1.ヒスイとフローラ
本作品は幸路ことは様主催の“あったかもふゆ企画”参加作品です。
参加者が共通の設定を用いてオリジナルの作品を書き上げる競作企画です。
他の方の作品はページ下部にリンクをまとめておりますのでご興味がお有りの方は是非とも辿ってみて下さいね。
ここは寒風吹き荒ぶ樹海。まだ雪は降りだしていないがもう少しすれば一帯は白銀世界へと変わる。冬がすぐそこまで迫っていた。
「ラッキー! まさか道に迷った先でお目当てのユニコーンさんに遭遇するなんて。こういうのを身から出た錆って言うんだろうね!」
水たまりに顔を突っ込み、ガブガブと水分補給しているのは真っ白な体色が美しい若いユニコーン。頭部から生やした立派な角、体も鬣も純白であり、遠目に見れば周囲の景色が光の反射で滲んで見えるほどだ。幻想的光景と言える。
その様子を太い木の幹に身を潜め、こっそりと覗き見をしているのはヒスイ・イシヅキ。この物語の主人公である。肩にかかるくらいの長さの癖の強いブロンドヘア(周囲は湿度が高いため今日は一段と癖っ毛に磨きがかかっている)、エメラルドのような鮮やかな緑の瞳の少女だ。
「それを言うなら怪我の功名ですわ」
ヒスイの背中にぴたりと身を寄せ、ヒスイ越しにユニコーンを観察しているのはフローラ・エンジェライト。ヒスイのパーティーメンバーにして没落した辺境伯の伯爵令嬢である。周囲が呆れるほどの自由奔放さ、それに加え侯爵子息との縁談を断ったせいで勘当され、放浪の旅をしていた時にヒスイと知り合った眼鏡っ娘である。
「よーし、サクッと捕まえて角を持って帰ろー! 立身出世!!」
相方のツッコミを完全に無視して軽く拳を突き上げて躍り出ようとするヒスイ。彼女らはつい先日、都市国家マノーへ到着したところだった。街の冒険者ギルドに仮登録はしたものの、本登録をする為にはギルドからの試験をクリアしなくてはならない。
ユニコーンの角を一本持ち帰ること。これがギルドが提示した条件。ユニコーンはこの世界では普通にその辺の森に棲息している。なのでその角を獲得すること自体は難しくない。それなりの腕っぷしであれば、の話だ。
意気揚々と木陰から飛び出そうとするヒスイにフローラが背後から抱き付いて制止をかける。
「お待ちなさい。ユニコーンは知能が高い生き物です。人間の言葉を解するとも言われていますし、気性が荒いのでこちらの敵意を察知されると襲い掛かられますわ。ここはまず様子を窺いましょう。背中を見せたところを、私の風魔法で」
「もぅ、またフローラがやるの!? 私だって火属性と光属性の魔法が使えるんだもん!」
「焚火や明かり取りに使える程度の魔力ではユニコーンを捕獲が出来ませんわよ?」
「近づいて、目の前でピカッてやって目晦ましするもん!」
「……地味ですわね。蹴飛ばされるか角で突かれるのがオチだと思いますけど」
「ふーん、そのうち私だって、おっきい炎を出したり目が見えなくなるくらい眩い光を出したりできるようになるから!」
「魔法適性は生まれ持った素質が全てだと聞いたことがありますね」
「……」
「残念ながら何年も修行して今の実力なら、伸び代はあまり期待しない方が……」
「……フローラ、結構ズバズバ言うよね」
「嘘をつくのが好きではないのです」
「あと、さっきから若干鼻息荒い気がするんだけど」
「それはヒスイがかわいいからです」
「そろそろ離れてくれてもいいよ?」
「まだダメです。もう少しクンカクンカしてからですわ」
「クン……何それ?」
「つまり、ヒスイの匂いを嗅いで魔力を増幅させないといけません」
と言いながらフローラは鼻をヒスイのうなじに近づけた。
「匂いで、魔力を?」
「すんすん……あぁ……このちょっと汗の混じった匂いも素敵ですわ。ええ、魔力というのは基本的に性的衝動から沸き起こる力ですから。あ、これ嘘です」
「今さっき、嘘をつくのは好きじゃないって言ったよね?」
「忘れました。私、都合の悪いことはすぐに忘却できる才能を持ってますの。これでも由緒正しき深窓の令嬢ですもの」
「凄い、全然深窓の令嬢関係ない!」
2人の少女が戯れていると、ふいにユニコーンが水面から顔を上げた。そして身を隠すことをすっかり失念している(主にフローラのせい)2人の姿を認めた。
前脚の蹄で、軽く地を掻く仕草を見せる。それは、駆け出す合図だった。
「あら大変。どうやらユニコーンがこちらに気付いたみたいですわ」
「あ、ほんとだ!」
「そういえばユニコーンは生娘の匂いを嗅ぎ分ける力があるのです」
「キムスメ? それ、どういう意味?」
「処女のことですわ」
「しょ……ええっ!?」
「ユニコーンが生娘を発見した時に示す反応は大きく分けて2つ。1つはその匂いにつられて懐くパターン。そしてもう1つは匂いに興奮して襲い掛かってくるパターン」
「あの、凄く前脚で土をガリガリやってるんだけど?」
「ええ、興奮してるパターンですわね。私と同じかしら」
「笑ってる場合!?」
ユニコーンが天を仰ぎ、嘶いた。それから角を真っ直ぐ突き出し、突進を開始した。
「んもう、お楽しみ中でしたのに! ヒスイ、ギリギリまで引き付けてピカッとして頂けます?」
「む、無理無理無理ぃ! 逃げよ? 早く」
「あらあら、目の前でピカッとするんじゃなくって?」
「前言撤回!」
「もぅ、仕方ありませんわ。私がやりましょう」
ヒスイから身を離し、フローラは彼女を庇うように一歩前に歩み出る。人差し指を舐めて湿らせ、指先に風の流れを感じた。
「うん、いい風が吹いていますわ。ここであれば風の精霊の加護も存分に受けられそうですわね」
瞬く間に、ユニコーンとフローラの距離が縮まる。そして……。
異世界恋愛初挑戦、Kei.ThaWestです。色々と試行錯誤しながら書き進めております。
企画用作品ですのでそれ程長くはならないと思います。年内完結を目指しています。
ブクマやポイント評価、感想等頂けるとモチベーションが急上昇するのが書き手の性です。
不慣れなジャンルでは御座いますが精進して参ります。何卒よろしくお願い申し上げます。