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7話 危険な夜の始まり

 テーブルの横に設置されている椅子に座り、僕は胸の前で腕を組み目を閉じたまま今日一日の出来事を思い返していた。 閉じていた瞼を開くと食事の準備を忙しくしているメルさんが見える。


 朝からずっと警戒をしていたが、メルさんが危険な目に会う事は無かった。 当初考えていた未来が見えるエロ本っていう考え自体が間違っているのではないかと思い始めていた。


 僕は纏まらない考えを一度捨て、椅子から立ち上がりメルさんへ声を掛けた。


「僕にも何か手伝える事はありませんか?」


 僕の声に気付き、動きを一度止めた。


「じゃあ、食器の準備をお願いしますね。 村で買ったお肉もありますし、今日はご馳走ですよ」


 彼女も日頃から肉は余り食べて無いのだろう、嬉しそうに「ご馳走ですよ」って言ってくれた。 食事の準備も終わり、テーブルに夕食が並べられた。 肉メインの献立であるが、野菜も使用しておりバランスの良い食事であった。


「美味しい! メルさんこの肉はどんな動物の肉なんですか?」


「ああ! それは村の周りで取れるウシ鳥ですね。 美味しいですよね。私も大好きです」


 僕達は夕食を美味しく頂き、楽しい時間を過ごした。 そして食器なども片付け食後のお茶を頂いている僕にメルさんが声を掛けてきた。


「夢男さん。 今からお風呂を入れますので、先に入ってくださいね」


「お風呂ですか!? いいですね。 そう言えばお風呂はどうやって沸かしているのですか? 火を起こしてる? それとも魔法石などを利用するとかですか?」


「夢男さんが先ほど言った事で大体合ってますけど。 この教会に設置されているお風呂は鉄製の風呂釜の下から火を起こし沸かしていますが、魔法石を使ってお風呂を入れる所も普通にありますね」


「そこまでお世話になる訳にも行きませんし、僕がお風呂を沸かしますのでメルさんはそれまでゆっくりして下さい」


「いえいえ。 毎日やっている事なので、そんなに辛くもありませんから気になさらず」


 そんなやり取りがその後も続いたが、両者折れることがなく最後は2人でお風呂を沸かす事になった。 そして僕は今、薪を取りに倉庫に来ている。 倉庫は暗いので手持ちランプを渡されている。倉庫の中には農具や予備のバケツなどが置かれており、角のスペースには薪が積み上げられていた。


「片手で持てる分だけで足りるのかな?」


 そう言いながらも片腕一杯で持てるだけ薪を抱えて僕はメルさんの元へと向かった。 浴室の外壁の一部には穴が空いてありそこから風呂釜がむき出している。 火を焚く事によってお風呂が沸く仕組みであった。 倉庫から出てメルさんの方へ歩き出した時、浴室の方からメルさんの「キャー!!」っと言う悲鳴が聞こえてきた。


「何だ今の悲鳴は?」


 持っていた薪を放り出し、全速力で僕は駆け出していた。

 

「大丈夫ですか!」


 声を掛けながら浴室の前に着くとメルさんが震えながら一点を見つめていた。 僕もメルさんが見ている方へ目線を動かす。 すると一匹の獣がそこのはいた。


「なんだ。 あの化け物は……」


 そこに居たのは鳥の格好をしているが頭部は牛の化け物であった。大きさは1.5m位ありそうで目は見開き、口からは唾液が流れ落ちている。 頭部には鋭く尖った2本の角が突き出しており、もし刺されたりすれば大怪我を負う事だろう。 化け物は興奮状態で、辺りを引き裂く声で雄たけびを上げていた。


「ギィィーー、 グルゥゥ」


 内心ビビッていたが、逃げ出す訳にも行かず。 メルさんの前へと移動し僕は構えを取った。


「メルさん大丈夫ですか? この化け物は一体なんですか?」


 後ろに居るメルさんに顔を男向ける事無く声を掛けた。


「あれは、ウシ鳥が進化したモウギュウ鳥! 普段は村から遠く離れた森に生息しているはずなんですが、凄く凶暴で危険な魔獣です。 村に来る事は無い筈なのですが、一体何故? 夢男さん危険です逃げましょう!」


「その方が良いみたいですね。 僕が見ているので少しづつ下がってくれますか?」


「はい!!」


 メルさんは頷き僕の指示に従い、後退して行こうと足を踏み出した時、モウギュウ鳥は雄たけびを上げ、翼を大きく広げて飛び上がり、低空飛行で突進してきた。 

 僕にはその動きが見えて考える。 避わす事も出来たが、後ろにはメルさんがいる。 もしメルさんにモウギュウ鳥の角が刺されば大怪我は確実であった。 

 歯を食いしばり、僕は瞬時に覚悟を決める。 モウギュウ牛の進行方向上へ身体を正面に移し右足を一歩後方へ滑らせ、動きを良く見る。 そして僕の胸に角が刺さる少し前に2本の角を両手で掴み取った。 


「後ろへは行かせない!!」


 普通なら速度と大きさを考えれば僕の体は吹き飛ばされていたかもしれない。 だが結果はそうならなかった。 体格が大きく、ズシリとした圧力によって1m程押し出されたが、難なくモウギュウ牛の突進を止める事に成功する。 モウギュウ鳥は雄たけびを上げならがら、翼を何度もはためかせているが、それ以上僕を押し出す事は出来ていなかった。

 僕はそのままモウギュウ鳥を地面へと叩きつけ、すかさずエルボードロップを喉へと叩き込んだ!

 「バキッ!」っと言う音と共に小さい雄たけびを上げたモウギュウ鳥はピクピク震えその後動かなくなった。


 完全に動きが停止したのを確認した僕はメルさんの方を向き安否を再度確認する。


「ふぅ、 何とかなったな……」


「凄い! 凄いです夢男さん。 素手でモウギュウ鳥を倒すなんて、これがロストの方の力なのですね」

 

 そう言ってくるメルさんの瞳はキラキラしていた。

 確か前に聞いた説明で、ロストは特異なスキルと強靭な肉体を持っていると言っていた。 ではこのモウギュウ鳥の突進を止める事が出来たのもその力のお陰なのか?

 

(これなら、この世界でも何とかやっていけるかもしれない……)

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