表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

今井隼人編 彼女は天使になってもなお、彼を想う

 私は少しだけ月を眺めていましたが、話に戻ることにします。


「それで、本題に入ってもよろしいですか。紗那さん達が私の元に訪れた理由を聞かせて頂けないでしょうか?」


 私が月を眺めるのを止め、見習いとは言え天使と転生した紗那さんに向き合う。彼女は少し説明を始めるのに躊躇(ちゅうちょ)したものの、話しはじめました。


「それはですね、私の初めての天使として仕事。生者、死者問わず、歪んだ魂の持ち主を清く(ただ)す。その相手が、今井隼人(いまいはやと)だからです」

「今井隼人さん……それは確か紗那さんの想い人でしたね」


 今井隼人。本条紗那さんの想い人。本来彼女との未来があったものの、運命のいたずらか、その糸は切れてしまった相手。考えると心が少しだけキュッ締め付けられる。


 ルクスさんが紗那さんの肩に飛び移る。


「そいつの魂が不安定な状態でな。そりゃ好きな女が、ついさっき居たはずなのに消え、知らず死んだんだからな。それをこの嬢ちゃん自ら安定させるのが初仕事となるんだわ。それでみーたんに手伝ってもらいたいって訳よ」


 ルクス様は青と赤のオッドアイの色をした瞳でそびえ立つビル群を見る。その瞳はまるでこの先の未来が視えているかのうようでした。


「事情は分かりました。紗那さんを見送った担当も私ですし、彼女の時間を増やし時間軸を歪めさせた責任があります。私に出来る事があればご助力させて頂きます」

「はぁー!良かったです!私一人だとこんな重要な役割、いきなり一人で出来るか不安で不安で輪っかが外れそうでした」


 紗那さんが深々と私達にお辞儀をする。少し緊張していたらしく、ぴんっと上向きに上がっていた羽が、力みが解けて少し垂れ下がっていますね。元の人間だった頃の性格や記憶を紗那さんはしっかり引き継がれているようです。


 私は自身の記憶をあまり覚えていません。正確には長く死神をやっていて忘れたのか、始めからなかったのかすらあやふやです。だからこんな風に人間らしい紗那さんを見ていると、胸の奥が妙にくすぐったくなりますね。いえ、そうじゃないかも知れませんね。きっと自分に欠けた部分を彼女に求めているのではと、どこからともなく声がしたような気がしました。


 ――ミーシャは本当に優しい子ね。


 ずっと昔誰かにそんな事を言われたような記憶だけはあった。


「それじゃあ、早速だがその隼人君の所に行ってあげねーとな。ただ一つ、嬢ちゃんは新米で何も知らないと思うから、俺から特別に色々レクチャーしてやろう。フォルトゥナや他の神はいつも放ったらかしだからな」


 ルクス様はミーシャのそばを離れ、宙をふわふわと浮きながら解説を始めてくれます。


「俺達神や女神、死神や天使は(じか)に生者へ干渉が出来ない。お嬢ちゃんの時のように死が確定した者は別でみーたんのように死神が行くようになっているがな。分かるな?」

「はい、分かります。それならどうやって私たちは隼人に干渉すれば良いのでしょう?」


 紗那さんは目をぱちくりとして、疑問だらけの頭で考えているようですが、やはり想像できないようです。無理もありません。天使に生まれ変わったばかりなのですから。


「そうだな、もっともな質問だ。単刀直入に言えば、相手の魂に俺達が直接干渉するには、夢の世界に入り込むって事だな」

「夢に入って干渉ですか…?なるほど、それで隼人の魂を導けば良いのですね、ルクスさん」


 紗那さんはルクス様を見ていますが、どうやらそれだけではないらしく、ちっちっちっと前足を振ってもったいぶっていますね。ルクスさんらしい話し方です。


「簡単に言うが、実は色々制限があるんだよ。これは大切な事だから良く聞け嬢ちゃん」

「それはどう言う事でしょうか?」


 紗那さんが問い返すと、ルクス様はまた私の頭をぽんぽん叩いて、お前が説明しろと言わんばかりに促してきました。私は意図を理解して、話の続きの説明をします。


「生者の魂に天使が干渉出来る時間も無限ではないのです。人間の時間で換算すれば30分しか干渉する事が出来ません。これは死神も基本的に死者に残された時間与えられる30分と同じです。そして失敗した時は二度目がありません」

「たった一度のチャンスで、たった30分ですか……?それでどうにかしないと隼人が変な気を起こす可能性が」


 紗那さんの眉間に(しわ)が寄っています。あまりにも時間が少ない、自分には出来ないのではと、不安が募っているのが端から見ても分かりますね。いきなりの事で失敗したらと、恐怖が心を支配しているようです。


 そんな紗那さんを気遣ってルクス様が彼女の頬をぺしぺし叩く。激を飛ばしているのでしょうね。


「そんな心配すんなって嬢ちゃん。だから俺とみーたんが居るんじゃねぇか」

「そうです、紗那さん。力を貸すって約束しましたよ」


 私は紗那さんの不安を消そうと思い、そっと両手を掴むことにしました。


「確かに時間は30分ですが、私の力を足して1時間にする事は出来ます。これは正当な手順を踏めば、問題ありません。ですが1時間以上には増やすことは出来ませんし、長い時間とは言えないでしょう」

「そうですか。でも時間は倍になったんです、私絶対隼人を元気にさせたい! だからミーシャさん、ルクスさん。私に力を貸してください。お願いします!」


 私とルクス様に頭を下げて紗那さんは頭を下げてきました。


 そんな態度が微笑ましく思えます。これほどまでに愛された今井隼人は本当に幸せ者ですね。だからこそ彼女の期待に応えたい。そう心の底から思います。今井隼人は辛い思いをしているだろう。だからこそ紗那さん本人が救わなければいけません。


「紗那さん、頭を上げて下さい。私達で彼を正しく導き、助けてあげましょう。しかしそれは貴女次第です。本気で救う気持ちがあれば、何も問題はありませんよ」


 私は出来るだけ彼女を安心させたいと思い、出来る限り苦手な笑みを浮かべました。少しでも不安を払拭できたかは分かりませんが、少しは安心してくれたみたいです。


「ミーシャさんってやっぱり天使みたいですね。天使になった私が言うのも変ですけど、とっても優しくて、穏やかで。私はとっても尊敬しちゃいます」


 天使の紗那さんに言われると、少し恥ずかしいです。


 不幸な境遇で命を()やしてなお、天使に転生した紗那さんはそれでも笑顔を浮かべていたのだった。

8話と9話をミーシャ自身の視点として書き直させて頂きました。


ご勝手ではありますが、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ