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シンデレラは嘘つきか

「ねえ、神田君。シンデレラって面白いよね」


 気分が悪くなって少し寝させてもらおうと入った保健室。そこには僕の顔見知りの由良がいた。

 僕が保健室に行くと由良がいる、というのは毎度のことなので、僕は無視してベッドに横になる。なんだかとても頭が痛い。


「ねえ、シンデレラって面白いよね?」


 由良は無視されたことに少し怒ったようで、僕が寝ている上に、ばふっと体を乗せる。


「そうだね。じゃあ退いてくれ」


 身をよじって、寝ながら由良に退いてほしいと意思表示を示す。由良は大人しく退いてくれたが、話は止まらない。


「私ね、シンデレラがカボチャの馬車に乗ってお城に行くシーンが好きなの」

「へぇ」


 魔法使いがシンデレラにドレスを着せるとか、お城で王子様と踊るとか、そういう派手なシーンじゃないところを選ぶあたり、ひねくれ者の由良っぽい。


「だって元々カボチャとネズミなんだよ!?それをいくら魔法がかかってるからって信じて乗るのが、もお面白くない?」

「確かに愉快だな」


 楽しみ方もひねくれていた。


「後さ、12時になって魔法が解けるならさ、カボチャの馬車もカボチャとネズミに戻ってないといけないよね?」

「そういやそうだな。12時の鐘が鳴って慌てて帰るんだから」


 今まで深く考えたことはなかったが、確かにそうだ。12時に魔法は消えるんだから、カボチャの馬車もなくなっていると考えるのは妥当だ。


「じゃあシンデレラはツギハギの服で徒歩で帰ったのかな?とか、元に戻ったカボチャはその場に放置なのかな?それとも持って帰ったのかな?とか考えるの楽しくない?」

「ちょっと面白いかもな」


 よく気づく奴だ。そんな考え方したことない。


「あとさ、一目惚れして求婚するって一国の王子としてどうなんだろうね。そりゃ貴族の集まりみたいなモンだから資質はいいんだろうけど、そこで選んだのがシンデレラだよ?顔が良いって得だよねぇ」

「シンデレラは一応パーティに呼ばれる家柄の娘だからな」

「けどいじめられっ子だよ?世の中そんなウマイ話無いって。顔良い子がいじめられるなんて無いって」

「……そういうものか」

「そうだよ。ちなみに私はいじめられたことないよ」

「……ユラハビジンダカラナー」

「いやん、照れちゃう」


 バシッと背中を叩かれた。頭に響くからやめてほしい。


「そもそも12時に解ける魔法ってのがズルいよね」

「ズルい?」

「だってさ、魔法が解けちゃうからシンデレラは王子様に探してもらえたんだよ?ズルいよ」

「そうか。ズルいな」


 由良の言ってることは正直よくわからないが、由良が言うならそういうことなんだろう。そういうことにしておこう。


「で、神田君は?」

「え?」

「神田君はシンデレラのどこが一番面白い?」


 由良はキラキラした瞳で僕に詰め寄る。こんな目をされたら、答えなきゃいけない気になってしまうじゃないか。


「……12時の鐘が鳴ってシンデレラが帰るシーン」


 こういうことを言うのは少し照れくさい。


「なんで?」

「……シンデレラが王子様に嘘を吐いたシーンだから」

「ほうほう」

「シンデレラはパーティに行きたかった、それだけだった。けど、そこで王子様に恋をして、躍りながら話をして、恋が強くなって。でも、シンデレラは「自分が灰かぶりだ」なんて言えなかった。嫌われたくないから、幻滅されたくないから、失望されたくないから。そして鐘が鳴って走って逃げた。……シンデレラは誠実で優しいけど、自分のイヤな所は隠してしまう、普通の人なんだって分かるから、そのシーンがいい」


 うわぁ。何言ってんだろう、何語ってんだろう、僕。恥ずかしいから由良に口を挟まれないようにと、まくし立てたけど、それもまた恥ずかしい。顔の位置まで毛布を引っ張って、由良から顔が見えないように隠す。


「神田君もひねくれてるね」

「うっさい」

「耳まで赤かったよ」

「……うっさい」


 そりゃ、童話の見方なんて子供の頃と同じようにはいかないだろう。小さい頃は主人公が幸せになる話に目を輝かせていたのかもしれない。けど、ハッピーエンドは楽しいだけじゃないって知ってしまうと、もう、それはまるで違うものになってしまうのだから。


「神田君」

「なに?」

「私は嘘吐かないからね」

「由良は普通じゃないからな」

「……ふふっ、そうだね」

「笑った?」

「笑ってないよ」

「笑ったよ」

「笑ってない」


 嘘は吐かないんじゃなかったのかよ。


「じゃあ私はもう行くね。またね」

「おう」


 パタパタと足音が遠のいて、扉が閉まる音がして保健室は僕1人だけになる。


「……やっと寝れる」


 頭はずっと痛いままだ。けど、由良と話している間は痛いことを忘れられた。

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