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首筋をなぞって

「首ってね、頭と心臓の次に弱点だと私は思うの」


 体の弱い僕は体調が悪くなると保健室で休ませてもらうことにしている。その体調が悪い時が今で、僕は今保健室にいる。そして、僕が保健室に行くといつも先客がいる。

 由良美園。彼女は学校内でも変わり者として有名で、曰く見えないものが見えているのではとか、何かオカシな電波を受信しているんじゃないかとか、色々噂があるやつ。僕もこの保健室で会うようになってからは噂の半分以上は正しいんじゃないかと思うほどに彼女は変わり者だ。


「神田君はさ、自分が死んだらどうなるとか考えたことある?」


 突飛な質問だ。

 保健室のソファに僕と由良で並んで腰かけている。他にも椅子やベッドがあるのに、彼女は僕がソファに座ると必ず隣に座るのだ。人1人分開いた他人の距離で。


「あるよ、何度も。息が苦しくなったり歩いただけで目眩がしたときとか、よく考える」


 そして結論はいつも出ない。自分が死んだら誰が悲しんでくれるなんて、考えても気分がいいものではないし、何より自分で悲しくなってしまう。そうなるとすぐに考えることを止めてしまうからだ。


「じゃあさ、自分が死を支配できたら、なんて考えたりする?」

「死を支配?」


 全く意味のわからない言葉に由良の方を見ると彼女はまっすぐな目で僕を見ていた。


「って言っても不老不死みたいなものじゃなくて、生命与奪権とかそっち系の話」


 つまり自分が人を殺せるようになったらという話だろうか。また急な話をする。けれど、そんな話をしていても由良の目は澄んでいて、僕はその目が綺麗だと思った。見惚れてしまう。


「例えば」


 そう言って由良は僕の手を取って彼女の首に当てる。細くて白くて柔らかい首。


「さっきしてた話だけどね、首は弱点なのよ。動脈静脈があって気道もある、頭と心臓を繋ぐ橋」


 今、僕は何をしているのか。彼女に何をさせられているのか。彼女は僕に何をしているのか、させたいのか。深く考えたくない。解りたくないと解らない内に直感が冷たく告げる。それでも由良の瞳はまだまっすぐ僕を見ている。


「神田君はね、少し力を入れるだけでその橋を崩せるのよ」


 聞いた瞬間全身が冷えた。それは聞きたくなかった一言だ。今自分は触れてはいけない扉の前にいるようで怖い。早く由良の首から手を離してしまいたいのに、由良の手はしっかりと僕の手を掴んでいて、決してそれを許さない。


「神田君、どういう感じ?死を支配するって」


 そして彼女はにっこりと笑う。笑顔の女の子の死を支配していることが怖い。とてつもなく怖い。頭が痛くなる。


「そう。神田君は優しいね」


 そう言って由良は僕の手を離した。僕は彼女の首からすぐに手を離した。


「疲れさせてゴメンね。私もう行くわ」


 由良はそう言ってすぐに保健室を出ていった。そして僕の体から一気に力が抜ける。思考は斜がかかったように霞んで(おぼろ)になる。

 あの時由良は……、















 あの時一瞬でも由良を殺せると思った自分が、とてつもなく怖かった。

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