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エッセイ

「倍音的エクリチュール」と村上春樹の文学 文学は言語を越えられるか?

作者: 白星マサキ

誰かに感動して欲しい、共感して欲しい!

それは作り手が必ず持つ願望。

作りたいものがあるけど、世間から受け入れられない……

そう言う人は、多分もう少しで何か掴める。

あと一歩考えて欲しい。

Twitterの方で書き散らしたことを、少しまとめて掲載する形です。


 先日友人と話している中で、自分の創作に対して持っていた観念が一つ先に進むのを感じました。村上春樹と言う作家は何者なのか?と言う話の中で、村上春樹文学の『倍音的文学性』と言う考え方を教えてもらって、目から鱗でした。なるほど、そう言う共感の創出方法があったのかと。


 内田樹さんの考えた言葉なのかな?倍音的エクリチュールというのが正しい表現なのだろうか。村上春樹から聞こえる倍音 で検索して出てくる記事あたりを読むと何となく考え方の概要は掴めるかな。友人はもっと本格的に勉強したらしく突っ込んだ話を色々してくれたけれど、とても興味深かった。


 作品の価値と言うのは基本的に表出された成果物と読者(もしくは聞き手、観客……)との中間に、その受け手によって創出されるという考えは元々持っていて、そう言う意味で一人でも多くの人間にとってパーソナルな問題としての文学的主題を感受させることが重要と言う風には考えてたんですがね。


 多くの人に受容されると言うことと、パーソナルな主題との間には完全な質的分離があると言うイメージが何となくあったんですよ。宮崎駿作品に代表されるような「分かる人には分かる。分からない人にも、分からないなりに楽しめる」と言う形を想定していた。前者がパーソナルな主題、後者が普遍的娯楽性。


 エヴァンゲリオンの大ヒットの中で、視聴者一人一人が「シンジは自分だ。シンジの問題は、自分自身の問題だ」と感じた現象と同じ、レンジが非常に狭いからこそ強烈に抉りこまれるパーソナルな主題。その狭いレンジがニーズ(読者層)と完全に一致したところに強い共感によるヒットが生まれると。


 でも実はそうではない。非常にレンジの広い、ある意味で徹底的な客観性と言う風に呼べるような描写の積み重ね(村上春樹はこの徹底っぷりによってある意味で無国籍的な世界観を成立させていると感じられる)によって、その中から読者が倍音的に、パーソナルな主題との重なりを創出する事が出来る。


 これは先述したパーソナルな主題と、普遍性の担保が乖離したものではなく、緩やかな連環を保っているもので有り得させてしまうという、強烈な蓋然性を創出する機関なんじゃないかと。確かに冷静に考えてみれば、本当に名作だと感じられる作品において二重構造、分離構造は発生していない。


 もし二者の間に乖離が発生していれば、前者は後者にとって必要ではない要素であり、逆もまた然り。つまり、作品と言う一つの限りある情報量の束の中で、不要な部分が存在していることになってしまう。でも、真の名作には無駄は一つもない。作品の全てが必要な要素である。この矛盾に目を瞑ってた。


 ではそう言う倍音性を意図的に確立することは出来るのか?いや、村上春樹がそれを行っている以上は可能ではあるのだけど、それを自分にも出来るのかと言うのはなかなか難しいかもしれないけれど、これから作品論を考えていく上では考えなければならない重要な概念だろうなと。


 村上春樹が世界で愛されるのは、きっと英訳との親和性が高い文章と言う手続き的性質によるものではない。彼の文学のもっと本質的な部分が、文学の持つ表現媒体としての言語から解き放たれたその先の部分で重要な働きをしているからなんだと思う。


 芸術は言語の壁を越えるというけど、僕の場合それは突き詰めていけば文学にも言えるのではないかと思っていて、文学は表現されている上では確かに文字の集合体であって言語依存性を持っているかもしれないけれど、だからって音楽は空気の振動だとか絵画は絵の具の集合だとかで話は終わらないでしょ。恐らくみんな、芸術の本質はそこにはないんだと言うことは分かってる。それは、文学も同じではないか?


言語は文学にとって通り道に過ぎない。自分はまだ、その通り道である言語を扱うのに四苦八苦している状態だけれども。


「誰でもない」という無個性性によって万人に阿るのではなく、「誰でも有り得る」倍音性によって万人を共鳴させたい。ただそれは「誰でも良かった」と言うことではなく、一人一人が「自分のものだ」と感じられるような、強い共感を呼べる形で。


大きな目標。

まだまだ思索の途中です。結論は出てません。

意見や批判などお待ちしております。

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