表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

08 LP [ Paradise Lost ]「男も、女も」

笹原さん回はどうしてもR-15ギリギリになってしまう……。

 学校からの帰り道、少し暗くなった路地裏に入ったとたん、ハイエースが滑り込んできた。


 キキーッ

 ガチャ、ガチャッ


「おら、おとなしくしろやっ」

「んぐっ!?」

「へっ、ガキ追加いっちょあがり!」


 車から飛び出してきた男たちがふたり、私の身体を抑えて口をふさぎ、そのまま抱えられて車の中に連れ込まれる。


「ほらよっ、そこの女どもと一緒に静かにしてろっ」

「んんっ……!」


 ガムテープで口と手足を縛られ、後部座席を倒したスペースに乱暴に放り出される。見ると、同じように縛られて身動きがとれない少女がふたり、涙を流しながら横たわっている。


 ハイエースはすぐに発進し、どこかに寄ることもなく目的地に向かっていく。


「もうちっと待ちな、俺たちの仲間がたくさん待ってるからよ」

「へっへっへっ、気持ちいいことしてやるぜえ」


 下卑た顔をしながら運転する男に、助手席でやたら興奮している男。


 このふたりは気づいただろうか。この時、私の口角も思わず上がっていたことを。



 キーン、コーン、カーン、コーン


 がやがや


「なあ、笹原。今朝のニュース見たか?」

「……なんの、こと」

「昨晩、女子中高生ふたり(・・・)をさらって乱暴しようと(・・・・)した男子大学生らが、通報で現行犯逮捕されたってやつだよ」


 昼休みが始まってすぐに話しかけてきた、クラスメートの柿本。なにかというと、私の言動にツッコミを入れてくる男子である。


「それが……なに」

「お前がやったんだろうがよ! なんだよ、犯人の男どもが全員気絶してたってのは!」

「腰抜け……ばかり」

「腰抜けって……」

「あの娘たち、も」

「見境ねえな!」


 私は、自他共に認める活字中毒であると同時に、あらゆる創作に萌えを追求する、普通の女子高生である。強いて普通ではないところを挙げるとすれば、クラスメートたちと共に高1を何度か繰り返すことで、萌えの追求に磨きがかかっていることだろうか。


「リビドーも、萌えのひとつ」

「だからって、実践するかよ……」

「ふたりも、実践すべき」

「安藤まで巻き込むんじゃねえ!」


 そう言う柿本であるが、ふたりで話をしているところを見ると、リバも可能なオールマイティさを感じる。あるいは、αとΩの双方の素質を有していると言えば良いだろうか。


「おい、また良からぬことを考えてるだろ」

「底辺は……避妊を」

「するかあっ! とにかく、少しは自重しろ。また白鳥先生が寝込むぞ」

「絶望……タガがはずれて……」

「それはお前だろうが。いやまあ、俺たちは多かれ少なかれそういうところがあるがな」


 謎の一斉タイムリープ現象により、高1を何度も繰り返す私たち。最初の数回は混乱が多かったが、今はそれを通り越して自暴自棄となる者も多い。どうせまた、元に戻る。ならば、何をしても構わない。そう思うようになるのは自然だろう。


 しかし、最近の周回では、その『何をしても構わない』ことさえ限界を覚えるようになっている。何かをするには、やはり積み重ねが必要となる。一年間で積み重ねることができることは、意外と多くない。


「でもな、お前のように割り切れる奴ばかりじゃないんだ。湯沢や鳴海あたりは、部活を通してなんとかふんばってるけどな。変なところに連れていくなよ?」

「あなたは……言えない」

「ぐっ……。とにかく、伝えたからな」


 何かの牽制だったのだろうか? いずれにしても、私は私のやりたいことをする。たとえ、それが……。



 放課後となり、図書室のカウンターに座り、利用者を待ちながら、本を読む。こう言ってはなんだが、私も普通にこうして課外活動を続けている。


 ただ、そろそろこの部屋の書籍は全て読み終わる。もう一度最初から……とも考えたが、今度の周回では図書委員をせず、町の図書館に通うことを考えても良いかもしれない。新しい(・・・)出会い(・・・)も期待できるだろう。


「あの……笹原、さん」

「? ああ、交替」


 もうひとりの図書委員が、交替のためカウンターにやってくる。私はたいがい放課後の前半時間を担当し、後半はカウンターを別の図書委員に任せ、引き続き図書室で本を読む。本を借り出さず、カウンターの仕事を終えても帰宅しない理由は……。


「そ、それもだけど、その……」

「……読書室で、待ってる」

「う、うん」


 本の香りが漂う、薄暗い本棚に囲まれた中でのアバンチュールは、定番である。学校に通う生徒ならではのシチュエーションでもある。もちろん、実利もある。


「……服装、ジャージで」

「へ? な、なんで!?」

「今月の……参考」


 体験をそのまま文字や絵にすればいいのだから、これほど楽なことはない。次の即売会、オリジナルのジャンルでどれだけ稼げるだろうか?



 ある日の休日。画材を買いに少し遠出する。作品自体は液タブ中心だが、元となるラフスケッチや即売会でのスケブ対応のため、それなりのものが必要になる。外出時に適したものも種類が限られているし、文字書き用のスマホ対応携帯キーボードと併せて持ち運びしやすい方がいい。


 そういった理由で、とあるショッピングモールのクラフト用品も扱う専門店街を渡り歩いていると。


「キミ、美大生? ベレー帽、めちゃくちゃ似合うね!」

「なあなあ、この後、オレたちに付き合わね? ファミレスくらいならおごるぜー」

「俺らも絵に興味があるんだよ。いいだろ、な?」


 いかにも大学は遊びで通ってますよと言わんばかりの男たち3人が声をかけてきた。まあ、ナンパだろう。私の外出着は大人し目の組合せだが、メイクはナチュラル志向ながら時間をかけた。私は総じてちびっ子タイプだが、小柄な専門学校生くらいには見えたのだろう。


 とはいえ、この間のハイエース集団とは違い、どの男もルックスは悪くない。服は流行りを追い過ぎという感じだが、最低限のファッションセンスは身につけているようだ。親が金持ちなのかバイト三昧なのか、相応にお金をかけた出で立ちだ。


「……場所を、変えて」

「いいぜいいぜ! どこ行きたい?」

「休憩……できる、ところ。友達も、呼ぶ」



 カタカタカタ


「カラオケから……ホテル……足りない……」


 足りない。創作意欲的にも、不満解消的にも。退廃感は文章と挿絵で醸し出せなくもないが、陵辱系と比較するとインパクトが弱い。とはいえ、脚色を混ぜると露骨過ぎて白けてしまう。ましてや、コミックにすると私の絵柄では単調に見える。やはりここは、


「ハプニング……説得力のある、フィクション……」


 柿本あたりを召喚するべきか? 彼ならきっと、ラッキースケベを期待してくれるだろう。


「笹原さーん、萌えとか、もはや関係なくなってなーい?」

「死屍累々な男の人たち、ギャグにしか見えないよー」

「私、次の周回からはストイックに生きるわー」


 私は、笹原。萌えを追求する、普通の女子高生である。次の周回までには、三日間の全てのジャンルを制覇できるだろう。もちろん、サークル参加側として。

実はただの時事ネタっていう。


※追記:誤字報告ありがとうございました。いやその、小文字と大文字が混在するとどうにも間違えやすいといいますか……。07ALのアカウント名はあのままで御容赦を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ