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プロローグ

とある人狼のお話。けっこう長く、続きます。




 この広い世界には“人狼”と呼ばれる生き物がいる。

 人狼はその名の通り、狼になるヒトだ。人と狼、彼らはいつでもその二つの姿に変身することができた。走る時は狼に、物を使う時は人に。眠る時は狼に、食事の時は人に。いざとなれば人の姿になり、人間たちの中へ紛れ込むことも出来た。さらに彼らには「満月の夜は強制的に狼の姿に成る」という特性がある。人狼の身に起こるその不思議な現象の謎は、人狼の研究を専門とする人間の学者たちを悩ますばかりで、未だに解明されていない。

 人と狼の姿を持つ者。その性質から、彼ら人狼は古来より人間たちに忌み嫌われてきた。「人間に成る獣」と、そう呼ばれることも多くあった。口を歪め、人間たちは人狼を見下した。

 人間たちから弾圧を受け、蔑まれることを嫌った多くの人狼たちは、人間の目を避け人間のいない世界へと身を隠した。郊外に集落を作り、人目につかない場所で身を寄せ合った。


 人間が人狼を恐れる理由は、二つの姿を持つからだけではない。彼らの目は遠くを見透かし、鼻はよく効き、耳も良かった。五感が発達した人狼たちの能力は、人間のそれらを遥かに上回っていた。それに、治癒能力も高かった。どれだけ深い傷を受けても、軽く治療を施せば、あっという間に療治した。

 人間たちは、彼らを恐れた。人間から隠れた人狼の存在を嗅ぎつけた人間たちは、猟銃に弾を詰め、剣を引き抜き“狩り”へと出向く。人間たちは正義を盾に人狼を、“狩る”。

 抵抗する人狼を捕らえ殺して征服し、人間たちは満足した。自分達よりも力が強く、自分たちよりも優れた能力を持ち、自分達よりも恐ろしい存在を制圧することで、心の底から安心した。

 恐れ、怒り、悲しみ、苦しみ。それらはさらに人狼たちを人間から遠ざけた。人狼たちも、自分たちを貶めようとする人間を忌避するようになった。人間と戦おうとする者も多かった。

 抵抗も止むなく、それでも人間たちの人狼狩りは続いた。いくつもの場所で血が流れた。人間は人狼を狩り続け、いつしか人狼の数は、長い年月をかけて緩やかな減少を続けていた。

 人間に見つかれば、命を奪われる。数を減らした人狼達は互いに助け合い、それぞれの生活を取り戻せるよう努力した。人間に見つからないように、細々と生きた。

「私たちは、人間に何もしていないのに」、とある人狼は嘆いた。彼らからすれば、責められる謂れはどこにもなかった。多くの人間は信じないが、人狼は「人間を喰う」ことはしなかった。人間が人狼を化物だと頭から決め付けていても、人狼たちは豊かな人間性や理性を持ち合わせていた。むしろ人狼が関わった際に理性といった“人間らしさ”を失うのは、大方人間の方だった。

 人狼は、人狼に産まれてしまったが故に、人間たちにより生き物としての尊厳を傷つけられ、その存在を疎んじられてきた。これは、そんな人狼の物語。





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