモブ野郎に過ぎない。天摩も現時点ではレベルが足りてないはず。久我はどうなんだ……仮に本気を出したなら……」

 

 ブツブツと独り言を言う月嶋君。最近の颯太がどれほど実力を伸ばしているかは分からないけどレイドボス戦なんて明らかに無理だと分かるし、ちょっと前までEクラスの落ちこぼれだった久我さんも同様に違うはず。なら天摩さんが一人で倒したのだろうか。たとえ倒せたとして、どうしてその魔石がEクラスのものになっているのか。

 

(何もかも分からない……それなら)


 そう思い立つと腕端末から電話画面を呼び出し、颯太に通話をかけてみる。だけど何度コールしても一向に繋がらず、送ったメッセージも既読にならない。もうっ、何をしているの。せめて無事かどうかだけでも知りたいのに。磨島君や他のクラスメイトも同じようにメッセージを送ったり通話を試みるものの、結果は同じようだ。


『静粛に。最後に5位を発表します。Dクラス――』


 衝撃の事実により、もはや結果発表どころではなくなっており誰も聞いていない。多すぎる疑問が憶測を呼び、情報が錯綜(さくそう)している。クラスを飛び越えて情報を交換し合う姿も見える。磨島君も上位クラスから颯太と久我さんがどういった人物なのか問われているけど、私達ですら何がなんだか分かっていないのに、答えられるものなんてないと思う。

 

 

 そんな雑多とした人混みの中を鮮やかな碧色の髪を(なび)かせて優雅に歩く者がいた。(たたず)まいからしてただ者ではない。

 

 ふと私と目が合うとにこりと微笑み、真っ直ぐこちらに向かってくるではないか。

 

「ちょっとそこの貴女。ここに成海颯太というものはいるかしら」

 

 折りたたまれた黒扇子を私の方へ向けた後に、パッと開き、上品に口元を隠す女生徒。スカーフの色が青なので二年生。胸には金色に輝くバッチが付いていることから貴族様だと分かる。思いもよらぬ身分の人に話しかけられ、心臓が跳ねてしまう。

 

「……颯太はまだダンジョンの中だと思いますが……あの、どちら様でしょうか」

(くすのき)雲母(きらら)と申しますわ。明日、予定通り()()()が開催されますので、くれぐれも遅れのないようにと伝えておいてもらえるかしら」


 そう言うと、スクリーンに目を移し「ずいぶんと目立つことをするのね」と独り言ちる。楠雲母といえば、確か八龍のリーダー的存在ではないか。そんな大物がどうして颯太と……お茶会?

 

 驚きの事実が怒涛のごとく襲い掛かり、もう頭がオーバーヒート寸前。颯太の電話番号を見つめながらその場で立ち尽くすことしかできなかった。


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