記録係カタリナ・ウヅキ、初めての仕事
「これが記録です」
「……は、はいっ!」
とある日の冒険者ギルド。ぼろぼろ(でも五体満足)となった冒険者たちから報告書をもらい、記録係の新人、カタリナ・ウヅキは息を飲んだ。
「冒険者の皆さんって、本当に凄いんですね」
「まぁ、今回は神剣の力もあったからまだなんとか生きてるって具合かな」
カタリナが話しているのは、勇者候補生として名高いヴァルター・ロー。彼が今回臨時のパーティを率いており、その為みんなの報告書をカウンターに渡したのだ。
後には殴りメディックで有名なヤオヨロズ教の神官のコーサ・ジョウゾウ、猫族の盗賊セイエ・エルフイ、細い魔導士イザク・スザク、そして白い髪が目立つ戦士カミィユ・ナーザが見えた。
「全員無事にあのサイクロプスを破るとは、凄いですね」
「詳しい事は報告書を読んでね。お仕事終わったら俺と一緒に食事にでもどう?」
「すいません、私、弟たちが待っているんで」
ヴァルターのナンパ(?)をスルーして、受け取った報告書に目を通す。そして、7日から半月で纏められる事を伝えると作業に移るべく冒険者たちのお見送りをした。
「どれどれ……」
カタリナが報告書を読むと、サイクロプスは空腹だった事、弱点である目を狙うべく、まずは邪魔な腕を落とすところから始めた事、セイエが影に溶け込んで気を引き、イザクの魔法で両腕を凍らせてカミーユとコーサで腕を断ち、とどめにヴァルターが剣で目を貫く、というコンビネーションが決まった、という事が記されている。
また、犠牲者に関する報告や周囲の損傷などについても事細かに書かれており、コーサによって略式ながら慰霊式をやった事、近日中に本格的な葬儀を行う事も記されている。
「さすが歴戦の冒険者は違いますね……」
本当はお菓子とお茶を片手に読みたいが、仕事なのでそうもいえない。報告書は保管しなくてはならないからだ。そして、誰でも閲覧できるように報告書をまとめるのも自分の仕事なのだ。
カタリナは、最終報告書を始めて担当する。故に緊張はしたものの、書ける事の喜びを感じていた。冒険者たちの活躍は、人々にとって娯楽でもある。自分が纏めた報告書が、世に出るという事がとてもうれしかった。だからこそ、がんばりたかった。
カタリナは他の業務をやりながら報告書を纏めていく。しかし、報告書というよりかは、もはや小説に近い。しかし、『閲覧可能な報告書』はそれでよかった。冒険者たちの報告書を「読みやすく」「面白く」するのが記録係の仕事なのだ。
それとは別にきちんとした最終報告書も作成する。これは依頼人へ送られる物で基本的に一般には出回らない。こちらは冒険者たちの報告書をもらったその日に作成し遅くとも翌日には発送するのが規定である。
こうして、カタリナとしては初めての最終報告書が出来上がる。
人々はどんな風にしてあのサイクロプスを倒す事ができたのか、その最終報告書を読んで感心していた。
(リテイクとかもあったけど、喜んでもらえたかな)
そう思いながらも彼女は喪服を纏い更衣室を出る。サイクロプスの犠牲になった冒険者や旅人の葬儀がホシロで行われるため、それに参列するのだ。ちなみに、報告書を作成した担当者が亡くなった冒険者などの葬儀に出るのは当たり前の事だった。
「いってきます」
カタリナは一礼するとギルドを出、乗合馬車のターミナルへと向かうのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
……まったりのんびり、やらせていただきます。