這いよる闇
それは闇に潜み今か今かと待ち構えていた。
宵闇の中少女と見紛う女が一人、蔵の中で自身の書き記した幾千もの書を見つめていた。
「この時は本当につらかった。イザナギ、貴方はなぜ……」
書は彼女の日記であった。それも一番古いものである。
女は自分を裏切った男を想い、その頬を涙で濡らした。
哀しみと少しの憎しみ。
しかしいくら時を重ねようと、愛する気持ちは薄れる事はなく、それがよりいっそう女の胸を締め付ける。
辛いのか……
女ははっとし、辺りを警戒する。
「何者だ! 」
憎いのか……
暗闇から声がする。
思わず後ずさると足に何かがぶつかった。しまったと思う間もなく体勢が崩れた時、女は視た。
異形のモノ。
闇のように黒く、影のようにゆらゆらと揺らめいている。
女は例えようもない恐怖に包まれ声をあげようとするが、それも叶わず意識は闇に飲み込まれていった。
異形のモノは、倒れた女に食らいつくように覆い被さり、その体に溶け込んでしまった。
「イザナミ様。如何されましたか? 」
女の声に気付いた従者が慌てて飛び込んできた。
「大事ない。下がっておれ」
従者が静かに扉を閉めると、女はふらりと立ち上がった。辺りをぐるりと見回しながら、女はクツクツと笑いだした。
「イザナミ様、か…… 」
女は灯りをふっと一息で消した。
すでにその瞳には、深淵の闇しか写されていなかった。
女、イザナミは、この瞬間より正気を失った。
それからのイザナミは狂った様に子どもを集めた。
まるで何かを呪うように……
そこは、地下なのであろうか。窓一つなく、空気は澱んでいる。室内には、年令性別さまざまな子達が檻に捕らえられていた。皆一様に怯えた顔で、身を寄せあって震えている。
「イザナミ様。北の村より10名の子どもを捕らえて参りました」
従者の報告を聞き、女は頷きながらさらに捕らえてくるように、と指示を出し下がらせた。
女は子ども達に目を向け、うっすらと笑みを浮かべながら呟く。
まだだ。
まだ、足りない。
まだまだ魂を集めなければ……
魔神という名の勇者を造るには……
女の背後からは、黒い影が陽炎のようにユラユラと揺らめいていた。