はじめに
まず言っておくが、私は普通である。
普通、というのは容姿とか学力とか運動神経とかではない。性癖のことだ。
痛めつけるのが好きだとか、その逆だとか、同性の子が好きだとか、いや、むしろ両方いけるとか、そういうやつ。
私は普通に異性のことが好きだ。15歳の女子。卒業式を迎え、もうすぐ晴れて所謂JKというやつになるから、それはもう興味津々である。経験がないからよくはわからないけれど、少ない知識を総動員して、ひとりベッドの中で悶々とする夜もあったりなかったり。
今は、卒業式がちょうど終わったところ。クラスメイトと別れた私は、校舎裏の人目に付きにくい場所に呼び出されていた。
敷地をぐるりと囲むように植えられた満開の桜から散った花びらが、風に吹かれてひらひらと舞って、地面に薄桃色の絨毯を作っていて。
その中心に私は立っていた。
「――先輩、あの、先輩!」
「っと……ああ、ごめん」
その景色につい見惚れていて、待ち合わせ相手が来たことに気づかなかった。
目の前にいるのは、部活の後輩だった。確か、バスケットボール部の子、だったと思う。一年生。私と較べると、頭二つ分くらいは小柄だ。
「話って、何?」
この状況で何の用事かと言われるともうアレしかないと思うが、一応、確認はしておかないといけないだろう。
不正確なことは、ちゃんと正確に確認すること。
いつも厳しいが、尊敬できる兄の教えだ。
「あの、その……」
「落ち着いて深呼吸して。話を聞くまで、私はここから逃げたりしないから」
「は、はいっ」
私の言葉を聞いて、後輩くんはゆっくりと深呼吸する。緊張で震えているのか、時折息がかすれている。
少しして気持ちを落ち着かせてから、後輩くんは意を決したように口を開いた。
「あの、私、先輩のことがずっと好きだったんです!」
「…………」
勇気を振り絞っての告白。ストレートに好意をぶつけてくれるのは、そう悪い気はしないのだが――。
「……ごめんね。私、男の子が好きだから」
さすがに女の子の気持ちを受け入れるわけにはいかないし。
しょんぼりと肩を落とし、友だちと思しき女の子たち支えらながら小さくなっていく後輩くん(女子)の背中を見送りつつ、私、七原七香の卒業式は終わりを告げた。
ちなみに男性からの交際の申し出はなかった。
この青春の味は、私にはちょっとうまく表現できそうにない。