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6話 気配の正体

 その後村長の元へ向かい、メルさんの紹介で挨拶だけ行なった。 村長は元冒険者の方で、自分が体験した冒険の話などを話してくれた。

 

 そして今は日用品の補充の為に商店へ向かっている。 僕はメルさんの後をスタスタと付いていきながら、聞き忘れていた事を教えて貰っていた。 


 最初はこの世界の種族についてである。 この世界には人族・獣族・亜人族などが存在している。

 人族とは僕がイメージしているのと同じ様に人間と言う事であった。 能力的には平均的と言えるが寿命はどの種族よりも短い。 しかし繁殖能力はどの種族よりも高い。 スピアで一番数の多い種族と言える。

 

 次に獣族とは、昔は森や山地で生活していたが、少しづつ人族や多種族と交流を持つようになり、今ではどの街でも普通に見かける事ができる。 身体能力は各種族で一番高く、屈強な身体を持っているが魔力が殆ど無い。 見た目は人族とあまり変わらないが、耳や尻尾など重要な箇所は代々受け継がれていくようであった。 まれに先祖返りと言われる体全体が毛に覆われた子供が生まれるらしい。 先祖返りは普通の獣族よりも更に強い力を持っていると言われている。


 最後に亜人族であるが、亜人族と言っても種類は獣族より多い、代表的な者から上げるとエルフや竜神・妖精も亜人族に分類されているようだ。 話を聞いている内に、色々と種類を作るのが面倒なだけだったのでは無いか? と思えてしまう。 亜人族は魔法の力に優れている者が多い。 更に比較的長寿の種族が多いとの事。 数はスピアで一番少ないが、それでもチラホラと見かけるので珍しくも何とも無いらしい。 獣族と同じ様に先祖返りが生まれるが、その魔力は凄まじいと教えてくれた。


 それらの種族とは別に数が極端に少ないがハーフが生まれる事があるらしい。 基本的に違う種族でも普通に結婚して子供を授かっているスピアでは生まれてくる子供は両親のどちらかの種族属性を引き継いで生まれてくる。 だが稀に両方の属性を引き継いで生まれてくる子供がいる。 もし獣族の強靭な身体と亜人族の魔力を持った者が生まれたら最強であるが、ハーフは人族との間にしか生まれないらしい。 要するに各種族が苦手とする。能力が無いと言う事で弱点が少ないと考えていい。 それだけで十分強いと思う。


 それと意外な事にメルさんはエルフと人族のハーフであった。 普通ならメルさん位の歳では1人で教会を任される事など無いらしいが、期待の新人と言う事で治安の良いこの村を1人で任されていると教えてくれた。 

 その説明をしてくれているメルさんは得意気な様子に見えた。


「すみません。 色々教えて貰って……」


「大丈夫ですよ。 他にも気になる事があれば何でも聞いてくださいね」


 そんな事を話しながら、目的の店へと到着する。 この村にはこの店1件だけしか無いと教えられた。 あれこれと商品を手にとって行くメルさんの後ろで僕は買い物カゴを持っている。


「夢男さんはそこの洋服を置いている所から洋服と下着を選んでいて下さい」

 

「でも僕お金持ってないので……」


「大丈夫ですよ。 後で王宮に請求できますから。 何着でも選んでくださいね」


 そう言われ僕は3セット程度の服と下着を選び店員さんへ渡した。 その際にチラチラと僕の下着をメルさんが見ていた事は気付かなかった事にしておこう。

 無事に買い物を終えた僕達が村の外へ出ようとした時に前方の民家脇から3人の男が飛び出してきた。

 僕達をずっと見ていたのは確実に彼等であった。 僕はメルさんの一歩前へ躍り出ると彼女を守る構えを取る。 3人はそれぞれ人族、獣族そして亜人族であった、その彼等の顔は怒りに満ち溢れていた。


「おい! お前! 何をしているんだ」


 人族の男は僕達に向け言葉を放ってきた。 だがその言葉に反応したのはメルさんであった。


「トンさん。 お久しぶりですね。 お元気でしたか?」


 そういって頭を下げるメイさんにトンと呼ばれた男も片手で頭を掻きながら挨拶を返す。


(なんだ2人は知り合いなのか?)


 僕は少し安堵する。 だが先ほどの形相を思い出し、油断だけは今もしていない。


「シスターメル。 僕達は彼に用事があるので、少し彼と話させて下さい」


 トンはそう言うと僕の腕を掴みかかろうと歩み寄った、だが何をされるか解らないので取り合えず身体を半身程ずらし、トンを避した。 トンは掴めると思っていた俺が突然居なくなった為、勢い余って転げてしまう。


「このやろ~! 何故よけた?」


 トンは尻餅をついたまま暴言を吐いてくる。 今の動きを見てこの男は大した事無いと判断出来た。

 今の動きに目を奪われたメルさんが僕とトンの間に入ってきた。


「トンさん! 夢男さんに何をするのですか? 彼は私の知人です。 彼に危害を加える気なら許しませんよ」


 そう言ってトンを見つめた。 メルさんの眼力に負けてトンはうつむき黙ってしまった。

 それを見かねた、獣人族の男がメルさんへ声を掛けた。


「シスターメル。 我々は彼と話がしたいだけです。 危害を加える訳ではありません。 彼と話をさせて下さい」


 メルさんはどうしたら良いのか分からずに、僕の顔色を伺った。


「メルさん僕の事は大丈夫ですよ。 彼等の話を聞きます」


 そう言って男達の方へと近づいた。 


「僕に話って何ですか?」


 先ほどメルに説明をした獣人族の男へ僕は声を掛けた。 彼は身長が180cm程あり頭から2本の角が生えている、角は後頭部の方で円を描く様に丸まって羊の様な感じであった。


「ここでは話がしづらい、そこの民家の裏でもいいか?」


 そう言う羊男に対して僕は頷いて答えた。


 人族のトンも立ち上がり3人の後ろを付いていく形で民家の裏へと回っていく。

 メルさんは心配そうにしていたが、僕が手で合図を送り今は待っていて貰っている。


「それで僕に話って?」


 僕は話が通じやすそうな羊男に声を掛けた。 だが返事を返してきたのはトンであった。


「お前とシスターメルの関係は何んだ? 答えによっては俺達が許さないぞ!」


 いくら凄んで来ても先ほど彼の動きを見ているので、凄みが一切感じられず逆に可笑しく見えてくる。

 一瞬、正直に話そうかと考えたが相手の真意も知りたかったので、質問で返してみる。


「答えてもいいけど。 まずは君達は彼女の何なの? それを聞いてからじゃないと僕も答える事が出来ませんよ」


 そう言ってから困った表情を見せてみた。 すると3人は互いに見合った後にトンが得意気に語りだした。


「俺たちは、シスターメルを影から支える会の者だ! 彼女ほど可憐で優しくそしてハーフエルフと言う稀有な存在はスピアに居ない。 そんな彼女を俺たちは崇拝し影から支えてる訳だ。 だから聞くお前はシスターメルの何なのだ?」


(おぉ~ 要するにファンクラブか!)


 僕はそういう風に解釈をして、なるほどとパチンと手を打った。 これは彼女が心配でやっている事か! そう考えると彼等が悪い人には見えなくなる。


「僕は数日の間だけ教会でお世話になる者ですよ。 彼女とはそれだけの関係です」


 そう言って彼等を安心させてみる。


「教会関係者って事か? だが同じ建物で寝るって事は彼女の魅力に負けていつ魔獣になるともかぎらねぇ。 もし彼女に何かあれば俺達がゆるさねぇからな!」


 そういうトンの後ろで残りの2人もウンウンと頷いていた。


「約束しますよ。 彼女には手を出しません」


そう言った時に僕はある事を思いついた。


(彼らには悪いがちょっと能力を試させて貰うとするか!)


「実は僕、絵描きなんですけど、お近づきの印にこの本を受け取ってくれませんか?」


 そういいながら上着の中に手を入れ、呪文を唱える。そして手を引き抜いた時に3冊の本を出す。


「何だその本は?」


 トンがそう言って来たが本を見た瞬間から3人とも本に釘付けで目線をそらしていない。 僕はその様子をみて予想をたてる。 僕のエロ本は人を引き付ける力があるのかもしれない。 次は人によって内容にどんな変化があるのかを知りたくなった。


「僕が書いた本ですよ。 お一人づつ差し上げますので見てください」


 そう言って最初はトンへ本を手渡した。 ブツブツ文句を言いながらでもしっかりと受け取ってくれた。 そして表紙を見て動きが止まり、「ぐふぁっ!!」 何と1ページ目を開いて鼻血を出しながら倒れたのである。 さすがに僕もビックリした。 他の2名が僕に警戒をする。


「お前! トンに何をした?」


 羊男がそう言うが僕にも全く解らない。 でもトンは気絶しながらでも至福の表情をしていた。 きっと幸せな夢を見ているのだろう……


「もしかしたら、刺激が強すぎたのかも知れません。 本を渡すのをやめますか?」


 羊男に僕はそう言ってみたが、彼等も一度僕のエロ本を目にしている。 彼等も誘惑に勝てないみたいでに本を渡せと言って来た。


「僕は明日も村へ来ますので、その時に感想を聞かせてください」


 そう言いながら本を一人づつ渡した。 羊男は3ページ目で、3人目は小人族だろうか? 彼は5ページ目で倒れた。 だが彼等は全員幸せそうな表情をしていた。


 そんな彼らを放置したまま僕はメルさんの元へと帰る。


「夢男さん、大丈夫したか?」


 心配そうに尋ねてくるメルさんに事情を説明し安心させる。


「彼等は貴方の事が心配だった様です。 見知らぬ僕が傍にいるので仕方ありませんよ。 事情を説明して何とか解ってもらえました」


 それを聞いた。 メルさんは安堵の表情を浮かべた。


「トンさん達はいつも寄付で野菜を持ってきてくれて、凄く良い人達なので今日はビックリしました」


 そう言いながら僕達は教会へと帰って行く。


(でも彼らが倒れたのは能力のせい? それとも単なる免疫が無かっただけなのか?)


 僕はその後、彼らの幸せそうな顔を思い出しながら悩み続けた。

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