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閑話  ぼっちと白猫

ーーーとある夏の日。

俺はソイツと出会った。






「あー...暑い...暑すぎる...。」

元気過ぎる太陽が俺の体を攻撃する。

今は夏休みの真っ最中。

ぼっちな俺は、今日も今日とて家に引きこもってのんびり過ごそうと考えていた。

しかし、そんな俺の邪魔をしようとする魔王()がいた。



「直人...アンタ今日もずっと家にいるつもりなの?偶には外に出て遊んできなさいよ。」


「遊ぶ?...誰と?」


「誰って、友達とか...あー、アンタ友達いないのか...。」


「わかってて言ってんじゃないの?」


「当たり前でしょ?アンタに友達がいないのなんて昔から知ってるわよ。」


何だこの人...酷すぎないか?


「とにかく、一日くらい外で過ごしなさいよ!」


「はぁ...はいはい、わかりましたよ...。」



ーーーという訳で、現在俺は適当に街を彷徨っていた。

あまりの暑さに、いっそのこと家に帰ってしまおうかと考えるが、あの魔王がそんな事を許す訳がない。

諦めてコンビニに行って、アイスでも買うか...。




ーーー二十分後。

もうすぐでコンビニが見えるという所まで来た。

噴水のある公園を横切る。

ふと何気なく噴水の方を見ると、噴水の縁に白い子猫がいた。

首輪の類いは着けていない。

野良猫だろうか。

気にはなったが、今はアイスが欲しくてたまらない。

俺は再度コンビニへと足を向けた。



店内に入る。

冷房が入っていて心地良い。ここが楽園だったのか。

アイスコーナーへと歩いて行く。

ボックスからガリ○リ君を取り出す。

次にドリンクコーナーで、ペットボトルのコーラを取り出す。

レジに持って行こうとして、先程の猫を思い出した。

野良猫に餌をやるのは良くないと聞くが、猫と触れ合いたいという気持ちもある。

迷った末、俺は缶詰のキャットフードと紙の深皿、水を購入した。

レジの店員が何かを怖がっていた気がしたが、なるべく気にしないようにした。

戻った時に猫がいなくなっていたなら、それはそれで仕方ないなと思いながら、俺はコンビニを後にした。






公園へと戻ってきた。

噴水の縁では、先程の白猫がぐったりと寝転んでいる。

俺はあまり音をたてないように近付いた。

もう少しで辿り着くという時に、白猫は目を開け、こちらを見た。

パチクリと瞬きをし、瞬時に立ち上がる。

どうやらこちらを警戒しているようだ。

一歩近付くと、5mほど先まで逃げ出した。



俺は溜め息を吐いて、噴水の縁に座る。

溶ける前にとアイスを開封し、大口を開けて齧り付いた。

キンキンに冷えたソーダ味のアイスを、口の中で堪能する。

太陽の光に照らされて、バテバテになっていた体に活力が戻ってきたような気がする。

あっという間にアイスを食べ終えてしまった。

次にコーラを開封する。口を付けて3分の1程をゴクゴクと一気に飲んだ。

アイスでベタベタになった口内を洗い流し、体の底まで爽やかになったような気がした。



一息ついて横を見る。

白猫がジーッとこちらを見詰めていた。

ビニール袋から紙皿を取り出し、その中にキャットフードの中身を3分の1程入れる。

取り敢えず地面に置いてみる。

気にはなっているようだが、それでも近付いては来ない。

俺は紙皿を持って少し遠くに置いた。

すると、その様子を見ていた白猫がゆっくりと紙皿へ近付いていく。

キャットフードを一口食べ、安心したのかどんどん食べ進めていく。

やがて中身がなくなり、白猫は再度こちらを見詰める。



俺が白猫に近付くと、少しだけ後ろに下がった。

紙皿を持って縁に戻る。

また餌を補充し、今度は普通に地面に置いた。

白猫は少しだけ躊躇していたが、空腹には勝てなかったようだ。

こちらを見ながら近寄ってくる。

近くに来ても俺が何もしないとわかると、紙皿の餌に食いついた。

先程よりは遅いが、それでも猛烈な速度で餌を食い散らかす。

よほど腹が減っていたようだ。



やがて再び紙皿を空にし、こちらを見上げてくる。

「これで最後だぞ。」と言いながら、キャットフードの中身を全部移し、今度は俺の隣、噴水の縁に置いた。

白猫はすぐに登ってきて、餌に食いついた。

その間に他の紙皿を取り出し、コンビニで買った水を入れる。

それを餌の横に置くと、白猫は警戒もせずにペロペロと舌をつけた。

ーーー可愛い...。

きっと今の俺の顔は、人様には見せられないほど崩れていることだろう。

その顔を隠すように、グイッとコーラを喉に流し込んだ。



白猫が餌を食い終わる。

水もそれなりに飲んだようで、至極ご満悦な様子だ。

くあーっと体を伸ばして欠伸をしている。

思わず頭を撫でると、一瞬だけピクリと体を動かしたが、直ぐにリラックスして寝転がる。

体中を撫でたり掻いたりしていると、体を起こして歩み寄ってきた。

何をするのかと見ていると、なんと俺の膝に乗ってきたではないか。

そこでまた欠伸をし、丸くなった。

俺はただひたすら白猫を撫でながら、長い時間ボーッとしていた。






気付くと夕方になっていた。

昼間の暑さは鳴りを潜め、哀愁を呼ぶ涼しい風がふいてくる。

白猫も眠りから覚めたようだ。

顔を上げてキョロキョロと周囲を見渡す。

俺の膝に乗っていることを思い出し、こちらを見上げてくる。

優しく頭を撫でると、体を伸ばして欠伸をした。



それから少しして、そろそろ家に帰ろうかと思った。

「そろそろ俺は帰るよ。お前もゆっくりできる場所を探しな。」と言うと、意味がわかっているのかいないのか、俺の肩に乗ってきて首筋をペロリと舐めると、飛び降りてスタスタと歩き去って行った。



それからと言うもの、偶にこの公園を訪れては、白猫と戯れたりしている。

あれから餌はやっていない。

コイツもそれは期待していないだろう。

特に催促されるような事はない。

ただ噴水の縁に座り、白猫は膝の上で眠り、俺は撫でるだけ。

それだけの関係だが、俺にとっては大切な時間だった。

コイツもそう思ってくれていたら良いな。

そう思った。

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