表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

つかの間の平和

 えいと少年がかけ声を上げ、アスに木刀を降り下ろした。少年の名前はトキという。この前起きた勇者兵器化計画で、アスが救い出した少年だ。

 トキは身寄りがない孤独な少年で、戦いの後イースの関所に送り届けたのだが、助けてくれたアスに憧れ、勇者になりたいと、わざわざアスに弟子入りするために、聖域まで上ってきた逸材だ。

 初めアスはまさかトキが弟子入りしたいと言うなんて、思ってもみなくて驚いたが、勇者候補が現れたことが嬉しくて直ぐにその申し出を受け入れた。

 そして今アスはトキの訓練に付き合っている最中である。勇ましい声を上げて木刀を振るトキの顔は真剣そのもので、まだ幼いからかスポンジのように技を吸収していく。その凄まじい進化を楽しげに眺めるのはアーサーだ。

 初めトキはアーサーの存在にかなり驚き、興味津々できらきらとした目でアーサーを見詰めて、「あなたもまさか弟子ですか?」などと聞き、アーサーを渋い顔にさせて、アスの笑いのツボをつついたのは最近のことである。

 アーサーは違うと主張したが、トキはそう思っておらず、結局のところトキの中では、アーサーは未だにアスの一番弟子というたち位置になっていた。


「よし! それじゃあ休憩するか」

「はい師匠!」


 丁度太陽が真上に昇っていたので、アスは昼食の準備を始め、トキは幼いなりに手伝いたいのか、ちょこちょこと動き回り食器を並べる。アスはそれを見るたびに、痒いところに手が届くやつだと関心する。

 そしてそれに比べて何もしないアーサー、王様気分が抜けてないのは分かるが、これだけ対照的だと少しだけがっくりする。だがもしトキに感化されアーサーが手伝いたいと言い出したら、大変なことになるので、それは仕方ないかと思った。

 何せアーサーは剣術以外は何もできない。野菜をきざもうとして、野菜ごとまな板を切ってしまったり、洗い物をさせると食器を割るのはいつものこと、これでは困ると、台所への進入を禁止したくらいだ。だから戦い以外でアーサーの助けを必要とすることはない。

 アスは思考を手元に向けると手軽に料理を作り上げる。今日は野菜の肉巻きにミートボール、お化けかぼちゃの煮物だ。トキが育ち盛りなのでこの頃は一食三品を心がけながら作っている。

 ちゃんと大きくなるんだぞという気持ちは、さながら父のようである。食卓を囲み皆それぞれ食べ初めると、賑やかになり、アスはそれを嬉しげに見守った。

 食事も終わり家の外の草むらにアスがごろりと横になると、突然ドンとした音がして、慌てて女神の踊場に向かって走り出す。するとそこには顔の形をした大きな石の魔物が居て、魔物は何かを狙いドスンドスンと踏みつけるように動いている。アスが茂みから姿を現しても魔物が気付く気配がない。


「何やってんだあれ……」


 よく目を凝らして見るとそこには小さな妖精が居て、妖精はこちらに気付くと、きゃんきゃんと吠えるようにアスを怒鳴り付けた。


「ちょっと! 見てないで助けなさいよあんた!」

「うぇ? オレ?」

「そうよあんたしかいないでしょ!」


 生意気な妖精だが仕方がない、アスは妖精を助けることにした。

 魔物を前に腕をならし、次の瞬間走り出すと力一杯その顔を蹴り飛ばした。すると魔物は遠く彼方に消えて星になる。その一部始終を見ていた妖精の口が驚きであんぐりと開いた。


「ああああんた、つっ強いわね!」

「そりゃどーも」

「あんたなら知ってるかしら! 私アスライル・カルバネーラを探しているの! どこにいるか教えなさい!」


 ふふんと偉そうに腰に手を当て言い捨てる姿は、まるで我が儘なお嬢様そのもので、プイとそっぽを向く。その様子からまるでアスのことなど眼中にないといった態度が見える。アスはため息を付くと口を開いた。


「それオレだけどなんの用だ」

「ええー! あんたが勇者なの! どうりで強い筈だわ!」

「ちょっと待てオレは勇者じゃありません」

「もう勇者だろうがなんだろうが強けりゃなんでもいいわ! お願い女王様を助けて!」


 突然そんなことを言われてもと思った。アスは慈善事業をしている訳ではない。だからほいほいついていくつもりはないのだ。

 そわそわと落ち着かないのか、妖精は紫の瞳を潤ませ、美しい金の髪の先をいじりながら返事を待っている。


「なんでオレが妖精女王を助けてやらなきゃならない。どうせ戦争に負けて連れていかれただけだろう?」

「それは確かにそうだけど……

女王様がイースの宮廷魔術院で力を利用されたら、犠牲は私達妖精だけでは済まないわ!

世界のバランスは崩れ、混沌の時代が訪れるのよ。

下手したらこの世界に封じ込められている神獣達が、目覚めてしまうかもしれないし、そうなったら神獣達に聖域の力を奪われて、世界樹が枯れてしまうかもしれないじゃない。あなただって困るんじゃないの?」


 アスは唸りながら考え込む。

 ここで手を貸していいものかと、妖精女王は人を罠にはめるのが大得意で時々過ぎたイタズラをする癖がある。

 だから少しは痛い目にあってもいいとアスは思っていた。

 だが神獣の話を持ち込まれるのは困る。神獣はこの世界に大災厄をもたらす伝説の生き物で、各国に一体ずつ封印されている。その脅威は魔王を超える程で、しかも神獣は聖剣でしか封印することができない。なぜならそもそも聖剣は神獣を封印するために神によって創られたものだからだ。だからもし世界が混沌に包まれ神獣の封印が綻び復活したら、アスがそれを退治しに行かなきゃならなくなるのだ。

 それに連日色々な国から使者は来るだろうし、それをいちいち断るのも面倒だ。その上、居座られたらたまったものじゃない。

 しかも神獣はかつて自分たちを封印した神の化身である世界樹から力を奪うため、聖域に攻めて来るだろう。世界樹はこの世界に根を張り、聖なる力で悪の化身や大災厄から世界を守っている存在で、この星の持つエネルギーの源と繋がっている。なので世界樹が枯れるということはこの世界の破滅を意味する。そうなったら勇者になりたくないとか言ってる場合じゃない。アスのスローライフは脅かされること間違いなしだ。

 ここらで手を打ち、この生意気な妖精の願いを聞いてやるしかないだろう。


「いいか! オレはほいほい動くような男じゃない。だが聖域が脅かされるのは困る」


 これはもしかして私のお願いを聞いてくれるのかしらと、期待に満ちた目で見詰められる。


「しょうがないから助けてやるよ」


 棒読み状態のアスの返事に、妖精は嬉しさを爆発させ万歳をしながらくるくる回り、白いスカートの裾をふわりと揺らす。

 まあしょうがないだろうとアスは自分の中で結論付けると、とりあえずは準備だなと考えながら来た道を帰っていく。

 すると家からトキとアーサーが飛び出して来て、アスがどうしたものかと考え込む。トキをひとりでは置いてはおけない。だからといって連れていけば聖域を守る者が居ない。困っているとアスを呼ぶ明るい声がして振り返る。

 そこには穏やかに笑い、手を振るルークが居た。


「ナイスタイミングだルーク!」

「えっ! 何ですか突然、もしかしてまた事件でもありましたか?」


 不安げにアスの顔を伺うルークに、アスは頷く。


「そうなんだ。

実はティルナノーグの妖精女王が捕まりイースに連れていかれたみたいなんだ」

「えっ! それは大変じゃないですか! 聖域のことはオレに任せて下さい」


 ドンと胸を張るルークが頼もしく見えて、アスはトキの面倒も含め、ルークにお願いする。そして少し不安げなトキの頭をクシャクシャと撫でた。


「トキ、ルークは強い兵士だ。だから魔物が聖域に現れても大丈夫だ。それにルークは物知りだからな、オレが留守の間に色々なものを学ぶといい。そしてルークと共に聖域を守るんだぞ。分かったな」

「はい師匠! 僕が聖域を守ってみせます」

「よし! いいこだ」


 頼んだぞとアスはルークに目配せをすると、アーサーを連れ聖剣の元に向かう。

 緩やかな坂道を登っていくと、一緒に行動していた妖精が興奮し、辺りを飛び回る。すると妖精はいち早く聖剣を見つけ、感動のあまり涙をこぼし始めて、アスはぎょっとする。


 この聖剣泣くほど凄いのだろうか。


 妖精は涙を拭うとそっと見守る。

 聖剣は日の光を一身に浴びて光り輝いていた。アスはその柄を握り集中する。すると聖剣から力が流れ込み、アスの手の甲に聖痕が浮かび上がる。すると聖剣はすんなりと抜けた。

 その一部始終を見ていた妖精はアスをうっとりとした顔で見つめる。


「やっぱり勇者カッコいいわ」

「オレは勇者じゃありません」

「ちょっと! 水ささないでよ! あーもう折角の感動が台無しよ!」


 がっくりと項垂れる妖精にアスが笑うとぷんぷん怒られ、ポカポカと殴られるが痛みはない。


「なあ妖精しょげるなよ」

「妖精!? 私にはプリムっていうちゃんとした名前があるんだから、今度からはプリムちゃんと呼んでちょうだい分かった!」

「はいはいプリムね」

「あーもう私のこと馬鹿にしたでしょう! 許さないんだからね!」


 アスは機嫌の悪いプリムを掴み、腰の道具袋に入れた。袋の中でプリムが暴れたがそれを気にせず、坂道を一気に下ると、女神の踊場から飛び降りた。

 どこまでも続く青い空、眼下に広がる緑豊かな大地にアスは目を奪われていた。東に見えるのはイースの誇る広大な平原、青々としたその景色は圧巻である。平原から首都に目を向けると、その空には暗雲が立ち込めていて、アスはこれは魔物に攻められているなと感じた。

 妖精は普段はよっぽどのことがない限り、森から出ない生き物である。 なぜなら妖精は、聖域の力を受けた清らかな森でしか誕生できず、不浄のものに耐性が無い。 なので魔物が帯びる障気に弱く、今回のような戦争をおこすというのは珍しいことなのである。だからなぜ平原に出てまでして、戦争などしたのだろうかと考え込んでしまう。

 原因は幾つか上げられるが。その中でも一番有力なのが、イースが大量に妖精を捕まえ、しかもそれをぞんざいに扱い、殺してしまった。それが原因で妖精女王が怒り、反撃をして戦争が始まってしまったというものである。

 仲間を取り戻そうとする妖精に対して、イースは、これを期にいっきに妖精を獲得しようと、魔物の影を放置してまでして戦争をした。そしてそのツケが今になって表れ、あのように暗雲立ち込める事態へと繋がったのかもしれない。

 だがそうなると色々とまずい展開になってくる。妖精女王は妖精の中では確かに力は強いが、イースを襲う障気の中に居続けるのは流石に難しいだろう。なので守りに入るかもしれない。

 妖精は守りに入ると花の種になる特性がある。種になると、冬眠に入る生き物のように、眠りに付く。そうなると長い年月をかけて、聖なる力を蓄えないと復活できなくなる。もし今回のことで妖精女王が種になってしまったら、復活まで大変なことになるだろう。

 今まで牽制していた国々に攻められても、妖精達は何の防御もできないし、森の動物達も攻撃的になる。果てには魔物に脅かされることにもなるだろう。そうなったら妖精達は絶滅してしまう。そして世界のバランスが崩れ、混沌の時代の幕開けになるだろう。

 事態は思ったよりも深刻で、面倒な話しになってきたとアスは渋い顔をし、ため息を付いた。とにかく今はイースに乗り込むしかない。

 アスはスピードを落とし着地すると道具袋からプリムを取り出した。

 プリムは真っ青な顔をしていて大丈夫かと少し不安に思い、項垂れるその顔を覗き込む。


「うう、吐きそうだわ……」


 どうやら酔ってしまったようである。普段は自力で飛んでいるため、他人の動きに合わせるのは難しいのかもしれない。人差し指でそっと背を撫でてやる。


「あんたって意外に優しいのね」

「優しくはないぞ盗賊だしな」

「そうなんだ。あんた盗賊だったんだ。うん、でもありがとう」


 生意気が萎れるくらい、プリムの中では大変なことが起きていたのかもしれない。ありがとうが言えるのだから、こいつは悪いやつではないだろうとアスは思った。


「じゃあ行くか!」

「そうね! 憎きイースの魔法使いをギャフンと言わせてやるんだから!」


 気を取り戻し、宝石のような目を吊り上げて喚く姿は、やはり我が儘なお嬢様そのものだ。プリムが肩に乗ったのを確認するとアスは走り出した。

 目指すはエルフの住む里アルフヘイムだ。エルフとイースの魔法使いの関係は、とても良好である。そのためアルフヘイムの長フレイから、関所を越えるための手形を貰い、イースの国境を目指せば、苦労なく入国できると考えたからだ。

 スリープフラワーの迷宮を東に進む。戦争で大勢の妖精が死んだのか、そこは不気味な程静まり返っていた。迷宮は力を失いただの森と化している。


「うう……みんな、私が女王様を必ず助け出して元の迷宮にしてみせるからね」


 瞳いっぱいに涙を溜め気丈に振る舞う姿を見て、アスの心が動き出す。今回ばかりは見逃すことはできない。どうやらイースにはお灸が必要なようだ。だからまだ生き残っている、捕まってしまった妖精達を盗み出そうと決めた。




 風を切り迷宮を抜けると、大樹の生い茂る森へと足を踏み入れる。すると何処からともなく矢が飛んできて、アスはその矢を掴んだ。

 するとぐるりとエルフの弓兵に囲まれて、面倒なことになったとアスは思った。


「そこの怪しい奴! この森に何の用だ!」

「友人である。アルフヘイムの長フレイに会いに来た!」

「フレイ様の友人だと嘘をつくな! フレイ様に知己は居ない! 貴様名を明かせ!」

「アスライル・カルバネーラだ」

「なんだと! よりにもよって勇者の名を騙るとはなんたる無礼か! 勇者は貴様のような者ではない! ちびでひょろひょろとした悪党め! 射殺してやる!」


 アスは無言で放たれた矢を掴み取り睨みつけた。ちびという言葉と体型のことはアスにとっては禁句である。アスの一番コンプレックスであるからだ。

 アスの体から出た殺気にエルフ達は動揺し、ひとりの部下が、リーダーと思われるエルフにこそこそと耳打ちをする。

 すると我慢がならなかったのかプリムがアスの代わりにぶちキレた。まさに怒ろうとした時に、連れが怒り出すと、不思議と怒りが鎮まり冷静になるのは、よくある話しである。

 アスは呆然とプリムを見つめ固まった。


「もう! 怒るわよ! アスは聖剣に選ばれし者なの! あんた達とは格が違うんだから、さっさと長の元へ案内しなさいよ!」

「プリム、オレは大丈夫だから落ち着け」

「ちょっと、あんたもあんたでちゃんと本物ですって言いなさいよ! 馬鹿!」


 キャンキャンと吠えるプリムを前に、エルフ達はドン引きしているのか、攻撃体勢を止めこちらの様子を伺っている。

 さてどうしたものか。ここで「オレは勇者じゃありません」だなんて言ったら大問題だ。だからといって認めるというのもどうかと思い、なら感謝をしてプリムをなだめてみようかと口を開く。

 だがそれは思わぬ方向からの言葉で遮られた。


「アス! アスではないか!」


 振り返ればそこにはフレイが立っていて、突然の登場にアスが驚いていると、エルフ達は次々に片膝をつく。

 その合間を悠々と歩き出すフレイの足は軽やかだ。フレイの短く切られた銀の髪は美しく、ルビーのような瞳がアスを見つめる。


「フレイ、オレがなぜここにいるか神であるお前なら分かるだろう?」


 フレイは何もかも分かっているというように頷いた。


「ああ、妖精のためにイースに行きたいのだろう。イースの魔法使い達は、自分達の足下に封じ込められている神獣の存在を忘れてしまってるようだ。私は最初止めたんだが、強行されてしまってね。人間は本当に愚かな生き物だ。我々のような古き者の言葉など聞き取らない」

「オレをイースの奴等と一緒にするんじゃねぇぞ」

「分かっているよアス。君は別物だ。人間なのに神の思考を持つ特別な存在だと私は思っているよ」

「買いかぶり過ぎだ」

「アス、大丈夫自信を持ってくれ、君は素晴らしい人なのだから。アス先ずはアルフヘイムへ案内しよう。そして小さな妖精君、私は君を歓迎する」


 その言葉にプリムはもじもじしながらも頷いた。多分初めてみる神という存在に、驚き人見知りしたのかもしれない。アスの背後にぱっと隠れると、こっそりフレイを見つめている。そんなプリムにアスは大丈夫だと、その頭を人差し指でそっと撫でるとフレイに向き直った。

 フレイが歓迎してくれたのは、とてもありがたいことだと思った。

 神は気まぐれな生き物なので飽き性だ。今回のことは中立的な立場を貫くのか、イースのことはほとんど眼中にないと思われる。

 フレイは光の神で、眉目秀麗なその見た目から、神からも人からも崇拝を集める不思議な存在だ。意外と武勇に優れており、灼熱の剣を振り回す姿は、息を飲むほど美しい。また豊穣の神としても崇められているので、食いぶちにも困らないという、羨ましい能力もあるのだ。そして現在はエルフをまとめアルフヘイムを治めている。

 何だかんだ言っても、ヴァルハラに帰らずここに残っているということは、この世界をまだ愛しているということだ。本人にそれを言うと拗ねるので言わないが、アスはフレイのそんな人間くさいところが好きだった。

 フレイと世間話をしながら歩いて行くと、あっという間にアルフヘイムにたどり着いていた。

 アルフヘイムは木の上にできた里だ。大樹の幹に沿うように建てられた家々を見ながら、アスは木の枝の階段を登る。下を見れば結構な高さで、これなら獣に襲われることもないだろうと感じた。

 そこここに見える家のあかりが、薄暗い森の中を照らし、その光景はとても幻想的だ。その中を珍しげにプリムが飛び回る。


「あんまりはしゃいでると迷子になるからな!」

「なによ! 子供じゃないんだから迷子になんてならないわよ!」


 アスが生意気だなと思いつつ頭を掻けば、フレイが楽しげに笑った。

 フレイの家は一番高い木の、空洞になった部分に建てられていた。その部屋の中は、まるでどこかの国の玉座の間のように見えて、木の中にいるとはとても思えない作りになっていた。フレイは神であるし、その御業を使いこの部屋を作ったのかもしれない。

 部屋のいたるところに芸術的なまでに高度な技術で装飾が施されており、まるでフレイのためだけに造られた神殿のようである。


「フレイ、今回エルフは戦に参加しなかったのか?」

「ああ、そもそもこの戦はイースの傲慢さが原因で、起きたものだ。イースは初め妖精達を殺し宣戦布告をしたのだよ。

そして戦の様相が変わっていくにつれ、我らのもとにも戦に荷担せよという書状が両国から届いたが、今回は中立の立場を取る事にしたんだ」

「そうか、妖精女王はイースの挑発に乗せられたわけだ。けどお前のことだ何もしなかった訳ではないのだろう?

  妖精絶滅の兆しが出てることに気付いて、この世界が混沌に包まれると予測していた筈だ」

「ああ、だからそうならないように色々と裏からは手をまわしてはいたんだが」

「そうか……」


 もしこれ以上妖精が減ったら、世界のバランスは完全に崩れてしまう。そうなったら混沌の時代の幕開けである。


「今回は中立という立場をとってしまったから、大々的に各国に手出しが、できなくなってしまってね。困っていたところだったんだよ」

「まあ、そうなるだろうな。お前の言いたいことは分かっている。オレがイースを懲らしめればいいんだろ?」

「ああ、そうだ。いつもすまないね」

「いや、気にするな。最初からそうするつもりだったからな」

「そうかそれは助かる。では早速だが、このイースへの手形を使い、首都に向かってくれ。そしてイースの王国騎士の取りまとめをしている、フェルナンデス家と手を結び、宮廷魔術院を牛耳る王女ダユーを止めてくれ」


 フレイの言葉にアスは頷き手形を受け取り、握手を交わした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ