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答えない剣

 アスは始め懐かしい匂いがすると思った。故郷のそれも生まれ育った森である。そこはよく知る地だった。


「アス様、どうやら月夜の森に通じていたようですね」

「ああここからだと距離があるが、アルカディアの国内に入ったのだからまずは良しとしよう。そういえばルークお前はもう歩けるか?」

「はい大丈夫です」


 アスはルークを背から下ろすとナイフを構え、庇うように前に出る。すると、狼達が姿を見せた。


「ルーク殿とそのお連れの方。これより先に行ってはなりませぬ」


 ぐるりと取り囲むように現れた狼達は、うなり声も上げず静かにアスとルークの様子を伺っていた。どうやら敵視している訳ではないようで、アスはナイフをしまうと、声をかけてきた一匹の狼を見据える。


「オレ達を知るお前はアルカディアの王、狼王リュカオンの眷族か?」

「はい、そうです。ですが陛下はここには居ません。陛下は城で呪いを一身に浴び民を救いにげろと、ですからこの先は呪われし大地、踏み込めば命はない。我等と共にお逃げください」


 この呪いはうつるものなのだろう。じわじわと浸食してくる呪いと聖なる力もなく戦うのは危険だ。狼達の下した判断に間違えはない。


「呪いはオレが何とかする狼王リュカオンはどうしている?」

「一番呪いを受けているのか、我等の希望の綱となる聖水では、陛下の石化の呪いはとけませんでした」

「じゃあ孫のアルカスは?」

「殿下をお救いしようと思っていたのですが、今や半分の大地が呪われ、殿下にたどり着く前に皆石化してしまい、お助けすることができませんでした。

市民や兵は聖水で治ることが確認できてます。なので聖水があれば殿下の呪いは解けるかと……」


 アスは聖剣があるから呪われることはない。ルークもアスの加護ある為大丈夫だろう。後はアルカスの呪いを解いて何があったか聞き出すしかない。


「聖水は余っているか?」

「ありますどうぞお持ち下さい」

「王子は必ず助け出す。オレが呪いの原因を駆逐するから、それまで持ちこたえろ」

「ルーク殿とお連れの方どうかよろしくお願いします」


 アスはルークと目を合わせると頷いた。狼達が姿を消しトリポリに向かい歩きだす。

 月夜の森から見えるオーロラは段々と森に向かい延びてくる。逃げる小動物を目に歩みを早めれば、迫りくる呪いを目にした。じわじわと広がる灰色の世界、まるで色を無くしたように真っ白なそこへ、アスが一歩踏みいれば、色を取り戻したかのように、アスの回りの呪いが解けて緑が広がっていく。アスの歩んだ道筋に沿いルークは辺りに気を配りながら進む。


「まさかこの短時間でここまで呪いが侵攻していたなんて……」


 驚くルークにアスは確かにと思った。


「これは速いな。かなり力を持った存在が呪いをかけたってことだな」

「一体誰が……」

「それは行ってみないと分からない」


 アルカディアは中立国家で侵略とは縁のない国だ。そもそもアルカディアの軍力の主力である獣人は、無駄に力を誇示しないし、仲間同士で競いあい縄張りを持つことはあるが、無闇に攻撃したりはしない生き物だ。人を食べる野蛮な種族だと思われているが、本当は噂とは違い、人を食べるなんてことはない。狼王リュカオンは賢王だ。よっぽどのことがない限り戦争を起こしたりはしない。となると、アルカディアに呪いをかけた人物は、アルカディアを狙っている誰かということになる。

 ルークが分からないということは、思ってもみないところからの攻撃であると言える。

 アルカディアを攻略したい国は沢山ある。なので目星をつけるのが難しい。やはりここは王子アルカスからことの次第を聞くより他ない。

 呪われた大地を歩く。動物は居ない。植物は石化している。最悪の環境だ。これでは三食も食べたら直ぐに食料が無くなる。だが助かったのは水が毒水になっていなかったところだ。一昼夜歩き、元から持っていた干し肉とマメで簡単な食事をとる。そして少し休みまた歩き出す。

 何も色の無い景色、振り返れば通り道だけ色がある不思議な景色。魔王の住まう城のある暗黒大陸は呪われし大地だと聞く。この景色はそれに似ているのではとアスは思った。

 そうして歩くこと三日ようやくアルカディアの首都トリポリにたどり着いた。緩やかな丘陵地帯であるそこは、登り坂が多く、山頂にある城までの道筋が意外と辛い。

 山という地形を生かした天然の要害は攻略が難しく。三段に分かれた壁は高く聳え立ち、外からの浸入は空を飛ぶもの以外まずできないだろう。また西には川が流れており、それが堀の役目もこなしている。またそちらの壁が他より低く一見攻略できそうに見えるが、ひとたび川に入れば地に足がつかない深さで、しかも流れが速く、渡ることができない。最も危険な道となっている。

 アルカディアを空も飛べない存在が攻略するには、やはり今回の様な呪いをかけるしか方法がない。

 助かったのは門が開いていたことだ。もし閉まっていたら中に入ることは難しかっただろう。

 門をくぐればレンガで作られた建物が広がっていて、そこここに石化した人々がいた。その姿から逃げる間もなく石化してしまったのがうかがえる。町は不気味な程静かだった。

 歩く足はやがて駆け足になり、アスとルークは城を目指す。城門を抜け城の中へ、広い王宮の中ルークに案内されながら走り抜ける。アルカスは一番高い塔の上に居た。その姿は何かを見つめ驚きを隠せないといった感じだった。

 アスは聖水を取り出すとアルカスにふりかけた。

 まるで氷が溶けるように石化は解けた。アルカスは、突然動けるようになり、自身の手を握ったり放したりを繰り返し無事を確認すると、アスとルークに向き合った。


「アス殿にルーク、助かった」

「それで何があった?」

「私が見たのは、ムー帝国から立ち上ぼる紅い閃光でした。

地を揺るがす程のそれは禍々しく、光は我等に降り注ぎ、民は次々に石になっていきました。気付けば私までもが石にされ、私は動けぬ体で考えていました。我が国の同盟国ムー帝国の裏切りを……

これだけの規模の呪いは、帝王ラ・ムーの持つ雷の杖でしか起こすことはできないでしょう。

ですが今なぜ我等を裏切ったのか。

全くもって検討がつかなくて、ずっとそのことばかり考えていました。

それに以前私がラ・ムーと出会った時、かの方はとても優しく慈悲深い人でした。

なのでかの方が我等を裏切ったとは信じられないのです」


 アルカスの顔には憔悴が見える。もしそれが本当なら、ラ・ムーは一体何を考えているのだろうか。考え込むアスに二人はじっと答えを待つ。


「アルカス、お前もムー帝国に行くか?」

「アス様、何を考えてるんですか。それでは民を見捨てることになりますよ」


 ルークの少し怒りの籠った声をアスは制する。


「ルーク、アルカスがいようがいまいが呪いは侵攻する。それから月夜の森までの距離を、一人で歩かせる訳にはいかないし、だからといって月夜の森まで送り届ける時間はない。呪いを食い止めるなら、ここで足踏みしている場合じゃないだろう」


 ルークはアスの最もな言葉に、返す言葉が見当たらなかった。だがここで折れたらアルカスを危険にさらすことになる。それはならないことだった。


「ルーク、私はムー帝国に行きたい」

「殿下それはなりません」

「なら命令しよう。ルーク大佐はこれより私の指揮下に入り、アスライル殿と協力し呪いの元を駆逐せよ。」


 アルカスの真剣な眼差しにルークは深いため息をついた。こうなったアルカスを止めることはできない。それは長い付き合いから知っていたからだ。


「分かりました。殿下の命はこのルークがお守り致しましょう」


 騎士の礼をとるルークは、いつもの穏やかで優しいものではなく、まるで鋭い刃のようだった。

 アス達一行はトリポリを後にすると、ムー帝国の首都ヒラニプラを目指し歩き出した。ムーはぽっかりと海に浮かぶ一つの大陸で、地続きになっていない。なので海を越えなくてはいけない。交通手段の一つに船が上げられるが、呪われた今、船で移動は難しい。残された手段は古来からある道を行くというもので、二つの大陸を結ぶ海底にある神殿を通るといったものだった。トリポリの西にあるほこらがその入り口になっている。だがこの道は今や魔物に占拠された危険な道、長らく使われていない隠し道となっていた。色の無い大地を行く。アルカスはキョロキョロと辺りを見渡し、失われた緑の大地を思い、悲しげに視線を落とした。するとその足下にある僅かな緑に気付く。まるで真っ白なキャンパスに色をつけていくように、アスを中心に呪いは解かれていた。


「聖剣とは凄い力を秘めているものだな。アス殿、貴方が辿る道は光そのものだ」

「そうか? 聖なるものといつも共にあるオレからすると、呪いを解くくらいじゃ驚かないけどな」

「なんと! これは驚いた」


 アルカスの顔に笑みが戻り、アスはニヤリと笑った。


「王族は国の希望の象徴だ。アルカスお前の役目は、民の心に希望という光を灯すことだ。だからお前はどしっと構えて笑っていればいい。その笑みはやがて力になる。だからお前は誰よりも希望を持て、そして呪いに打ち勝つんだ。」


 アスの言葉をアルカスはしっかりと受けとめ胸に手を当てる。


 そうだこの鼓動が続く限り私は民の光であらねばならない。悲観してばかりではいられない。この大地の色を取り戻すためにも私が諦めてはならないんだ。


 アルカスは頷く。その顔には決意が見えた。


 トリポリからほこらまではそうかからず辿り着いた。神殿への入り口を隠す石の像をずらすと、地下へと繋がる階段が現れ、アスが魔法で光の玉を作り浮かべ 暗闇を照らす。中は鍾乳洞になっており、足を滑らせないように慎重に進んでいく。すると洞窟の奥から青い光が伸びているのが見えて、その先へと踏み出した。

 魔法だろうか、神殿を包む空気が海水の浸入を防いでおり、そこはまるで大きな泡の中にいるような空間だった。淡い光が射す青い空間は、波間に揺れてキラキラと輝いている。海を泳ぐ魚の影が時折通っていくのを眺めていると、空間を突き破り魚人の魔物サハギンが現れた。

 鉄のモリを手に、襲いかかってきたので、アスはナイフを手に走り出すと、その首を迷わずはねた。すると血の臭いに反応したのかサハギンが次々に現れたのでアスは叫んだ。


「走れ!」


 ここはサハギンの縄張りだ。一体一体相手にしていたら、らちが開かない。こういう時は逃げるが一番だ。神殿への道を真っ直ぐ駆け抜ける。行かせまいと回り込んだサハギンの首をはね。ちゃんと二人がついて来ているか確認する。水のうねりを使い滑るように追いかけてくるサハギンにアスは銃で脳天を撃ち抜いた。

 とりあえず神殿の中に逃げ込むと、サハギン達は神殿の外をうろつくばかりで寄っては来なかった。

 考えられる理由は二つ、一つ目は聖なる力があり近寄れない。二つ目はサハギン以上に強い何かがいる。もしも後者の場合は追い詰められたことになる。だが、どちらにせよ神殿の中を通らねばならないのだから先に進むしかなかった。

 生温い風が頬を撫でる。石造りの柱には金の装飾がされ、壁には壁画が描かれている。そこには古代の文字で何かが記されており、お宝に詳しいアスでも読み解くことができない。もしかしたら独自の文化があったという名残なのかもしれない。

 広い礼拝堂の天井は吹き抜けになっており、そこには天使が描かれている。祭壇の奥に創世の女神の像があり、その手には石の聖剣が握られていた。それがアスの持つ聖剣と全く同じ形をしており、その再現の具合から見るに、この女神の姿は本人に近いものなのではと感じた。だというと、この神殿は創世の時代に造られたものということになる。

 神殿に朽ちたところは無い。それはまるで時間を止められた様な場所だった。

 礼拝堂の脇にある扉を開けると開けた場所に出る。肉の腐ったような臭いに、アスは歩み出そうとした二人を止めた。


「武器を構えろ」


 ぐるぐると喉を鳴らす様な唸り声、どしんと何かが音を立てる。アスが光を灯すとそこには、ドラゴンゾンビが待ち構えていた。

 真っ先に動いたのはアルカスだった。弓を構え光の矢を放つ。続いてルークが走り出し、魔法で炎を纏わせた剣で斬りかかる。するとドラゴンゾンビが毒のブレスを吐き出そうとして、アスはルークに防御魔法を展開し、光の膜がルークを包み込むとそれをガードした。そしてルークが間合いを取ったタイミングで炎の魔法を爆発させる。

 炎に溶ける肉塊、悲鳴にも近い咆哮が空気をビリビリと揺らした。ドラゴンゾンビは尾を振り回し近付くことを許さない。だがそれもアルカスの矢を前にしては無力だった。放たれる矢は軌道を変え降り注ぐ。矢は正確に関節を貫いて、その緻密さにアスは驚きつつもルークの援護に尽くす。ドラゴンゾンビは動けなくなり、ルークの剣がその首を切り落とした。声を上げる間もなく崩れるように倒れたそれにアスは息つく。

 これほど強いとは思ってなかったので、息がぴったりの二人をフォローするだけで終わってしまい。その事実にアスは嬉しくなる。


 強い奴がいる。


 それだけでアスの心が踊る。機嫌のいいアスが鼻歌を歌いながら、ドラゴンゾンビを燃している姿は、まるで悪巧みをしている様に見えて、ルークもアルカスも笑みを溢した。

 高温で熱したため骨はバラバラに砕け灰となる。これでもう復活する心配は無いだろう。ドラゴンの後ろに隠れていた道を行く。長い回廊を抜ければ上に向かう階段が現れそれを上りきり、石の扉をこじ開けた。

 目の前に広がるのは湿地帯、雷がごろごろと鳴り落ちる。こんな水気の多いところで雷なんか落ちたら感電してしまう。しかも底なし沼もあるだろう。どう進もうかアスが考えていると、空から悲鳴が聞こえ、上を見た瞬間、アスの顔面に何かがべしゃりとぶつかった。何が起きたか分かっていないアスの顔から、ルークがそれを取り上げる。


「そこにいるのはアルカスではないか!」


 それは蛙でしかも喋った。


 まさかの出来事にルークは蛙を投げ捨てアルカスが弓を構える。アスはショックで固まったまま動かない。


「ちょっと待て! 待つのじゃ!」


 蛙は慌てて起き上がるとアルカスの足にしがみつき懇願する。その動きがあまりに人間臭くて、ただの蛙ではないと話を聞くことにした。


「今は呪われこんな姿をしているが、ワシはこの国の帝王ラ・ムーである」

「嘘くさい上にやたら偉そうだなお前……」

「嘘じゃないわい!」


 ぷんすか怒り出す蛙を前にアスは大きなため息をついた。


「それで帝王がなんでこんなところに居るんだ?」

「助けを求めに来たのじゃ。雷の杖は奪われ帝国は今やワシに成り代わった従者の手に……

ワシに化けたそやつは進言をした臣下を毎日のように処刑し、税を納められぬ村に火をかけたりと悪行を犯した。

ワシはトリポリにいるリュカオンに助けを求めるために雲に乗り、アルカディアを目指したのじゃが、禍々しい光に撃たれてな蛙になってしもうたのじゃ」


 アスがちらりと視線をアルカスにやれば頷いた。どうやらこの蛙をアルカスは信じたようだ。


「悪いが爺さんアルカディアには連れていけない」

「なんじゃと! なぜじゃ!」

「アルカディアはもう呪われているんだ。多分アルカディアを呪ったのはその従者なんだとオレは思う。だから呪いを解く為にも、そいつを倒しに行こうと思う。どうするついてくるか?」

「もちろんじゃ! 道案内はワシに任せよ」


 ラ・ムーはピョンとアスの頭に乗る。するとアスに向けて雷が降ってきて、危ないと目を閉じたが、何も起こらず痛みも痺れもなくて目をゆっくりと開く。


「おい爺さん何やった?」

「ワシは雷を操る者、雷の加護を与えてやったまでじゃ」


 ふふんと偉そうに言うラ・ムーは自慢気だ。


「雷の加護? つまりあれか雷に撃たれても大丈夫ってことか?」

「そうじゃ! いざ行こうぞ若者よ!」

「若者じゃなくてオレは盗賊の王アスライル・カルバネーラだ」

「あい分かったアスよ!」


 本当に分かっているのだろうかは謎だが、これで湿地帯を抜けることができる。古木で出来た足場に一歩踏み出す。目指す先は近いとそう感じた。

 沼地に足をとられないように休み休み行く。空は相変わらず雲っている。なんでも晴れた日を見たことが無いのだとか。雷がひっきりなしに落ちてくるので直撃を避けて通っていく。幾ら雷の加護があるとはいえ、何度も直撃したらどうなるか分からないからだ。

 しかもここは魔物が絶えない。とかげが人化した魔物であるリザードマンや、植物で長い触手を持つ魔物ローパーなどが昼間は活動し、夜は沼地で死んだ人の霊であるゴーストや人骨の魔物であるスカルマンなどが襲ってくる。

 なので昼夜気が抜けない。夜は交代で火を絶やさぬようにしながら眠りにつく。湿気ているので火をおこすのは難しいが、ゴーストやスカルマンは光に弱い為、そうするより他に無かった。

 暗闇からこちらを伺う無数の目はうろうろとしている。この火が消えたら一気に攻撃をしかけてくるだろう。アス一人なら蹴散らしてしまえばいいだけの話だが、今は仲間がいる。守る者がいるという事は力にもなるが、弱味にもなるということだ。アス一人の勝手な行動は仲間を危険にさらす。ずっと息を潜める様に待つ魔物達を放っておくしかない。

 アルカスがもぞもぞと動き目を覚ました。寝惚けた頭でうつらうつらとした彼にアスは連日の疲れが溜まっているいるなと思った。


「アルカスまだ交代の時間じゃない寝てろ」


 本当は交代の時間だったが一人考え事をしたくてアスはアルカスを寝かしつけた。

 歩き続けて四日、塔の様に高い避雷針がついた柱が増えてきた。戦争の知らせを受けて七日が経つ、間に合うか微妙なラインだ。

 それに困ったことにアーサーに話しかけても返事が無い。原因は分かっている。妖精達に聖なる力を使ったからだ。


 聖剣の力が弱まっている。


 この事実はアスの心に暗い影を落としていた。くよくよしたり悩み込んだりしても何も変わりはしない。それは分かっているし、自身が招いたことだ仕方がない。それにあの時の選択は間違えていないと思う。森の生態系が崩れれば絶滅する生き物が出る。生き物達が力を無くせば、その隙が神獣を目覚めさせる引き金になる。勇者兵器化計画から今回の事件まで、まるで盤上で遊ぶゲームの様な運びで、一つ一つ自分の力を奪われていくそんな感じがした。だからこれが魔王の思惑なのではと考えてしまう。

 各地で起きてる事件がこれ以上増えたら、幾らアスでも対応しきれない。頭にふと浮かぶのは、魔王を倒してしまおうかという考えだが、今それができるかと聞かれたら難しいところだと思った。


「なあアーサーお前はどうしたらいいと思う?」


 返事はない。そんなことは分かっている。アスは大きなため息をついた。自分の中でアーサーという存在がどれだけ大きなものなのか知らしめられたからだ。

 馬鹿で不器用で不遜でどこもいいところが無いがアーサーの声が聞きたいとそう思った。

 焚き火を木の棒でかきながら薪をくべる。こんなことを思うなんて可笑しいなとアスは笑った。その背はどこか物悲しく見えた。


 リザードマンの住みかの前を横切る。そこは木でできた砦になっており、彼等は高台からこちらの様子を伺っていて、アス達は足早に砦を後にした。

 ローパーを倒しながら沼地を抜け平原に入る。わだちのある道を歩いていけば城が見えてきた。近付けば近付くほど分かる。城下の外には墓地が広がっていた。そしてその墓標の数は多く、どれだけの人が殺されたかが伺える。

 城下は異様な静けさに包まれていた。昼間だというのに扉や窓は固く閉ざされ、気配はするが出歩く者はいない。


「ルークとアルカスは先に宿をとっておいてくれ、オレは情報を集める」


 決行は今夜だと言えば二人ははっとして頷いた。二人と分かれ酒場に顔を出す。閉じられていた戸を開き中を見れば、城の兵士が昼間から飲んだくれていて、口々に陛下は変わられたと嘆きの声が上がる。そしてそこにあるのは純粋な恐怖、いつ自身が殺されるのかというものだ。

 適当に席につけば兵士の言葉が耳に入る。


「なんでも、王が別人になってしまったと口にしただけで、牢屋送りになった奴がいたらしいぞ」

「しかも名だたる臣下の殆んどが処刑されて、今じゃあ不正を働くような連中を側近としている。この国は滅びるのかもしれないな」

「陛下の雷の杖は汚れ、今や呪いの杖だ。杖は心を映す、オレはあれが陛下だとは思えない」

「だがそれを口にすれば何が起こるかお前も分かってるんだろ? 止めとけよ」


 状況は最悪だ。やけになり安酒で恐怖を紛らわしている兵士達の口から情報を聞き出すのは簡単だ。夜、見回りの兵が居ないルートを聞き出すと頭に叩き込みアスは宿へと戻った。


「アス様どうでしたか?」


いつになく真剣なルークの顔にアスは頷き話し出す。


「聞く限りじゃ警備はざるだ。夜、攻め込み派手に暴れ、兵が目にするように仕向けて倒す。って言っても向こうの武器は雷の杖だ。普通に戦えば派手になるだろう。後はどうやって倒すかだが……」

「雷よりも速いとなると光魔法が必要ですね。私、アルカスとルークが後衛をしましょう。この大陸中でアス殿より速いものは居ないでしょう。速さ比べは任せます」

「分かった。後衛はアルカスの弓とルークの魔法で、前衛はオレがする。そんで爺さんの従者とやらを倒す」


一同見つめあい頷く。首都ヒラニプラの奪還作戦が幕を上げたのだった。

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