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10話 調査官と神父さん

 事件から数日が経った。あの夜から僕達は教会の片付けに追われていた。 壊れている家具を片付け建物内を清掃していく。 

 僕が捕まえた男達も村から一番近い町の役人に引き渡され、今は尋問を受けているとの事であった。


「夢男さん、そろそろ休憩にしましょう。 冷たい飲み物を入れましたので、飲んでください」


 聖堂を掃除していた僕にメルさんの声が届いてきた。


「解りました。 今そっちに向かいます」


 額に浮かぶ汗を腕で拭い僕は粗方片付いた聖堂を見渡す。


(戦闘の後で建物が凄い痛んでるぞ、これは修繕しないと使えないなぁ)


 その後、メルさんの元へ移動した僕は、休憩を取り果実水を口にしていた。 


「これは旨い果実水ですね。 幾らでも飲めそうですよ」


 果実水は柑橘系の味で喉の渇きを潤してくれた。 僕の感想を嬉しそうに聞いていたメルさんたが、次第に表情が曇っていき、そして意を決した彼女が僕に告げてくる。


「夢男さん実は今日連絡が入ったのですが、調査官が明日来るそうです。 夢男さんは調査官と共に一度王宮へ行かなくてはなりません……」


 寂しそうに言うメルさんを見て、僕は返す言葉を探す。


「王宮へ行ってもまた帰ってこれるのでしょ? メルさんに会いに戻ってきますよ」


「本当ですか! 絶対ですよ。 神に誓ってくださいね」


 先ほどまでの暗い顔が少し明るくなっている。 メルさんが元気になって良かった。


「じゃあ、明日から僕は王宮に向かう事になるのでしょうか?」


「私も詳しくは解りませんが、多分そうなるでしょう」


「そうなると…… メルさんが教会の片づけを一人でやるのですか? まだいっぱい残ってますよ」


「一応、本部の方に連絡は入れているので…… きっと応援の人も来てくれると思います。 夢男さんは気にしなくても大丈夫ですよ」 


 メルさんの言葉を聞いて安心する、その後僕はまた清掃作業に力を注いだ。


-------------


 次の日は晴天であった。 朝から雲ひとつ無く日の光が暖かく僕を目覚めさせてくれた。 小鳥の元気な声も聞こえ、清々しい朝だった。

 

(今日でこの教会ともお別れか…… 寂しい気もするが仕方ない)


 僕が窓から顔を出すと、メルさんが畑で水蒔きをしている。 僕は彼女を手伝う為にすぐさま着替えて畑へと向かった。


「おはようございます。 水蒔き手伝いますよ」


「夢男さん、おはようございます。 じゃあ、手伝って貰えますか」


 僕は水バケツを彼女から受け取ると水撒きを再開する。


「メルさん、調査官は何時くらい来るのか知ってますか?」


「時間は手紙に書いて無かったので、どうでしょう? 午後からでしょうか。 一体どうしたのですか?」


「いえ、ここを去る前に村長にも挨拶をしていこうかと思いまして」


「そういう事なら解りました。 教会には私が残りますので、夢男さんは村へ行ってください。 その間に監査官が来ても私が説明しておきますね」


「メルさん、有難う御座います。 じゃあお言葉に甘えてこの後村へいってきます」


 僕は水撒きを終えると村へと足を向けた。 村へ向かう道は一本道の為に迷う訳もなく、すぐに村へと辿りついた。

 最初は村長の家へと向かい挨拶を行う。 村長から励ましの言葉を頂きお土産まで頂いてしまった。

 

 僕は教会へ帰ろうとしていると、後ろから声を掛けられる。


「兄貴! 村から出て行くって本当ですか!」


(兄貴? 何を言っているんだこの人は……)


「兄貴って僕の事ですか? 貴方は確か…… ファンクラブの…… えっと……」


「トンですよ! トン! 前に会ったじゃないですか。 俺達は兄貴にお礼が言いたくて。 時間は大丈夫ですか?」


トンの後ろには、獣人と亜人の人も居た。


「何故僕が兄貴なのかはイマイチ解らないけど、時間ならあると思うから少しの間なら話せますよ」


「さすがは兄貴! それじゃ俺達について来てください」


 僕が連れて行かれたのは、一軒の食堂であった。 彼達の話によると村に一軒しかない食堂だと教えてられた。


「兄貴は上座へ、どうぞ!」


(上座って…… 何故そんな言葉しっているんだ? 現在の知識がちょこちょこ出てくるなぁ)


 僕達がテーブルに座ると、トンが店長へ声を掛けた。


「酒を4つ頼む!」


「いえ、僕はまだお酒が飲める年齢では無いので別の物でお願いします」


 僕の声を聞いたトンが店長に言い直す。


「それじゃあ、酒3つと店で一番高い果実水を1つ頼む」


 各自の前に飲み物が置かれた所で僕を呼んだ訳を聞いた。


「それでお礼って言うのはどういう事ですか?」


「それはシスターメルを助けてくれたからですよ。 今じゃ村中で噂されていますよ。 魔法剣士や魔獣からシスターメルを守りきったってね。 俺達がその場に居合わせたら、身体を張って守ろうとしてもきっと殺されて終っていたと思います。 それに兄貴には素晴らしい本も見せて貰っている。 それで3人で話し合って兄貴って呼ぶことに決めたんだ!」


 得意げに説明するトンの横で残り2名もウンウンと頷いていた。


「そういう事でしたら、特にお礼を言ってもらう事でもないですよ。 当たり前の事をしただけですから」


「さすがは兄貴だ! 素晴らしい」

 

(何か暑苦しい人達だな…… 早く帰りたい)


 僕は熱く語るトンの話をひたすら聞くことしか出来なかった。


「そろそろ、時間も押してるのでこれで帰りますが。 僕はたぶん今日で村を離れると思います。 今後はメルさんの事をお願いします」


「任せて下さい。 シスターメルは俺達が守って見せます」


 熱い握手を交わして僕は村を出て行った。 その後教会に戻ったがまだ調査官は来ていない。 


「メルさん、今帰りました。」


「お帰りなさい、夢男さん。 村はどうでしたか?」 


 僕達がそんな会話をしていると、門の方で馬車が近づく音が聞こえてきた。 僕達は教会から出てみた。 少し遠くから馬車が近づいてくる。 


「あれが調査官でしょうか?」


「多分そうだと思います」


 馬車は門の前で停止するとドアが開き一人の男性が姿を見せた。


 調査官と思える男性は神父の衣装に身を包み精悍な顔つきで目力があった。 体格は高身長だがスラリとしている。見た目は30代前半位だろう。 彼は馬車を降りるなり両手を広げて叫びだした。

 

「メル!大丈夫か? 野党に襲われたと聞いたぞ! 怪我はないか?」


(メルさんの知り合いなのかな? それにしても声が大きい……)


僕はメルさんの方へ顔をむけた。 目にうっすらと涙を浮かべ嬉しそうだ。


そして、男はメルさんに抱きついた。


「なっ!」 男の行動に僕の目が点となる。 助けた方がいいのか? 僕はメルさんに注意を向けると、彼女も男を抱き返していた。 しかも涙がこぼれている……


(もしかして、2人は恋人同士なのか? それなら解るけど……)


どう動いて良いか解らず呆気に取られている僕に更なる衝撃が襲い掛かってくる。


「おじいさま……」


「無事で良かったメル…… 儂は話を聞いて心臓が止まると思ったぞ」


「えええー!」


余りにも驚いたのでつい奇声を上げてしまった。 僕の声を聞き男性が僕を睨み付けてくる。


「お前がロストの少年か? 何じゃ、メルが儂の孫だと何か悪いのかぁ?」


 かなりお怒りの様子である。 


(これはヤバイ……)


「メルさんの祖父がこんなにお若いとは思いも寄らず…… 2人は恋人だと思ってたので……」


思ってた事を正直に説明すると。


「なんじゃと!? 儂とメルが恋人に見えてただと……」


(神父が俺の事を睨んでるよ、目力があるから正直怖い……)


「お前は見所があるぞ。 よし儂が応援してやろう!」


さっきまでの強面の顔を崩してニコニコしている。 祖父って言うのは本当の事だろう。


「さっきから何をギャーギャー叫んでいるのですか? いつまで経っても私が蚊帳の外ではないですか!」


神父以外にも馬車から一人の女性が降りてきた。


眼鏡を掛けたその女性は、神父と同じ位の年齢に見えた。 動き易そうなパンツにジャケットの服装で腰に短剣とぶら下げていた。その姿は乗馬の時に女性が着ている服に近い。 顔立ちは美しく、知的に思えた。


「君がロストの少年か?」


「そうですが、えっとー メルさんの祖母様……?」


「ほぅ。 どうやら君は早死にしたい様だな!」


(この人もヤバイ!! 何なんだよこの2人は……)


女性の目に殺気が灯っていく。 腰の短剣に手を掛けた所で神父が助け船を出してくれた。


「マリア。 許してやってくれ。 彼は儂とメルを恋人だと勘違いしたらしい。 祖父だと説明されて混乱しているだけだ」


「ロストの少年よ! 儂やメルはエルフだ。 長寿故に肉体の衰え方も緩やかに進む、見た目で判断しない事だ。 ちなみにマリアは人族。 儂と比べたらそりゃ怒るぞ」


「そうなのですね。 御二人とも精悍でお美くしいので、てっきりご夫婦かと思ってしまって……」


「なに? 儂とマリアが夫婦とな! ハッハー 儂はマリアがこんなちっちゃい時から知っている。 儂は気にしないが、それはマリアに対して失礼だ」


 神父はそう言いながら豪快に笑っていたが、マリアさんは少し頬を赤らめていた。 満更でもなさそうだ。 

 そんなやり取りをしてがマリアさんが僕に近づいてきた。


「ロストの少年、私が調査官のマリア・セレクトだ。 君の名前を教えてくれないか?」


「マリア・セレクトさん。 僕は海原夢男といいます。 よろしくお願いします」


「じゃあ君の事は夢男君と呼ばせて貰っていいか? 私の事もマリアと呼んでくれて構わない」


「解りました。 マリアさん」


 そして、マリアさんはメルさんに声を掛けた。


「シスターメル。 久しぶりに会ったが、大きくなられましたね。 もし良ければ教会内に案内して貰いたいのだが……」


「あっ! はいどうぞ中へ入ってください」


メルさんはパタパタと走り二人を教会へと招き入れた。 だが2人がドアを入った時に小走りで僕の所へ近づいてくる。 そして僕の耳元に顔を近づけ小声で語りかけてきた。


「夢男さん! 私は18歳で彼氏も居ませんからね!!」


 そう言ってまた前を歩く2人の元へと戻っていった。

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