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11 NL [ Loop Camp ]「キャンプに行こう!」

本編第24話冒頭で言及されていた『山でキャンプ』の話ですが、他の本編ネタも少し含まれています。

 夏休みもお盆を過ぎた頃、私たち1-Cの半分くらいで、少し遠い場所にある山にキャンプに向かった。山といっても山頂までは行かず、その途中にある小さな湖のほとり、草原と言えるほどではない広さの平らな場所に、そのキャンプ場は設けられていた。


「「「♪静かな湖畔の森の影から♪」」」

「「「♪もう起きちゃいかがとカッコーが鳴く♪」」」

「「「♪カッコー、カッコー、カッコー、カッコー、カッコー♪」」」


 ぱちぱちぱち


「わー、さすがみんな、上手いねー。前にTVで見た合唱団みたい!」

「童謡の合唱……輪唱ってだけだけどね」

「あと、森じゃねえけどな」

「柿本、つまんないツッコミはよしなさいよ。いくら笹原さんがいないからって」

「あいつは関係ないだろ!?」

「どーだか。代わりに言ってあげようか? 『……笑止』」

「うがー!」


 相変わらず仲がいいなあ、湯沢さんと柿本くん。笹原さんの名前が出てくるのがちょっと気になるけど。


 それはともかく。


「ね、私も一緒に歌っていい? そんなに長い曲じゃないから、すぐ覚えちゃったし」

「「「「「えっ!?」」」」」

「え?」

「い、いや、そろそろテントを張り始めた方がいいからさ、安積さんとの混声はまたの機会にということで」

「んー、そうだね。私、テント張るの初めてだから時間かかっちゃうかもしれないし」

「(ひそひそ)ぐっじょぶ、安藤」

「(ひそひそ)何が悲しいかって、本人が気づいちゃうかもってのがね……」

「(ひそひそ)そうですね……」

「(ひそひそ)ねえ……」


 ちょっと残念だけど、暗くなる前にテント張れなかったらマズいもんね。あ、この曲も伴奏練習しておこうかなあ。



 かん、かん


「ペグはこの方向に打つのがいいのよね」

「湯沢さん、慣れてるね。あ、もう数回目だっけ」

「そ。ここっていろんな意味で穴場だから、どの周回でもクラスの誰かが来てるかな。お盆過ぎで家族連れも少ないし」

「そうなんだ。鳴海さんも?」

「ええ。キャンプ初心者にもお勧めで、景色もいいですし。ただ……それだけに、周回ごとの『変動率』が大きいのが、ちょっと」

「変動率?」

「誰がどのタイミングで来るかによって状況が結構変わるのよ。まあ、だからこそ、今回も男女混成の大人数で来たんだけどね。さすがにプール時のように、グループ単位での男女混成は無理だけど」

「……あっ、もしかして」

「お手軽だけに、ナンパ目的のニワカも多いってことで」

「ひー」


 そ、それは、勘弁だなあ。でも、誰がいつ来るかによって変わるのって、ここまでの旅程でみんなを見かけた、そういう人達……の行動が変わるとか?


「あっ、柿本グループが早速引っかかってる! ちょっと行ってくるね!」


 だっ


 見ると、柿本くんがとりまとめている男子グループが女子大生らしき人たちと……って、ぎゃ、逆ナンも多いの!? ええええ……。


「湯沢さんが行くとすぐに解決しますね。最近までTVで知名度が高かったですから」

「はあ」


 すたすたすた


「……全く、柿本たちも、その気もないのにヘラヘラして……私は外灯の虫除(むしよ)けかっての」


 とことことこ


「おつかれさま、湯沢さん。安積さんも、手慣れてきたね」

「あ、安藤くん」

「テント張りがうまくいってなければ手伝おうと思ってたんだけど……その必要はないみたいだね」

「おかげさまで。安藤くんところのテントは……うわあ、完璧」

「キャンプは初期の周回から興味があってね。ごくたまに、ひとりで来ることもあったんだ」

「クラスが崩壊していた周回とかねー」

「えっ」

「あははは……」


 その頃って、柿本くんも国外を放浪とかしてたんだよね。みんなの言う『賢者モード』もいろいろあったんだなあ。


「……笹原さんと遭遇した周回は、さすがにキツかった」

「えっ、それ初めて聞いたよ!? なに、その時なにか(・・・)されたの!?」

「いや、僕にはなにも。でも、笹原さんをナンパしてきた大学生と……隣のテントで……」

「あ、その先は言わなくていいから。主に菜摘ちゃんのために」

「もちろんだよ、湯沢さん。……僕も、思い出したくないから」

「いまさらですけど、お悔やみ申し上げます」


 私を除くみんなの心が一致した瞬間だった。その心を汲んだ私は、何も聞かなかったことにした。あー、今日はいい天気で良かったなあ……『予定』通りだけど。


「鳴海さんもありがとう。それじゃ僕は自分たちのテントに戻るから」


 すたすたすた


「安藤ってやっぱり、柿本とはひと味もふた味も違うわねえ」

「ですね。菜摘さんに会いに来るついでに、別の女子大生グループを避けるためにこっちに来て」

「ふえっ!?」

「でもさ、猫カフェといいプールといい、なんでナンパって男女関係なく大学生が多いんだろうね? 13回も高1やってるけど、それだけはさっぱりわからん。そんなにヒマなの?」

「どうなんでしょうか。専門分野にもよると思うのですけれども」

「まあ、今の私たちもヒマといえばヒマなのよね。高1どころか、大学の教養レベルまではクリアしてるからさ」

「クラスとしてまとまり始めた頃の周回から、白鳥先生の科目ではネット配信の講義ビデオを使って授業するようになりましたからね。英語にも慣れて一石二鳥ですし」

「いや、あの、安藤くんの『会いに来るついでに』のところをもうちょっと詳しく」

「菜摘ちゃんは自習ねー」


 気になる時に限って教えてくれない……ぐっすん。



 無事テントも張れて夕方になった頃、食事の準備を始めた。かまどにテーブルまである、いたれりつくせりのキャンプ場で、特に苦労することなく料理を作っていくことができた。


「でも、飯盒(はんごう)炊飯は初めて! それでもなんとかうまくいったよー」

「初めてづくしではしゃいでいる菜摘ちゃんかわいい」

「同意」

「異議なし」

「だからって、安積さんを拝むのはやめた方が……」


 おこげがおいしそう。ほくほく。


「そして、キャンプ器具だけで美味な唐揚げを作り上げる謎めいた安積さんも尊い」

「そうね」

「奇跡」

「だから……」


 もちろん、キャベツも刻んだよ! ざっくざく。


「わ、私たちも負けじと豚汁を作ったよ!」

「定番だよな。っていうか、これだけで一晩凌いだこともあったっけ」

「具だくさんだからね」


 でも、栄養が偏るよ?


 そんなこんなで、充実した夕食をみんなで作り上げた。いただきまーす。


「はぐはぐはぐはぐ」

「うめえ、相変わらず安積さんの唐揚げうめえ」

「味付けはいつもよりシンプルなんだけどね。塩コショウだけで」

「それでもうまいよ菜摘ちゃん! そして、マヨネーズが更に味を引き立てる」

「出たな、マヨラー!」

「勝手にレモンかけるあんたよりマシよ!」


 わいわい


「次はカレーかねえ。じゃがいもゴロゴロの」

「でも、明日には帰るよ? 朝はインスタントのスープとかの予定だし」

「そこはそれ、次の周回で……あー、そっか、ループを抜ける可能性が出てきたんだっけ」

「もし抜けなかったら、お前らにもサバイバル技術を伝授するぜ!」

「えー、次は菜摘ちゃん家の大型キャンピングカーでオートキャンプがいいなあ」

「あー、それもいいな」

「柿本の手のひら返しが絶好調」


 あれ、そういえば、ウチのキャンピングカーって日本に置いてあったっけ? ドバイの砂漠を爆走するんだって言って、お母さんが船で運んでいったような記憶が。まあ、本当に私もループに巻き込まれてまたキャンプするならその時確認しよう。


「ところでさあ、あそこで雁首揃えて物欲しそうにしているナンパ失敗集団はどうする? 無視でいいかな?」

「豚汁くらいはお裾分けしてもいいんじゃね? 安積さんの炊いたご飯と唐揚げは死守するがな!」


 唐揚げもたくさん作ったし、別にいいと思うんだけど……あっ、湯沢さんと柿本くんが唐揚げをドカ食いし始めたよ!? ダメだよ、キャベツも食べないと!



《……それでは、次の曲をお届けします。『フォルトゥーナ』のファーストアルバムから、『今宵の月は赤く燃えている』》


 〜♪


「今の『フォルトゥーナ』って、どうしてこうも中2なのかなあ。だから売れないんだよね。プロなのに」

「コミュニティFMのネットワークでは、こうしてたまに流れているみたいですけどね」

「瑞希は全部の番組把握してるんだって。たまに特定の局しか流さないこともあるからって、そのラジオ局がある街まで行って聴いてるそうだよ」

「その娘も、独自にループして何かを極めてるんじゃないかしらねえ……」


 さすがにそれはないと思うよ?


 キャンプ場では携帯回線の電波が微妙ということで、災害時と同じく、携帯ラジオが活躍している。スマホ内蔵ではなく、電池で長持ちのタイプだ。夜になった今なら、AMの方が山や海を超えていろんな放送が聞けるのだが、キャンプ場のある地域にたまたまコミュニティFM局があったということで、テントで寝転びながら地元番組を聴いている次第だ。


 ぽ―――――、ぴ――――――――、ぺ――――


「だあああああああああ! 松坂、その気の抜けた音を外に流すなああああ!」

「何を言ってるんですか、湯沢さん! せっかく貴重なJT9の電波を受信できたというのに!」

「どうせこっちは免許間に合わなくて送信できないんだから意味ないでしょうに!」

「まあまあ、もしかするといつかは『返答』できるかもしれないんだし、受信ログだけはとっておきたいんだよ」

「なら、そう言う安藤みたいにイヤホンで聞いてればいいじゃない……」

「僕が聴いているJT65は、既に過去の周回で受信した記録を思い出しながら確認しているだけなんだ。松坂の方は僕らにとっても未知だから、デコードしながら音も確認したくてね」

「なら、せめてもうちょっと音を抑えてよ。始まると1分弱はアレ続くんだし……」


 海水浴の直前にも繰り広げられたこの話題……実のところ、私にはさっぱりわからない。少し特別なラジオ・数メートルの細長いケーブル・ノートPCを使って何かを受信しているのだが、送信元がどこなのか、そもそもどんな仕組みの通信なのかを知らないままなのである。


 ちなみに、以前、白鳥先生にこのことを尋ねたら、『今は気にしなくていいけど……そういえば、これも「メッセージ」のヒントになったのよねえ』とひとり言のように言っていて、ますますわからなくなっている。今は……ということは、秋以降に関係することなのだろうか? それまでには理解しておいた方がいいのかもしれない。


「そういえば、昔は極東ロシアからもラジオ放送が聞こえてきたらしいんだけど、長波もAMもやめちゃってFMだけになっちまってるんだよなあ。生ロシア語が聴きたかっただけの人生だった」

「ネットのストリーミング配信で聴けばいいだけじゃないかなあ」

「情緒というものがな……」

「『柿本が……情緒とか』」

「だから、笹原のマネはやめろ!」


 もはやカオスである。私はもう寝ようかな。おやすみなさい。



 ちゅん、ちゅん


「わー、朝日が綺麗!」

「普段は街中に住んでいるからね。こういう機会でもないと朝日をじっくり見るってことは少ないよね」

「初日の出も難しいですよね。あの街から海岸までは遠いですし」

「俺は、地平線に沈む太陽を見たことがあるぜ!」

「はいはい、放浪先で皿洗いしてた時ね」


 みんなは、同じ大地と太陽の巡り合わせを、何度も見ている。それでも、綺麗な光景なのは変わらないようだ。私もループに巻き込まれたら、同じ感慨にふけるのだろうか。いずれにしても、その時はまたクラスメートのみんなと一緒に見たい。それは、確かだ。


「あ、極夜も面白いぞ。なにしろ太陽がずっと昇らないんだからな!」

「柿本、TPO」

JT65/JT9/FT8/FT4がわかる人、お話をしましょう(FUNA氏は感想欄で釣れなかった模様)。それにしても、登場しなくても相変わらず強烈な笹原シャドウ……。

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