06 AL [ Galaxy Tales ]「未来世紀?」
もともとスピンオフ作品として考えていた設定だったのですが、プロット考えたら壮大な本編第二部と化しそうだったので、とりあえず自虐的創作ネタを混ぜた番外編としてみました。なんだかな。
「そう……読んで」
「笹原、お前が書いたのか、この小説」
「創作には……批評も、必要」
「いや、それなら小説投稿サイトにでも載せたらどうだ? クラスの何人かもやってるだろ?」
「あれは……あてに、ならない」
「そうなのか?」
「柿本、読んであげたら? あんた、批評とか好きでしょ?」
「それはそうだが……まあいいや、俺の端末に転送してくれ」
ピッ、ピッ
「なになに……『未来世紀パラドキシカル・ケイオス』? 安積先生に謝れ!」
「タイトルは……インスパイア……」
「モロパクリじゃねえか! いやまあ、アレは通称だからいいのかもしれんが……おい、あらすじはないのか?」
「あらすじは……完結してから、書くもの」
「お前、もしかして既に小説投稿サイトに掲載してるな? そんでもって、いつまで経ってもブックマークとか付かないから、俺に回したな?」
「なぜ……」
「ああ、わかったわかった。これは俺が読んでおく。その間に、お前はこれを見とけ」
ピッ
「エッセイ……PV……?」
「じゃあな。ラノベ一冊分くらいだし、明日までには半分くらい読んどく」
すたすたすた
◇
【プロローグ】
西暦2561年。その年の始めは、地球人類にとって記念すべき日だった。太陽系から最も近い、銀河系外縁にある星系への植民を成し遂げたのだ。この出来事を機に、それまで地球を拠点にしていた連邦国家を、人類圏のほぼ中央にある星系『ブラシカ』に拠点を移し、名称も『銀河連邦』とすることとした。
しかし、いつの世も反動勢力は存在する。人類社会の中心はあくまで地球であると主張する人々は、地球圏を占拠し、新たに『地球帝国』を樹立、強力な指導者である『皇帝オーステル』の一族の下、閉鎖的な国家体制を敷いた。
全人類の3割を占める地球圏が独立したことによる銀河連邦への打撃は、当初こそ大きかったが、資源も生存圏も豊富な銀河連邦はその後も順調に発展した。一方、地球帝国からの亡命者は後を絶たず、結果、地球帝国は銀河連邦に侵略を繰り返し、国境となる星系では度重なる紛争に明け暮れていた。
そんな連邦と帝国の争いを、時に放置し、時に介入することで、地球人類の歴史を見守る第三勢力があった。連邦や帝国から独立した『管理局』を中心とし、高度に発達した時空間制御技術によって銀河系にあまねく存在する超越的な組織―――通称『パラドキシカル・ケイオス』である。
◇
「プロローグは、背景説明だけか。主人公が誰なのかとか、今後のストーリー展開を思わせるような記述は見当たらないし。とりあえず見てみた読者、ここでブラウザバックするぞ? それにしても、『ブラシカ』って……」
カタカタカタ
ピッ、ピッ
「ブラシカ……アブラナ属……菜の花……って、安積さんかよ! そりゃあ、これからの世界は、安積さんと安積家管轄の企業グループが牽引していくんだろうけど。でも、『オーステル』は……アメリカの都市? 元ネタがよくわからん。まあ、しょせんは名前か。別に伏線というわけでもなさそうだし……」
ピッ
「ありがちな設定ばかりだけど、批評するって約束したし、読み進めてみるか」
◇
【第一章】
………………
………………
………………
植民惑星のひとつ、ビーシュタット。かつては、地球圏と他の星系を結ぶ要所として栄えていたが、地球帝国樹立後は、紛争地域としてたびたび戦火に見舞われている。現在は、首都が帝国軍に制圧され、惑星全体が地球帝国の管理下に置かれていた。
その首都の郊外にある、軍用施設。夜も更けた頃、ふたりの人影が忍び寄っていた。
「お兄ちゃん、そこは帝国軍の施設だよ! 勝手に入ったら……」
「うっせー! あいつら、数か月前に勝手に街に侵略してきて、こんな建物作ったんだろ。俺たちから略奪した物資を溜め込んでるに違いねえ!」
「でも……見つかったら……」
「連邦軍の助けはいつまで経っても来ねえし、このままじゃ飢えちまう! せめて、レーションが見つかれば……」
「それって、軍の食べ物じゃない……」
今年で15歳となるランスと、その妹で13歳のナツミ。少し前までは地元の中学に通う普通の兄妹であったが、帝国軍による制圧の後の混乱で、日常生活は崩れていた。あらゆる市民活動が制約され、食料供給は配給制となった。交通網も支配されたことで、通学もままならない状況が続いている。
「いいんだって! 奪われる身にもなってみやがれってんだ。さてと……お、開いた。ちょろいぜ」
「もう……」
軍用施設に裏口からあっさり入れたことに喜ぶランスと、不安しかないナツミ。兄を止めたい一心で付いてきたものの結局止められず、一緒に施設に侵入してしまうナツミは、更に不安が増している。
そろりそろりと廊下を歩いていくと、軍人同士が何か話をしている部屋にたどり着く。二人は思わず立ち止まり、部屋から漏れ聞こえてくる言葉に耳をそばだてる。
「……では、『パーツ』に間違いないのだな?」
「はっ、部隊の解析班が調査したところ、間違いなく。ですが……」
「起動せず、か。あれさえあれば、我らが地球帝国は安定した歴史を刻み、皇帝陛下もさぞお喜びになるものを……」
「紛争地域としては珍しくないこの惑星に、人知れず持ち込めました。『パラドキシカル・ケイオス』の連中の目も欺けました」
「ならば、まだ猶予はあるな。いいか、必ず起動させるのだ。他の何を犠牲にしてもな!」
「はっ!」
部屋から退出する部下らしき軍人が扉を開けようとする気配を感じ、兄妹は急いで少し離れた物陰に隠れる。部屋から出てきた軍人はあたりを見回し、誰もいないことを確認すると、隠れていたふたりのすぐそばを横切り、奥の部屋に向かっていった。
「よっし、ついていくぜ。そうか、わざと警備をゆるくすることで、重要な何かを隠してるって思わせないようにしてるんだな!」
「お兄ちゃーん……気づかれないうちに、帰ろうよう。絶対、危険なものだよう」
「何いってんだ! こういうのを『千載一遇の好機』っていうんだぜ。昔じーちゃんが言ってた!」
「おじいちゃんはそう言って、帝国軍に突っ込んでって亡くなったんじゃないの……」
◇
「第一章がずいぶん長いな……。ビーシュタット、だったか? その惑星が登場するまでにも百年分くらいの細かい設定が長々と続いて心が折れそうだったぜ。第三者視点の情景描写が多くて、しかも、うっかり流し読みするとつじつまが合わなくなったり。この辺でようやく主人公? それらしきキャラが登場して台詞が増えてきたから、あまり苦にならなくなったが。さて、続きは風呂に入ってきてからにするか……」
◇
【第一章】(続き)
施設内にはほとんど人がおらず、普通に歩く軍人の足音はよく響いた。かなり距離を置いても聞こえてくるその音を追って、ふたりは跡をつけていった。
しばらくして軍人が到着した部屋の前には、警備を担当している軍人がひとり立っており、すかさず敬礼した。
「異常はないか? 『パーツ』の反応は?」
「何もありません。中にいる技術者からも、何も……」
警備の軍人が言葉を続けようとした時、部屋の扉が音を立てて開いた。
「『クリスタル・ケイオス』が……反応し始めた!」
「その名を言うな! もし、そいつがここにあることがバレたら……」
「何を言っている! これは、緊急事態だぞ。『適合者』が近づいている証拠だ!」
「なに!? まさか、『パラドキシカル・ケイオス』の連中が近づいているのか!?」
「今日の候補者たちは帰したのだろう? その可能性は大いにある。我々の管理下にあるうちに、早く移動させねば……」
その時、部屋の中からまばゆい光が溢れ出てきた。
「まずい、完全に起動してしまう! 制御下にない凝縮されたエネルギーまで解放されて、こんな施設など吹っ飛んでしまうぞ!」
「くっ……総員、退避! 警報を鳴らせ!」
軍人たちが逃げ出すと共に、警報が鳴り響く。部屋の中からの光の奔流は留まることがなく、むしろ輝きは増すばかりだった。
「くそっ! おい、ナツミ、なんか惜しいけど逃げるぞ! こんなとこでくたばってたまるか! ……おい、ナツミ?」
「……呼んで、る……」
「ナツミ!? バカ、近づくな!!」
光の渦に引き寄せられるようにふらふらと近づく、ナツミ。その目は、何か遠くを見ているかのようでもある。
「ナツミ! おい! くそっ……!!」
ナツミがたどり着いた場所にあった、小さな水晶球。光を放ちながら、なおかつ、宙にも浮いている、不可思議な物体。ナツミが立ち止まると、不意に水晶球から声が聞こえた。
『クリスタルナンバー101は、適合者たるあなたに、マスター登録を要求します。個体名を』
「私は……ナツミ……」
『声紋、網膜情報の取得を完了。遺伝子情報取得前の、仮登録を終了しました。個体名:ナツミ、あなたの因果関係に祝福あれ』
そして、ひときわ輝いた水晶球がその場を全て飲み込み―――
………………
………………
………………
◇
「……どう、だった?」
「まあ、面白かった。半分と言わず、ひと晩かけて全部読んじまったくらいだからな」
「そう……」
「けどなあ、どうにもとっつきにくい文章構成だぜ。やたら設定を詰め込む説明文章が延々と続く箇所が多すぎる。一見、どこかで見たような設定をこれでもかとつなげた印象もあるから、余計に辛い。一応、ラストまで読めば、それらの設定が全て伏線だったことがわかるけどよ」
「……なるほど」
カキカキ
「キャラ設定やストーリー展開は、悪くなかった。ただ、SF好きの読者なら容易に想像がつくオチだから、人によっては肩透かしになる。まあ、この辺は好みだな」
「……ふむ」
「もっとも、SFになじみのない読者は、最初の数ページでさようならだろうな。無料で読める小説投稿サイトでは、そりゃあPVが増えんわな」
「むう……」
さらさら
「俺個人としては、ナツミが『適合者』となって帝国軍に追われる理由が、本来起きていたと仮定される『史上最悪の大震災』の歴史に揺り戻そうとする皇帝オーステルの野望ってのは、小説としての面白さとは別に、興味深くもあった」
「……そう」
「けど、そこまで到達するのに何時間も丁寧に読み込んでいかなければならないのは、やはり多くの読者には厳しいわな。とりあえず、文章構成から考え直してみるのはどうだ?」
「……参考に、する。ありがとう」
すたすた
「あ、笹原。続きは考えているのか?」
「……一応」
「期待させる終わり方だったよな。ナツミが『クリスタル・ケイオス』を使って皇城から逃げ出した先が、まさしく今、俺たちがいるこの時代の地球ってのは」
「……」
「帝国首都が、俺たちが12回ループを繰り返したこの街があったところってんだからなあ。クラスの連中なら、みんな興味あるんじゃね?」
「……たぶん」
「あ、あと、ナツミが割と小柄な設定みたいだったが、モデルはお前か? 安積さんは比較的背が高い方だし」
「……偶然」
「そっか。それと、バラバラに飛ばされた兄貴のランスに、ナツミは再会できるのか?」
「……検討中」
「会わせてやれって。俺たちだって安積さんと再会できたんだからな。っと、現実と小説をごっちゃにしちゃいけねえか」
「そう……現実と小説は、別」
すたすたすた
「……まだ、わからない。過去への転移のショックで、記憶喪失だから……」
「ん、笹原、何か言ったか?」
「……別に」