08 LP [ Paradise Lost ]「男も、女も」
笹原さん回はどうしてもR-15ギリギリになってしまう……。
学校からの帰り道、少し暗くなった路地裏に入ったとたん、ハイエースが滑り込んできた。
キキーッ
ガチャ、ガチャッ
「おら、おとなしくしろやっ」
「んぐっ!?」
「へっ、ガキ追加いっちょあがり!」
車から飛び出してきた男たちがふたり、私の身体を抑えて口をふさぎ、そのまま抱えられて車の中に連れ込まれる。
「ほらよっ、そこの女どもと一緒に静かにしてろっ」
「んんっ……!」
ガムテープで口と手足を縛られ、後部座席を倒したスペースに乱暴に放り出される。見ると、同じように縛られて身動きがとれない少女がふたり、涙を流しながら横たわっている。
ハイエースはすぐに発進し、どこかに寄ることもなく目的地に向かっていく。
「もうちっと待ちな、俺たちの仲間がたくさん待ってるからよ」
「へっへっへっ、気持ちいいことしてやるぜえ」
下卑た顔をしながら運転する男に、助手席でやたら興奮している男。
このふたりは気づいただろうか。この時、私の口角も思わず上がっていたことを。
◇
キーン、コーン、カーン、コーン
がやがや
「なあ、笹原。今朝のニュース見たか?」
「……なんの、こと」
「昨晩、女子中高生ふたりをさらって乱暴しようとした男子大学生らが、通報で現行犯逮捕されたってやつだよ」
昼休みが始まってすぐに話しかけてきた、クラスメートの柿本。なにかというと、私の言動にツッコミを入れてくる男子である。
「それが……なに」
「お前がやったんだろうがよ! なんだよ、犯人の男どもが全員気絶してたってのは!」
「腰抜け……ばかり」
「腰抜けって……」
「あの娘たち、も」
「見境ねえな!」
私は、自他共に認める活字中毒であると同時に、あらゆる創作に萌えを追求する、普通の女子高生である。強いて普通ではないところを挙げるとすれば、クラスメートたちと共に高1を何度か繰り返すことで、萌えの追求に磨きがかかっていることだろうか。
「リビドーも、萌えのひとつ」
「だからって、実践するかよ……」
「ふたりも、実践すべき」
「安藤まで巻き込むんじゃねえ!」
そう言う柿本であるが、ふたりで話をしているところを見ると、リバも可能なオールマイティさを感じる。あるいは、αとΩの双方の素質を有していると言えば良いだろうか。
「おい、また良からぬことを考えてるだろ」
「底辺は……避妊を」
「するかあっ! とにかく、少しは自重しろ。また白鳥先生が寝込むぞ」
「絶望……タガがはずれて……」
「それはお前だろうが。いやまあ、俺たちは多かれ少なかれそういうところがあるがな」
謎の一斉タイムリープ現象により、高1を何度も繰り返す私たち。最初の数回は混乱が多かったが、今はそれを通り越して自暴自棄となる者も多い。どうせまた、元に戻る。ならば、何をしても構わない。そう思うようになるのは自然だろう。
しかし、最近の周回では、その『何をしても構わない』ことさえ限界を覚えるようになっている。何かをするには、やはり積み重ねが必要となる。一年間で積み重ねることができることは、意外と多くない。
「でもな、お前のように割り切れる奴ばかりじゃないんだ。湯沢や鳴海あたりは、部活を通してなんとかふんばってるけどな。変なところに連れていくなよ?」
「あなたは……言えない」
「ぐっ……。とにかく、伝えたからな」
何かの牽制だったのだろうか? いずれにしても、私は私のやりたいことをする。たとえ、それが……。
◇
放課後となり、図書室のカウンターに座り、利用者を待ちながら、本を読む。こう言ってはなんだが、私も普通にこうして課外活動を続けている。
ただ、そろそろこの部屋の書籍は全て読み終わる。もう一度最初から……とも考えたが、今度の周回では図書委員をせず、町の図書館に通うことを考えても良いかもしれない。新しい出会いも期待できるだろう。
「あの……笹原、さん」
「? ああ、交替」
もうひとりの図書委員が、交替のためカウンターにやってくる。私はたいがい放課後の前半時間を担当し、後半はカウンターを別の図書委員に任せ、引き続き図書室で本を読む。本を借り出さず、カウンターの仕事を終えても帰宅しない理由は……。
「そ、それもだけど、その……」
「……読書室で、待ってる」
「う、うん」
本の香りが漂う、薄暗い本棚に囲まれた中でのアバンチュールは、定番である。学校に通う生徒ならではのシチュエーションでもある。もちろん、実利もある。
「……服装、ジャージで」
「へ? な、なんで!?」
「今月の……参考」
体験をそのまま文字や絵にすればいいのだから、これほど楽なことはない。次の即売会、オリジナルのジャンルでどれだけ稼げるだろうか?
◇
ある日の休日。画材を買いに少し遠出する。作品自体は液タブ中心だが、元となるラフスケッチや即売会でのスケブ対応のため、それなりのものが必要になる。外出時に適したものも種類が限られているし、文字書き用のスマホ対応携帯キーボードと併せて持ち運びしやすい方がいい。
そういった理由で、とあるショッピングモールのクラフト用品も扱う専門店街を渡り歩いていると。
「キミ、美大生? ベレー帽、めちゃくちゃ似合うね!」
「なあなあ、この後、オレたちに付き合わね? ファミレスくらいならおごるぜー」
「俺らも絵に興味があるんだよ。いいだろ、な?」
いかにも大学は遊びで通ってますよと言わんばかりの男たち3人が声をかけてきた。まあ、ナンパだろう。私の外出着は大人し目の組合せだが、メイクはナチュラル志向ながら時間をかけた。私は総じてちびっ子タイプだが、小柄な専門学校生くらいには見えたのだろう。
とはいえ、この間のハイエース集団とは違い、どの男もルックスは悪くない。服は流行りを追い過ぎという感じだが、最低限のファッションセンスは身につけているようだ。親が金持ちなのかバイト三昧なのか、相応にお金をかけた出で立ちだ。
「……場所を、変えて」
「いいぜいいぜ! どこ行きたい?」
「休憩……できる、ところ。友達も、呼ぶ」
◇
カタカタカタ
「カラオケから……ホテル……足りない……」
足りない。創作意欲的にも、不満解消的にも。退廃感は文章と挿絵で醸し出せなくもないが、陵辱系と比較するとインパクトが弱い。とはいえ、脚色を混ぜると露骨過ぎて白けてしまう。ましてや、コミックにすると私の絵柄では単調に見える。やはりここは、
「ハプニング……説得力のある、フィクション……」
柿本あたりを召喚するべきか? 彼ならきっと、ラッキースケベを期待してくれるだろう。
「笹原さーん、萌えとか、もはや関係なくなってなーい?」
「死屍累々な男の人たち、ギャグにしか見えないよー」
「私、次の周回からはストイックに生きるわー」
私は、笹原。萌えを追求する、普通の女子高生である。次の周回までには、三日間の全てのジャンルを制覇できるだろう。もちろん、サークル参加側として。
実はただの時事ネタっていう。
※追記:誤字報告ありがとうございました。いやその、小文字と大文字が混在するとどうにも間違えやすいといいますか……。07ALのアカウント名はあのままで御容赦を。