おしまい
目が覚めると、そこには知らない天井が広がっていた。
体は痛みこそないが、動かない。
見ると点滴やらチューブやらが至る所に付けられている。
どうやらここはどこかの病院のようだ。
「目、覚めた?」
聞き覚えのある声に、首だけ動かして振り向いた。
そこには椅子に腰かける母と父がいた。
母は優しく微笑みかけ、父は眉間に皺が激しく寄っている。
「・・・父さん、母さんも」
「・・・この馬鹿、いったい何やってるんだ」
父はそれだけ言うと、背を向けて窓の方へ視線を投げた。肩が小刻みに上下しているようだ。
「お母さんたち、本当に心配したのよ?急に寮を抜け出して、1週間も行方不明だと思ったら、今度は警察から連絡が来てね。」
どうやら自分はあの車の中にいた子どもを助けてから、意識不明だったらしい。
ではあの暗闇の中での生活は夢だったんだろうか。
それから面会時間は少なかったこともあり、あまり両親とは話せなかった。
それでもこれだけは言えた。
自分が寮でいじめにあっていること。
そして柔道をすることに限界を感じていること。
生活を変えたくて寮を抜け出したこと。
自分の言いたいことを言い、それが伝えることができた安心感から、私はまた眠りに落ちた。
目をつぶるとそこは暗闇。
あの生きてるんだか死んでるんだか分からない空間で聞いた声が、また話しかけてきた。
(無事に戻れたようじゃないか、よかったのう)
(ありがとうございます。道しるべから外れた時はどうなるかと思いましたよ)
(ほっほっほ、それはお主の運が強かったのう。でなければ地獄行きもあり得た)
その気楽な言いように、私は思わず夢の中で笑う。
(しかしどうだ、自分の心に嘘をつかず、言いたいことを言うのは。たまには悪くないじゃろう)
「・・・そうですね」
自分の出した声に驚いて、私は目が覚めた。
そこにはあの老人などおらず、代わりに3人の男女が立っていた。
「お兄ちゃん、あたしのことわかる?」
元気いっぱいな声で尋ねてくる子は、あの日車に残されていた子だった。
「うん、わかるよ」
「お兄ちゃん、あたしのことたすけてくれてありがとう!」
そう女の子が言うと、後ろに立っていたご両親も口々にお礼を言い、頭を下げた。
「お兄ちゃんこそ、ありがとうなんだよ」
きょとんとする三人に私は言った。
「やり直させてくれて、本当にありがとう」
もっと本当は異世界に旅立って、イベントが起きるとか書きたかったのですが、力なくこんな終わり方になりました。
嘘をもっと深く印象的に書いて、物語を展開させてみたかったです。
やれないことだらけの1作目でした。
ここまで読んでくださってくれた方、ありがとうございました。