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09 IF [ 14th Daily-life ]「第二章 彼女も何かを楽しんでいた」

 本編第43話の途中からの分岐IFエピソード『14回目』の第二章分です。01同様、それまでの『白鳥先生』の言動も適宜変わっていると想定して下さい。たとえば、3月下旬のサイクリング。白鳥先生ってば、安藤くんひとりだけを誘ったんですってよ、奥さん(誰)。

 ゴールデンウィークが近づいた頃、必要な事柄がだいぶ前倒しできたことに安心した(菜摘)は、前回できなかったことを行おうと考えた。すなわち、


「私も合唱に参加しようかな?」

「「「「「伴奏に専念して下さい」」」」」


 クラスメートたちみんなにすぐ却下されてしまった。ぐっすん。


 しかたがないので、更なる前倒しと強化を期待して動くことにした。


「柿本くんって、この頃から北欧神話について調べていたよね? 冬のトンデモ本とは別の文献を探してみようか?」

「あー、そうだな。笹原、今度こそいけるか?」

「ある……県内大学、図書館」


 県庁所在地にある大学のため、割と近場のようだ。あれ、でも。


「それなら、前回そっちを先に見に行けば良かったんじゃあ」

「つまりこいつは、最初からメイドカフェ目的だったわけだ」

「痛い……誤解……」

「ちょっと柿本、女の子になにしてんの!」

「こいつが女の子ってタマかよ」

「とにかく、頭をグリグリとかやっちゃダメ!」

「いや、お前だって何度もやってきただろが。『ハプニング』の時とか」

「私はいいの! っていうか、アレってみんなあんたが実行犯でしょうが!」


 うーん。柿本くんの笹原さんツッコミはいつものことだけど、前回よりもだいぶ距離が近い? あと、湯沢さんの柿本くんツッコミも容赦がなくなってきたような。でも、湯沢さんはどちらかというと笹原さんをかばう感じだし。そういえば、前回も冬頃になると、安藤くんや鳴海さんよりも、この3人と一緒に帰宅することが多くなった気がする。


 いずれにしても、クラス委員長になったからといって、『その方面』にまで口を出すのは間違いだ。私が知らない12周回の積み重ねもあるわけだし、温かく見守ることにしよう。


 と、いうか。


「安藤くん、ゴールデンウィーク初日にまた山に行かない?」

「あっ、は、はい、いいですね」

「そうだ、安藤くんの自転車、ギア付きに変えない? 坂も走りやすいと思うから」

「え、でも、お金が……」

「私に任せて、安いところ知ってるから。あ、集合場所は今度も安藤くんの家ね」


 こちらはもう放置でいいかなあ。もう、誰かが何かフォローする必要もなさそうだよ。こう言ってはなんだけど、他のクラスメートたちも既に胸焼け状態らしいし。私? うーん、まあ、うまくいってるならそれでいいかなと。



 次の土曜日。私は柿本くん、笹原さんと一緒に、予定通り県内大学の図書館に来ていた。が。


「……初歩的(Elementary)

「おっ、原作に沿ってるな」

「全部覚えたの?」

「まあな」

「原文?」

「原文。ネットで全文が読めるし」


 なぜ、この世で最も有名な諮問探偵の話を始めたかというと、探していた書籍がまた空振りだったからである。実に、初歩的な理由で。


「ラノベとかさあ……」

「あれも、ラノベ。挿絵も」

「お前は萌えがなきゃ認めねえだろ……って、そっちか!」

「……初歩的」

「マジかよ」


 困った。有名作品だけに、今回ばかりは理解できてしまった。あああ……。


 ということで、その有名作品を原案とした数十年前のライトノベル作品に、なぜが北欧神話がメインテーマとして絡んでいたのである。そして、メインタイトルもそれっぽかった。トドメが、文献データベースに出版社名もISBNも入ってなかった。発売当時は手作業で入力していた時の名残だったようだ。


 近場だけに、すぐ撤退するのももったいないということで、大学図書館で他のジャンルの書籍類も手に取ってみる。


「大学の図書館って、何十年どころじゃないほどに古い本も残ってることがあるよな。学術限定だけど」

「ラテン語……豊か」

「本当だね。あれ、でも用語が古い」

「使ってる字からして違うこともあるからな。あ、用語と言えば……」


 ぱらぱら


「あー、やっぱり。『タイムリープ』って和製英語だわ」

「あれ、そうだったの?」

「タイムトラベルとタイムワープは英語圏でも使われているけど、タイムトリップ、タイムスリップ、そして、タイムリープは日本のSF作品にしか出てこないって」

「タイムトリップやタイムスリップがタイムトラベルの一種のように使われているのはわかるけど、タイムリープは……今回の私たちの現象よね。記憶だけの移動」

「そうとも……限らない。作品によっては」

「とにかく、日本だと割と細かく定義する作品が多いってことだな。なぜだろうな」


 実際のところ、ウチのクラスでも『変動率』という言葉をあらためて定義して、いろんな出来事を記憶を頼りに整理して見通しを立てている。まあ、この周回では、見通しが立たなくなるほど変動率が大きくなったというか。見通しを立てる必要がなくなるほど、の方が正確だろうか?


「あー、もう、神様説もどんづまりだぜ。この周回で打ち切りにするかな」

「でも、さっきの用語じゃないけど、SF的な観点も厳しいよね。科学的な原因が見つからないというか」

「神でもなく……自然現象でもなく……」

「なら、やっぱり人間の『誰か』なんだろうな。超未来人が俺達で実験でもしてるのかね」

「それも厳しいと私は思うんだよね。過去に変化を与えたら、その時点で自身を否定しかねないよ」

「因果関係の崩壊、かあ。安積さんの説でもダメなら、下手に考察せずに、なるようになるって思うしかないよな」


 そうなのだが、なんというか、私は『因果関係』のあたりで何かが引っかかっているのである。私たちにとっての時間の流れは因果関係の連なりとしても認識できるけど、それは本当に物理的な(・・・・)時間の流れ(・・・・・)と同じなのだろうか? 別のものだとすれば……どんな事が起き得るだろう?



 ゴールデンウィークが始まった。昨年度のことを思い出してみると、ドバイにいる両親とフォルトゥーナの件が片づいていることで、だいぶやりやすくなっている気がする。まずなにより、ライブに行ってプレミアム会員になる必要が……


「あ、だめだ。瑞希と『再会』しなきゃ」


 我ながら、薄情な性格になっちゃったなあと感じた瞬間だった。いやいや、あれは偶然の再会だったのだから、既に変動率が高い今、前の周回の経験を踏まえて新しく行動を決めなければならない。普通に連絡をとって会えばいいかな? いや、それならついでに……。


「なっちゃーん、会いたかったよー!」

「ごめんね、こっちの県まで来てもらって」

「気にしないよー! どうせ明日、こっちでやる『フォルトゥーナ』のライブに参加するんだから!」

「今晩はウチに泊まってってね。ウチといっても、この子のウチだけど」

「こ、こんにちは」

「こんにちは……」

「なっちゃんの従兄弟とそのガールフレンドだね。よろしく!」


 というわけで、司とみなみちゃんを電車で猫カフェに連れて行くイベントと抱き合わせてみた。つまり、


「で、このふたりが、今のクラスメートの、湯沢さんと鳴海さん」

「よろしくー」

「よろしくお願いしますね」


 ということになる。他のクラスメート達はこの周回ではライブに行く必要がなくなったけど、そうすると夏まで会う機会がないので、ふたりにだけは会ってほしかったのだ。そしてそれは、司にも言えた。だから、ちょうど良かったわけである。


「よ、よろしく、お願いします……」


 あれ? なんか瑞希の反応が固い……ああ、そっかそっか、『芸能人オーラ(仮)』かあ。いやあ、この周回では私自身も最初からみんなと美容テクニックを駆使してきたから、この状態がデフォルトになってるのよね。


「な、なっちゃん、このふたりに高校デビューさせてもらったの?」

「瑞希、それ前倒し過ぎ」

「え?」


 でもまあ、おじさん家に泊まるのも同じくらい前倒しすることになるから、しかたがないのかな。


「ああ、なるほど。瑞希さん、『洗礼』も前倒しすることになるのかー」

「あら、それって柿本さんの言葉だったのでは?」

「そこが悔しいのよねえ……」


 ん? そういえば、あの時の『洗礼』の意味、今でもわからないのよね。確か、瑞希もぼーっとしてたし……。あ、そっか。


「ねえ、湯沢さんと鳴海さん、今晩はふたりもウチに泊まらない?」

「「えっ!?」」

「なっちゃんの家、楽しみなんだー。中学の時は郊外にあって遠かったから(略)」


 よしよし、ガールズトークナイトも前倒しだよ!

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