01 IF [ 14th Daily-life ]「第一章 彼女も何かを悟っていた」
本編第43話の途中からの分岐IFエピソード『14回目』です。ただし、それまでの『白鳥先生』の言動も適宜変わっていると想定して下さい。それと、最初に謝罪しておきます。サブタイトルの通り、本編第一章分相当しか書けませんでしたorz。だいたい菜摘のせい。今後、他の番外編掲載を先行させつつ、章単位で別途追加していくことになるかもしれません。
次のループに移ると、年表示だけがスムーズに変わるらしい。そして、それぞれがいつの間にか自宅などの『元の場所』にいるそうだ。ちょっと体験してみたいけど、そうならないのがベストだ。
ピッ
「あと、10秒……」
ピッ
「「……5……4……」」
ピッ
「「「「3……」」」」
ピッ
「「「「「2……」」」」」
ピッ
「「「「「「「「1……!!」」」」」」」」
ピッ
「ゼロ!」
◇
……
…………
………………
ぼーん、ぼーん、ぼーん、……
「……あれ? 今の、廊下の時計の音だよね? っていうか、ここ……」
少し前に抜け出してきたはずの、自室だった。おじさんの家の2階にある、私の部屋。でも、違和感を覚える。
いや、いつの間にか自室、しかも、ベッドの布団の中で横たわっている時点で、分かりきっている。これが……これこそが、みんなの体験してきたっていう……!?
ピロン♪
「メッセージアプリの、申請通知……安藤くん!!」
たたたっ、ぽちっ
【AND】僕のこと、わかる?
【なつみ】もちろんだよ! これが『リセット』なんだね!
【AND】驚いたなあ。これから白鳥先生に連絡してグループ作るから
【W.Swan】@なつみ @AND できてるわよ
【AND】@W.Swan え、いつもより早い!?
【W.Swan】@なつみ じゃあ、あとよろしくね
【なつみ】@W.Swan え、私?
◇
入学式の日の、最初のHR。
「と、いうわけで、2回目……みんなにとっては14回目だね、今回もよろしくお願いします!」
「菜摘ちゃーん! 一緒に芸能界デビューしよー!」
「まてまて、まずは俺と一緒にゴールデンウィーク放浪の計画を立ててだな」
「安積さん、せめて20個のゲームソフトの処分だけは……」
「今回は、菜摘さんにも少し弓道部に付き合ってもらえますか?」
「おすすめ……本屋……」
「笹原、今から安積さんを沼にハメようとするのやめような」
わいわい
「あの、白鳥先生、本当にいいんですか? 安積さんにクラス委員長を任せてしまって」
「いいのよ。この周回は『ボーナスステージ』だから」
「は?」
というわけで、安藤くんの代わりにクラス委員長となった。私もやってみたかったし、みんなと同じで既に1年間経験しているしで、誰からも文句は出なかった。
なお、クラスとりまとめに必要な様々な記録や情報は、入学式までに安藤くんと白鳥先生からもらっていた。安藤くんからはいつもの手帳を、白鳥先生からはUSBメモリで。後者は物凄いファイル量で、安藤くんや松坂くんを驚愕させていた。白鳥先生って、やっぱり……
「それよりも安藤くん、今度の週末、私と一緒に映画でも観に行かない?」
「は!? 先生と!?」
「……だめ?」
「だ、だだだ、だめってことは……」
「じゃあ、決まりね。よろしく」
……やっぱり、安藤くんのことベタ惚れで、これまでクラス委員長としてとりまとめていた安藤くんのことを助けたくて奔走していたのかなあ。いやまあ、実は超未来人で、何らかの形でループ現象に関わっているという線も捨てきれないのだけれども。
「え、白鳥先生と安藤、そういう関係だったのか!?」
「今回は 、だいぶ開き直りましたね……」
「というか、むしろ白鳥先生の方が積極的じゃない?」
「教師と……生徒……尊い」
「笹原、RPSはやめとけ」
あ、そうか、ふたりの関係(?)はあまり知られてなかったんだっけ。いやでも、私がクラス委員長となったとたんにこれってのはすごいなあ。こうしてクラスのみんながびっくりしているのをそっちのけでイチャつき始めたよ? まあ、私としては応援しやすくなって良かったけど。
それよりも。
「それよりも、松坂くんと柿本くん、ゲームソフトとチケットの転売は全面禁止ね」
「「はい」」
◇
数日後の放課後、早速部活を始めていた湯沢さんを訪ねた。
「芸能界デビューの準備だね!」
「ううん、他校選手のドーピング出場を未遂にする準備だよ」
「えっ」
「あと、夏休みの宿題対策も今のうちからやっておこうね」
「ひーん」
宿題の内容は今の私もそれなりに覚えているから、自身なりの『過去問』対策をするついでに、湯沢さんにアドバイスしていくという方針だ。今度こそ、根本的な解決となるだろう。
「とりあえず、部活が終わったらスケジュールだけ確認しようよ。確か、大通りの喫茶店がサービスデーだったよね?」
「むー、菜摘ちゃんにアドバンテージを取られるとは……。でも、宿題はともかく、ドーピングを防ぐなんてできないよ? 前の周回のは、私が疑われてたまたま発覚しただけだし」
「それは、その時の経緯を詳しく教えてくれれば、なんとかなると思うんだ。他のことも含めてね」
「他のことも?」
そうだよ。この周回では、超強力なサポーターを獲得するんだから!
◇
『いやはや……驚いたよ。取引内容が全て一致していた。今でも信じられないくらいだ』
「信じなくてもいいよ。私だって、おかしなことをしたなあって、わかっているから」
『だが、この結果は、菜摘が伝えたことそのものだからな。とりあえず、素直に驚かせてくれ』
「ありがとう、お父さん」
前回、ちょうどこの頃にIP電話でお父さんと話した内容を思い出した私は、それを利用した。そう、当時(?)のデイトレーディングの内容の詳細である。それを事前に電子メールで送付しておき、一通り取引を終えた後に開封してほしいと伝えておいた。まあ、普通ならば驚くだろう。
『現在の市況の詳細と僕の性格を熟知していればあるいは、だけど、後者はともかく、前者は菜摘には不可能だろうね。……種明かしは、してくれるんだよね?』
「するけど、もっと驚くかも」
かくかく、しかじか
『私は信じるぞ! なんたって、愛する菜摘のことだからな!』
「お母さん、帰ってたの!? 『前回』はいなかったのに……!」
『いやあ、今日はあまりに疲れたんでな、書斎を覗いてすぐに寝室に向かおうと思ったんだが、とてつもなく面白い話をしてるじゃないか。だから割り込んだんだが……今の菜摘の反応で、完全に信じたぞ!』
『そうだね。僕はこういう性格だから、タイムリープ自体を信じるというのは難しいけど、菜摘のことは信じるよ』
うわあ、予想以上の結果だよ!
「ありがとう、お父さん、お母さん! それでね、そのことで、早速相談があるんだけど……」
『おう、なんでも言え! 金で解決できることはなんだってやってやるぞ!』
『おいおい、菜摘をワガママお嬢様にする気かい?』
「あはは……。えっと、実は、前の周回で……」
◇
「えっ!? 御両親にループのことを話して、信じてもらえた!?」
「うん。クラスのみんなにも早く会ってみたいって言ってた」
「まあ、あの御両親ならそうなるかもなあ……」
「ほとんどの人は前回のクリスマス・イブでしか会っていませんけど、なんとなく納得ですよね」
そういえば、そうなんだよね。顔とか覚えられるほど深く交流したのは数人だけだったけど、存在自体はみんな強烈に覚えているらしい。それでこれなんだから、我が両親ながら凄いなあ。特に、お母さん。
「それでね、ドーピングの方は、大会主催者にたくさんの寄附をした上で、薬物乱用の根絶を推進させることにしたんだって。ポスターとかCMはもちろん、早い段階からの検査とかもね」
「聞いただけで物凄い手間とお金がかかりそうなのはわかるけど、菜摘ちゃんがやると『親の金を振りかざして』って印象がまるでないよね」
「内容が内容だしなあ。……俺なんて、金持ちってわけでもない親から……」
「おお、柿本がここに来てようやく心底反省した」
本当だねえ。いずれにしても、私は別に両親のお金を好き勝手使ってるわけじゃないけど。今回のことだって、話を聞いたお母さんが『悪即斬!』って叫びながら決めたんだし。
「だからまあ、ゴールデンウイーク放浪とかやめとくわ」
「柿本くん、ゴールデンウイーク中にドバイ行ってみる? たぶん、会社の飛行機がちょうど使えると思うんだ」
「本当か!? 行く行く!」
「あ、私は日本に残るけどね。やることいっぱいあるし」
「えっ。あー……いや、せっかくの機会だし……でも、うーん……。あっ、そうだそうだ、俺も『フォルトゥーナ』の対応しなきゃいけなかったんだ! いやあ、残念だなあ」
「あ、それもすぐに対応する予定だよ。ゴールデンウイークを待たずにね」
「「「「「え?」」」」」
◇
週末の、昼下がり。都市部の路地裏、薄暗いビルの谷間で、その人は壁に寄りかかって座っていた。
「……なんだ? オレのサインでも、欲しいのか? ……ひっく」
「あなた、昼間からお酒を飲んでるんですか? 健康に悪いですよ」
「へっ、綺麗なお嬢ちゃんには、俺の気持ちなんか……!」
「たぶん、聞いても私にはわからないと思います。でも、これを見て下さい」
ぱらっ
「楽譜? なんだ、やっぱりオレのこと知ってて……」
ぱらっ……ぱらっ……
………………
…………
……
「……おいおい、これ、まさか嬢ちゃんが書いたのか?」
「正確には違いますけど、まあ、そうです。……どうですか?」
「どうもこうも……酔いが覚めちまったぜ。なあ、あんた、名前は?」
「菜摘、です。安積菜摘。よろしくお願いします、キラさん」
「菜摘ちゃん、か。よし、早速これから付き合ってもらうぜ! いいよな?」
「はい。できれば、ピアノがある場所に」
「任せておけ!」
◇
週明け。
「……と、いう感じかな?」
「それって、つまり……」
「菜摘ちゃんが、『Song for Tommorow Morning』の作詞作曲をしたことになったってこと!?」
「そういうことに、なるかな?」
「いや、それ、いいの? そのうち、元の作者が怒らない? そりゃあ、その作者もまだ書いてないのかもだけど」
「ああ、その元の作者の許可は既にとったよ。というか、その人、白鳥先生だったから」
「「「「「白鳥先生!?」」」」」
ざわざわ
「っと、白鳥先生、言って良かったんですよね?」
「ええ、いいわよ。この周回では安積さんがとりまとめてくれているから」
「白鳥先生があれだけの作詞作曲ができることにも驚いたけど、それじゃあ、なぜ今までの周回では隠していたんですか?」
「私、あまり表立って注目されたくないの。高校教師がプロの作詞作曲もやってるなんて、聞こえが悪いでしょう?」
「そうは思いませんけど……」
「世の中、いろいろあるのよ。これまでの周回では学べなかったことかもしれないけどね」
「はあ……」
確かに、そういう話は聞くんだよね。PTAとか。でも、私の周囲の場合は、どこからともなくお母さんがやってきて『筋は通ってるだろうが!』って言いつつ、お金で解決してしまうんだけれども。
今回の件も、もし面倒なことになったらお母さんに相談してみようとは思っていた。でも、一方で、白鳥先生なら自力で解決してしまったような気がしないでもない。愛のパワーなのか超技術なのかわからないけれども。
「そんなことより、安藤くん、今日の帰りに喫茶店寄らない? パフェがおいしい店があるのよ」
「いやあの、白鳥先生、それ今言うことじゃあ……」
「……ダメなの?」
「……いや、行きますけど」
むしろ、こっちの方が聞こえが悪いんじゃないかなとか。お金では解決できそうにないし。
「しかし、最近の周回と比較すると、今回は年度始めから『変動率』が高いよなあ。主に、安積さんのクラス委員長っぷりと、白鳥先生の色ボケっぷり」
「先生……残念度、爆上げ」
「私としては、初期段階だからこそ、だと思うけどね。予測不能な事態が起きても、年度末までには収束させる自信があるよ!」
「菜摘さんなら本当にそうなりそう、と思えるところが怖いですね」
「だよな。まだ、4月下旬に差し掛かった頃だぜ? 前の周回で安藤が言ってたあれ、マジで実現しそうだよな」
「1年で国がひとつ作れるかも、だっけ? むしろ世界征服じゃない?」
なんか、私の評価もダダ下がりしているような気が……気のせいだと思いたい。うん。