8話 襲撃者
魔獣を倒した後にメルさんと相談し、今回の事は明日の朝一に村長へ連絡する事となった。 安全確保の為に魔物の手足をロープで結び倉庫の中へと運び込んだ。
「一応これで大丈夫だと思います。 他にも魔物が現れるかも解りませんし、戸締りをしっかり行ってから今日は休みましょう」
「そうですね。 この教会に来てからこんな事は初めてです。 一体何が起こっているのでしょうか?」
不安そうに倉庫の方を何度か見つめながらメルさんに、僕はドンと胸を叩き見栄を張りながら元気づけた。
「メルさんは僕が守ります。 安心してください!」
メルさんは僕の言葉を聞き頬を赤らめながら頷く。 これで彼女の不安が少しは解消されたに違いない! 僕もメルさんを見つめ大きく頷いた。
「さぁ! 此処は危険かもしれませんので、早く部屋へ戻りましょう!」
「へっ! へやですか! 意外に強引なのですね…… でも私にも心の準備が……」
何を勘違いしているのか? ブツブツ言いながら自分の世界に入っている。 これは刺激しない方がいいだろう。 右手で頬をかきながら僕は先にドアの方へ歩き出した。
「えっ! 夢男さん! 私を一人にしないでくださーい!」
僕が居ない事に気付いたメルさんが大声を出しながら追いかけてきた。
「もう今日はお風呂は無理かなぁ」
ガッカリした僕の声がドアを閉める音に紛れながらこぼれた。
それから数時間がたった頃、メルさんと僕は互いの部屋で休んでいた。 僕は完全には就寝せずに周囲に注意を払っている。 きっと予知の事が気になっていたからだろう。
一人で部屋の一点を見つめ、スピアで自分の生き方について考えていた。
「ザッ ザッ ザッ」
外から人の歩く音が微かに聞こえてきた。 僕は窓に半顔だけ出し、辺りを見渡す。 僕の瞳に写ったのは一人の男性であった。 フードで全身を覆っていた為に顔までは確認出来ない。
だが、今までよりも耳も良く聞こえ、夜目も利くようになっている。 身体能力だけではなく五感も強化されているかもしれない。 僕はそう考えていた。
「駄目駄目だ、今はそれ所じゃないな。 あの男達は一体何者だろう?」
気持ちを切り替え男性に注意を戻す。 男は月明かりしかない暗闇で何かを探しているようであった。
「もしかして、さっきの魔獣を探しているのか?」
そのまま観察を続けると、男の下へランプを持った別の男が近寄ってきた。 今度の男もフードを被っている為に確認できなかった。
「魔獣は見付かったか?」
「いや、まだ見付かっていない。 確かこの辺りで声が聞えた筈だが…… もしかして村の方へ向かったのかもしれないな」
「チッ しくじったな! 村を襲うにはまだ早いぞ。 調教も済んでいないから見つけ次第に始末するしかないじゃないか」
そう言いながら、後から来た男はフードの腰辺りから見えている剣に手を当て、周囲へ首を振りだした。
「いや待て、村へは行ってなさそうだ…… この近くで血の臭いがする。 ここで何かあった筈だ。 最悪、倒されている可能性があるな」
「何言っているんだ? こんな田舎の教会に居る者で強化された魔獣を倒せる奴が居るとは思えんぞ。 血の臭いがするなら、逆に魔獣に殺されたって事だろう?」
「だとしたら逆におかしいだろう? 何故この庭がこんなに綺麗なんだ? 普通ならば土は抉られ、壁にも損傷がある筈だ」
ヤバイ! 僕は額に汗を流していた。 もしかしたら、この2人の男は教会内へ入って来るかもしれない。 僕は顔を気付かれない様に引っ込めると足音を立てない様にメルさんの部屋へと急いで向かった。
僕はメルさんの部屋にたどり着くと静かにドアを開けた。 部屋には鍵が掛かっておらず、簡単に開く事ができる。 真っ暗な部屋であったが、僕にはベットで眠るメルさんの姿を確認する事が出来た。
そして、ベットの傍に立ちメルさんの耳元で小さな声を掛けた。
「さん…… メルさん起きてください」
一度では起きてくれず、何度か声をかける。
「う~ん?」
メルさんはやっと起きてくれた様で、目を擦りながら辺りを見渡していた。 だが未だ夜中で辺りは暗く、イマイチ現状が理解出来て無い様であった。
「メルさん。 すいません、夢男です。 ここは危険ですので移動しましょう」
「えっ? 夢男さん? どうして…… ハッ!」
メルさんは何を思ったのか? 掛け毛布で首から下を覆い僕を睨んで来た。
「ゆっ夢男さん! 物事には順序って物が…… それに今日はお風呂にも入ってないし…… でも……でも」
今は全身を毛布で隠し悶えながら小さな声でブツブツと言っている、だが今はそれ所じゃない。 その時に裏口のドアを開ける音が僕には聞こえた。
現実逃避中のメルさんの傍にいた僕はドアノブをガチャガチャと捻る音に反応し、すぐさまメルさんに接近すると片手で口を押えた。
「ウーッウウーッ! 強引はいけません。 優しくじゃなきゃ嫌ですぅ……」
「何を訳の解らない事を言っているのですか? 剣を持った男が2名、教会へ侵入しようとしています。 外から彼等の会話が聞こえたのですが、どうやらさっきの魔獣と関係があるかもしれない。 ここに居たら危険です! 何処か避難が出来る場所は無いですか?」
真剣な目でメルさを見つめ、簡単に説明を行う。 最初は動揺していた彼女であったが、次第に落ち着きを取り戻していった。
「どうやら、冗談ではないみたいですね」
「相手は武器を所持しているのが見えました。 安全な場所があるなら隠れた方がいい」
メルさんはコクリと頷くと、僕に付いて来る様に促した。
廊下を抜けた先にある扉の前に移動する。 そしてメルさんは手に持っていた鍵を使いドアを開けた。
そこは一度案内された聖堂であった。 そして聖堂側からもう一度鍵を掛ける。
「これで鍵が無ければこの部屋には入ってこれませんから安心です」
ホッと一息をついてメルさんは笑ってくれた。
「取り合えず、僕達が此処に居る事がバレると危険なので静かにしていましょう」
僕の声に頷く事で了解の意思を表す。
メルさんは少し震えている様に見えた、確かに見知らぬ男が教会に侵入しようとしてる。 女性としては恐怖を覚えるのが普通だろう。
僕はそっとメルさんの手を握る。 そして聖堂内に並べられている椅子に座り小声で語りかけた。
「大丈夫です。 貴方は僕が守ります。 これでも僕は魔獣を倒せる程強い、野党の1人や2人は大丈夫ですよ」
「でも、武器を持っているって…… 危険な事は絶対にやらないでください……ね」
下から見上げ懇願する様に言ってくるメルさんの瞳には涙が浮かんでいた。
僕は彼女に笑顔で頷いでみせる。
そうしてる間に近くの部屋のドアを蹴飛ばす音が此処まで届く。 野党は見つかっても良いと考えているのだろう。 その後部屋を物色する様な騒がしい音が聞こえる。
「このまま此処に居たら危ない。 何処かの物陰に隠れましょう」
僕達は部屋の隅に設置されているオルガンの陰に身を潜めると、息を殺して男達が去るのを待った。
「此処が最後の部屋だな。 ここに居なければ、この教会には誰も居ない事になる。 きっと魔物を倒した後に村へと向ったのだろう」
「じゃあ、さっさと確認して村の方も見に行こうぜ。 今ならまだ追いつくかもしれないからな」
話し声がドアの前から聞こえてくる。 その声を聞いた途端に鼓動が早くなり、額から汗が流れてきた。
ドアを開けようとしているが、鍵が掛っている為ドアは開かない。 するとドアを蹴り飛ばす音が聞こえてくる。 入口はそんなに長くは持ちそうも無さそうであった。
僕はメルさんの様子をうかがう、繋いでいる手が震えてるのが解る。 表情は強張り目をつぶっている。
僕は一度大きく息を吸い込みメルさんに声を掛けた。
「ここを動かないで下さい。 僕が何とかしますから」
「えっ今、何って……? 駄目です! 夢男さんそれは危険すぎます、一緒に隠れて下さい」
メルさんは僕の方を驚いた顔で見上げてきた。 僕は彼女の手をそっと離すとドアの方へと歩き出す。
途中で木製の椅子を1つ手に取り、ドアの横に身を隠した。 ドアは今にも壊れそうな程グラついている、その後数回の衝撃がドアを襲い遂にドアが蹴り破られた。
「中は真っ暗だな! ランプだ、ランプを持ってきてくれ」
「ああ解った。 今行く」
僕は唾を飲み込みならがタイミングを計っていく、ランプを持つ男が先に入ってくる。 身体が部屋に入りきった所で僕は手に持つ椅子を力いっぱい男の頭へと叩き付けた。
「ぐお!」
うめき声と共に男が倒れた、それを後ろから見ていたもう一人はすかさず剣を手に取る。
倒れた男は気を失っている様で、身動き一つ取っていない。
「まずは一人」
倒れた男を間に挟み僕は残りの男と対峙する。
「貴方達は何者です? 僕をどうする気ですか?」
「お前が、モウギュウ鳥をやったのか?」
「しかもこいつを一撃でしとめるとは、見かけによらず馬鹿力だな。一応俺達の組織でも強い方なんだけどな」
「たまたま当たり所が良かったんじゃないですか? 見ての通り僕も一杯一杯ですから」
そう言いながら僕は疲れた振りをする。 こんな事で油断してくれるとは思っていないが……
「よく言うぜ! 今度は俺と遊んでくれや」
男はそう口にすると剣先を僕に向けて来た。