らしくない日
なんか、リア充っていいなぁーって思えるような小説を書こうと思い、書き上げました。
リア充には慣れていないので、評価のほどはお手柔らかにお願いします。
日が僅かに登り、カーテンの隙間から光が漏れ出す。ピピピ、ピピピと、目覚まし時計が小うるさい。パン、と、小気味良い音を立てて、目覚ましを止める。デジタルの文字が6時を伝えてくれる。
「弘人くん。そろそろ起きないとー。」
キッチンから妻の優子の間延びした声。
毎朝この時間、ぴったりに彼女は僕を起こしてくれるのだ。トントンと包丁が鳴らす音には何処となく安心感を覚える。
「もう起きてるよ。」
目を擦りながら、リビングに入る。すると、どこか上機嫌な優子の顔。
「ささ。朝ごはんもう出来てるから。」
椅子を引かれ、座らせられる。 眼前には、整然と並べられた朝食たち。
瑞々しいサラダに、こんがりと焼きあがったトースト、カリカリのベーコンが添えられた目玉焼き、湯だつコーヒー。いつもながら思うが、彼女は料理が上手い。
「今日は洋食なんだね。」
何とは無しに思い呟く。彼女が大抵作るのは和食である。
「うん。洋食の方が合うからね〜」
トーストを頬張りながら、答えてくれる。少しずつ食べる感じがとても可愛らしい。
「合う?」
疑問に思い、考えるも答えは見当たらない。
「さぁ、弘人さんに問題だよ。最愛で最高に可愛らしい妻が今日考えてることはなんでしょーかー。」
ニコニコと、この季節特有の寒さを感じさせない笑顔で言ってくる。だが、全く見当が付かない。そもそも、ノーヒント過ぎるのだ。この問題はたぶんニュートンなんかでも分かるまい。
「ヒントは?」
そう思ったので無論ヒントを貰うことにする。彼女は細長い人差し指をくちびるに当て思案顔。
「んー。今日のメニューかな。」
そう目を少し逸らしながら、本当に僅かに逸らしながら答える。彼女が嘘をつくときの特徴だ。だが、このヒントそのものが嘘ではないだろう。このヒントそのものが嘘であるならばそもそも僕は彼女の出題には至らない。
「今日のメニューねぇ…」
土曜の朝は時間がある。ゆっくりと、真剣に思案する。
すると、彼女の顔はどこと無く不満げになっていた。
「ん?どうしたの?」
聞くと、彼女は答えずにテレビを付けた。いつも見るニュース番組とは違う、土曜限定の番組である。今日この日、バレンタインというイベントの特集をやっている。まさか……
バレンタイン、それは欧米などで親しまれる文化だ。洋食が合うという理にもかなっている。
しかし、バレンタインにどこか連れて行けというなら前々から言ったはずだろう。若手社員は忙しいのだ。主にこき使われるので。
「バレンタイン。」
有り体に、簡潔に、自身満々に答えを伝える。
「んー惜しいかなー。」
小悪魔な笑みを浮かべている彼女。その彼女に今この僕はどんな顔を向けているかと言えば間抜け面だ。
「分かりません。負けです。ごめんなさい。」
ちょうど朝食を食べ終わった所でギブアップ。彼女は不満げだが仕方がないのだ。分からないものは分からない。
「むぅー。今日は結婚記念日だよ?さらに5周年記念。」
彼女は不満気な顔から一転得意気。
ああ。これを忘れていてはいけない。
〇〇記念日。というのは、僕からすれば余程のことはないけれど、彼女からすれば大切なものなのだ。これは2年前の結婚3周年記念日に教えられていた。
「ごめんなさい。」
そう言いながらあたまを下げると、眼前のコーヒーにチョコが入れられる。
コーヒーの熱さにゆっくりとチョコは溶けてゆく。
「今日はいっぱいサービスしてもらおーっと」
そう呟くと彼女は皿を持ち、キッチンに歩いて行った。
「あー。次は10年かな。」
次こそは忘れまいと、決心を固める。固めた所で、スプーンでコーヒーをかき混ぜると、まだ溶けきれていないチョコ。
それはまるで結婚しても冷めない僕等を示しているようだった。
「恥ずかしいな。」
今のは流石にクサすぎると思った。
「んー。遊園地にしよっかなー。それとも、温泉?ご飯?迷うなー。」
ウキウキとした彼女の声がキッチンから聞こえる。
コーヒーを見やると未だ溶けきれていないチョコ。
「いや、これはあいつが可愛すぎるからだろ。」
ああ、今日は本当に冬らしくない。
ありがとうございました。
コーヒーにチョコは会うんでしょうか…