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④有馬冬花編 二日目ー2

「なんだかあっという間にこの場所に来たな」

あれやこれやと手続きを済ませた後、康人と二人で境内の掃除をし始めた。そこで物理実験室から今まで黙っていた康人が口を開いた。

「そうか?面倒な手続きばかりだったじゃねえか」

「だよな。……面倒過ぎて思考停止したのかもな。覚えているのが校長室に入ったところまでだぜ」

俺達は物理教員室で川滝先生に放課後に使う本を手渡した後、二人で行ったのは南棟一階の校長室、北棟一階の購買、南棟一階の昇降口だ。

まず、校長が管理している鍵を借りるために校長室を訪れて校長と世間話をし、それとなく有馬議員についての情報を聞きながら鍵を受け取る。

そして、哀哭神社を警備している警備員さん達への差し入れを校長に頼まれたので、それを買うために購買に寄っておにぎりを六つと缶コーヒーを二つ購入する。

そしてもと来た道を戻り、昇降口で靴を履き替え校舎裏に向かう。

そしてひっそりと佇むおよそ五畳分のポンプ小屋(鍵はしていない)に入り、小屋の扉から向かって右奥の壁際にある隠し扉から10mほどの洞窟を通って警備員が待機する警備小屋(地下)に入り、監視カメラで神社周りを監視していた警備員・山本やまもとげんに差し入れを渡す。

そしてハシゴを登ってようやく哀哭神社の前の井戸に出て、ようやく境内に入り今に至るのだ。

「隠し扉がある学校とかフィクションにしか存在しないと思ってたわ」

「俺も去年びっくりした」

「おや、どうしたんだい?」

「ああ、すみません。神主さん」

ギャーギャー騒ぐ康人の声を聞きつけたのか白袴を着た見た目は少年の神主さんが俺の隣にやってきていた。

「え、拓也。この子誰よ」

騒いでいた康人は俺達以外に誰もいないと思っていたらしく、驚いて俺の隣にいる見た目年齢12歳くらいの神主さんを見つめる。

これが神主さんとの初めての遭遇となる康人は、この人に初めて会った人間が確実にとる反応をしてくれるのだろう。

無論、俺も例外ではない。

「こちらの方は神主さん。御年66歳だ。神主さん、こいつは北条康人、俺の幼馴染です」

「こんにちは、康人君」

にっこりと康人に微笑みかける神主さん。対して康人はしばらくの間、目をパチクリとした後両手で思いっきり自身の頬をバチンッと叩き、いつになく真剣な顔つきで問うてきた。

「え、ごめん。何歳だって?」

「66歳」

「ギリギリでも16歳だろ」

「私は66歳ですよ。康人君」

「……OK。今はそういうことにしておこう。それで、名前は?」

「神主」

「本名を聞いているんだよ」

「私の名前は神主ですよ。康人君」

「……」

「説明は掃除の後だ」

黙ってこくこくと頷く康人。

「神主さんも、後で少し意見を聞かせてください」

俺は隣で楽しそうに微笑む神主さんに見て、今回の相談について意見を聞く為に頼んでみることにした。

「おや、今年度初めての相談が来たのかい?内容はなんだろうかな」

いつも楽しそうに笑っているのがその若さの秘訣ですか。神主さん。

この若く見える神主さん、川滝先生と同様に俺達相談委員会の良き相談相手である。

「お茶とお菓子準備しておくから、終わったらあがっていってね」

「はい、ありがとうございます」

とてとてと小走りで神社に並んで建てられている小屋へと駆けていった。

神主さんは名前通りこの哀哭神社の神主である。なんでも神職の最高位である浄階の階位でもあるとっても凄いお方だそうです。

「康人、とっとと終わらせてお菓子を頂くぞ」

「お、おう」

某然としている康人の背中を叩き、同様に自分の頬をパンっと叩いて、自分にも康人にも気合を入れ直す。



気合を入れ直したものの、単純に人手が増えたおかげで普段よりも三倍ほど早く掃除が終わった。

「なんでこんなに早くできたのかと思ったら、お前の日ごろの日課の掃除が役立ったわけか。

……ふむ、こりゃ授業前に戻れたな」

「だからって戻るなんて言い出したらお前を気絶させるぞ」

竹箒を倉庫にしまった俺が呟いた言葉に敏感に反応し、何やら恐ろしいことを口にする康人。

「笑わせんな。お前に俺は倒せないだろ」

「ぐっ……それでどうするんだ?」

「まだ弁当食べてないだろう。だからまずは食べるぞ。

それにお前と神主さんに話すことがあるしな。まだ戻るつもりじゃないさ」

「そうか、じゃあさっさと家にあがらせてもらおうぜ」

まあいいか、なんだか腹減って物事を考えるのも億劫になってきた。

これまで掃除に集中していたためなのか、俺は空腹感に襲われた。

「「おじゃましまーす」」


去年から何度もお世話になっているのでこの家の勝手はそれなりに理解している。

初めて入る家に緊張しているのか、それとも単に古い家に興味があるのかわからないが、急にそわそわしてだした康人と共に土間床に靴を脱ぎ、綺麗に並べて神主さんの家に上がらせてもらう。

家の作りはシンプルなもので、玄関から家にあがると奥行き10m程度の廊下があり、奥にトイレと風呂、左には台所、右には居間と寝室がある一人暮らしには十分な作りとなっている。

俺はいつと通りに廊下を少し進み、右側の居間の戸を開けるとニコニコと笑う神主さんが手招きをしていた。

「ほら、お茶の準備はしておいたよ」

昭和を舞台にしたドラマに出てきそうなちゃぶ台の上に、三つの湯呑みが白い湯気を出していた。

俺と康人は出された湯呑みに合った位置に俺はあぐらを、康人は正座をして座った。

「さて、話を聞かせてもらうぞ。拓也」

開口一番それか、飯くらい食わせろ。

何にしても俺はまず弁当の風呂敷を開ける。

「まずはこちらの神主さんの話からだ」

「私が話さなくていいのかな?」

「いえ、要所要所はお願いします。俺でも全ては知らないんですから」

「あーいよっ」

気軽な返事をして茶をすする神主さん。

「神主さんの話をするにはまずはこの哀哭神社の話をしなければならない」

「ふむ、哀哭神社の」

「ああ。

古来よりこの泣ヶ丘の土地には怪奇現象や怪死が多発していたらしい。今朝話したようなものも含めてな」

「○怨とか着信○リとかAn○ther、変態プレイとかの話か?」

「呪○は怖いよねー」

「覚え方はともかく、そのことだ。昔のこの辺りに住む人達には、多発する怪死は泣ヶ丘に住まう鬼の仕業と考えるようになった。

なんでも夜中に何者かによって殺される人達の泣き叫ぶ声、断末魔が聞こえたこともあったらしいからな。

沢山の人がこの土地で様々な涙を流したんだ」

「恐ろしい話ですな」

相槌と共に茶をすする康人。

他人事とは流石だな。

「それでな、冬の深まった……今でいうと12月の終わり頃になると、毎夜この丘から生者のものとは思えない誰かの泣き叫ぶ声が聞こえたらしい。まるで死者が自身の死を受け入れられずに泣き叫ぶかのように」

「ひゅーう!確かに冬になると遅くまでで歩くなと言われるが…」

「その頃の名残さ。

ま、そんなホラーなことが起きていれば当然、この丘の事を知らない人が不用意に近づかないようしなければならない。そこで昔の人々はこの泣ヶ丘に大層な名前をつけることにした。

それが、鬼が住み、生者が哀しみ、死者はく、『哀哭の鬼丘(あいこくのききゅう)』という名前だ」

「字余りしてね?その川柳」

……はい?え?字余り?和歌・俳句などで、音数が定まった音よりも多いこと。また、その句。というあれか?

え?なに?突然なんのことなの?

突然の康人の言葉を俺が理解するのには数秒が要した。

「……ああ!「鬼が住み 生者が哀しみ 死者は哭く」のことか。そんなもの意識されてねえだろ。たぶん」

「たぶんかよ」

うるせえ、俺はそこまで詳しく知らねえよ。

「ま、まあこの丘は「哀哭あいこく鬼丘ききゅう」と呼ばれるようになったんだが」

俺は気を取り直して話を再開する。

「哀哭の鬼丘とかF○に出てきそうだな、○Fに」

「アーアー何も聞こえなーい。

それで、だ。

そんな不気味な丘での出来事を畏れた人々は、亡くなった人々とその主犯とされた鬼に生贄を捧げることによってこれ以上の被害を防ごうとした」

「防げてないけどな」

「言うな。

そしてこの丘の麓、丁度今ケーブルカーの駅のあるところに生贄が最期を過ごす場所として神社を建立した。それが哀哭神社だ」

「いや待てよ」

そこで康人が俺の言葉に疑問を持った。

「哀哭神社は山の中にあるじゃないか。今の話では神社は丘の麓になければならないだろ?」

俺はここぞとばかりにこれまで手をつけられなかった弁当を掻き込む。

「むぐむぐ…。んぐ。その理由は今から話す。

丘の麓の哀哭神社が建立されたのは鎌倉時代のことだそうだ。

建立後からは年に一人の生贄を代償として、怪奇現象の頻度は激減した。しかし確実に怪奇現象は起きてはいた。

そのまま時代は流れて明治時代になった。

文明開化と共に外国人が日本に入って来るようになった。まあ技術者、学者とかが殆どなんだろうけどな。

そしてこの泣ヶ丘に学者が来ないわけがなかった。

学者にとっては、ここで起きる怪奇現象は解明したくてたまらないものだったんだろう」

俺は一口茶をすする。

「私、気になります!みたいなもんか」

アイスクリーム食べたくなるからやめろ。

「そして最初にやって来た学者はイギリスからやってきた家族連れの地質学者マイケル・ハンモックだ」

「快適そうですな」

「お前そろそろ黙って聞けや」

「無理」

即答ですかそうですか。

「……彼は妻と娘を連れてこの土地を訪れた。妻の名前は…なんだっけ。まあA・ハンモックでいいや。殆ど関係無いし」

「随分適当だな」

「この人は本当に関係無い巻き込まれた哀れな方だ。

Aよりも重要なのは娘の方なんだよ。娘の名前はティア・ハンモック。当時20歳だったかな。

この丘についてマイケルが調べ始めて約三週間後、やはりというか遂にというか事件が起きた。

ハンモック一家の三人が行方不明になったんだ」

「ナ、ナンダッテー」

随分と気の抜けた相槌だな。ちゃんと聞けと言っただろ馬鹿野郎。

「警察や地元住民が総出で探したところ、マイケルとAの二人は無惨な死体となって発見された」

「ちなみに具体的には?」

「夫であるマイケルら妻Aの愛用していたカバンの中に【やっぱり、嘘だったんじゃないですか】で、妻であるAは【中に誰もいませんよ】」

「Scho○l Daysにひぐら○かよ」

「一方、娘であるティアは両親の遺体が発見された三日後に生きた状態で発見された」

「へえー、顔面を耕されてだかと思ったよ」

「それうみ○こな。そしてその死因はたしか大正時代に起きたから」

「え」

「見つかったティアの体は健康そのものだった。ある部分を除いてな」

「異常はあったのか」

「見てわかる身体的な異常は一つ。

彼女は妊娠していた。見て分かるほどお腹が大きくなっていた。日本に来た時は妊娠などしていなかったのにな。

そして見てはわからなかった身体的な異常だ。

ティアが丘から5mでも離れようものならば心臓が鼓動を止めるんだ。そして彼女が5m以内に戻ると心臓は何事もなかったかのように鼓動を再開する。そんな摩訶不思議な症状」

「あんびりーばぼー」

「そして何故か日本語が話せるようになっていた。

行方不明になる三日前には熱い茶を飲んで舌を軽く火傷した時は「アウチ!」と言っていたのが、発見されてから数日後に熱い味噌汁を飲んで「熱ッ!」と言うほどにな」

ぶふっと飲んでいた茶を霧吹きのように口から吹き出す康人。

なお、茶は思いっきり横になっている神主さんの顔に直撃しました。

「ゴホッ!も、もうそれ別人じゃねえか!」

噎せて口に含んでいた茶を神主さんに吹きかけて、なんとか捻り出した言葉がそれか。

「すみません神主さん。康人がお茶を吹いちゃって……。すぐに拭くもの持って来ますね」

「いや、ここにあるから大丈夫だよ」

どこからともなく取り出した長めの孫の手を使い、座ったまま隣にある寝室の戸口を開けて布を引き寄せる。

「ふいー。ティア様のリアクションの変化はみんな噴き出すね」

顔を拭きながら神主さんは尋ねてきた。

「ええ、まあびっくりしますよそりゃ」

「まあ拓也君も吹いていたし気にすることはないよ」

「そうそう、俺も吹いたんだ。恥じることはない」

「い、いや……恥じてはいないんだが。

それと神主さん、すみません。顔にお茶を吹きかけてしまって」

康人は改まって神主さんに頭を下げる。

「ははは、気にすることはないよ。

拓也くんなんて僕にサイダーを吹きかけたからね。それに比べれば可愛いものさ」

楽しそうにけらけらと笑う神主さん。

一方で康人は「お前何してんだよ」とでも言いたげな視線を送ってくる。

いいじゃん、サイダー美味しいじゃん。

「……それで拓也。ティアはどうなったんだ」

「当時の日英両政府は彼女に生活費と住む場所、身の回りを世話する人間を手配した」

「え?どゆこと?」

「まあ聞け。

最初は死のうとしたらしいが、ティアの護衛をしていた元侍の男性が生きる希望を与えて、生きることにしたそうだ。

だから生きるためにはこの丘で生きるしかないから、その道を選んだんだ」

「とんだイケメンがいたもんだな」

「そうだな」

「それでその手配された世話役ってのはイケメン侍と……」

「そう。『神主』だよ。

麓にあった哀哭神社の老朽化による改修工事の時期がティア様の住居作りと重なったこともあって、神社を移転させることにしたんだ」

なるほどなるほど、と康人が頷きながら呟く。

「『神主』ってのは元々ティアの面倒を見る人のことだったのか。

それで?それがどうして神主さんのこの容姿に繋がるんだ?」

「この丘には不思議な力があることはわかったろ?」

「ふし…ぎ…?ま、まあな」

そんな頬を引きつらせてぎこちなく頷くなよ!

「康人……お前の気持ちもわかる。だが悲しいけどこれ、現実なのよね。

いいか?つまり神主さんには摩訶不思議な力が働いて見かけの若さを保っているんだ!」

康人は神主さんにも問う。

「じ、実は作り話なんてオチは……?」

「ないよ」

「脇にプラカードも?」

「ないよ」

「内容が?」

「ないよぅ」

最後のは確認でもなんでもないだろ。それに神主さんもノるとは思わなんだぞ。

康人は一度息を吐くと、これまでの軽いおふざけの気持ちを取り除いて、真剣な面持ちとなった。

おそらくこれまでの話を自分なりに話をまとめているのであろう。

俺は最後の後押しをすることにした。

「俺が霊を視えるようになったきっかけを思い出してみろ。

まあ俺が霊が視える時点で十分におかしな話だが、あの事件も十分に不可思議だったろ」

「「血塗れ(ブラッディ)拓也君事件」のことか」

「俺初耳よ?!その名前」

何?!なんなのその名前!?誰がつけた!ネーミングセンス悪すぎだろ!

「…嫌な、事件だったね」

茶の水面に映る自分の顔に視線を落として神主さんは呟く。

「神主さん!あんたもか!」

貴方は俺から聞いただけだろうが!なに当事者ぶってんだよ!

「それで拓也。「血塗れ拓也君事件」がどうしたんだよ」

「その呼び名はやめろ…。

あの時の俺の身に起きた不可解なことを思い出せって言ってんの」

「……つまりお前は、あの日、お前に、この土地に昔から言い伝えられている摩訶不思議パワーが働いたとでも言いたいのか?」

しかめっ面の康人は言外に「正気か?」と俺に尋ねていた。

「俺も最初は信じなかったさ。

だが、過去の事例や神主さんの話について改めて考えてみると信じるしかなかったんだ。

そらに、一応康本(やすもと)さんに頼んで探してもらったら、警察署にも実際に最近の怪奇現象の調査記録があったからな」

「警察って…。去年親父と何かしているなとは思っていたが、そんなことをしてたのか」

康人の父・北条康本(やすもと)は警察官である。

「……ちょっと時間をくれ」

康人は黙り込んで、これまでの話を整理し始めたようだ。俺もそれを察して神主さんに出されたお茶をゆっくりと飲む。

俺の体感時間では十数秒が経ったくらいだろうか。

俺が湯呑みを口から離し一つ息を吐くと同時に、康人も考察するのをやめた。

「信じ難いけど、まあ拓也が言うんだ。本当のことなんだろうな」

「お前ならそう言うと思ってたよ」

康人を見て、ニヤリと笑いかける。

息を合わせたかのように康人もニヤリと笑いかけてくる。……キモッ!

「拓也……。お前はその笑みを人前ではするなよ」

「お前もなー」

いや俺はいいだろ、とボソリとつぶやく康人の尻目に次の話題へと話を変える。

「………さて、相談委員会の方の話に移ろうと思う」

「いや、神主さんの名前について聞いていない」

「それは俺は知らんな。てなわけで、神主さんお願いします」

これまでに名前には興味を持たなかった俺としては確かに気になる。

「ほいきた。まあ単純に『しきたり』ってやつさ」

「「し、『しきたり』??」」

わお!ハモっちゃった!まあ野郎とハモっても嬉しくはないがな。

「わお!ハモっちゃった!運命感じちゃう!」

「吐き気を催すからやめてくれ」

「仲良いね」

「「幼馴染ですから」」

「またハモっちゃーー」

「くどいぞ、康人。神主さんの話を聞くぞ」

「わかってるって」

ひとしきり騒いで、これまで静かにしていた鬱憤を払ったらしい康人は満足げな表情をしている。……こいついろいろ大丈夫だろうな。

「では神主さん。話をどうぞ」

「はいよー」


「麓にあった頃の哀哭神社の『神主』の仕事は、生け贄となる人間の監視とその身を清めることだったんだよ。

そして『神主』の役割は付近住民でローテーションされていたんだ。

それも、誰なのかわからないように仮面やマントで素顔がばれないようにしてね。何せ、生け贄とされた人の家族にしたら殺したくなるような人間だから正体がバレるようなことがあれば……ね?」

「しかし神主さん。ローテーションがあるってことは誰かが決めたりするわけですよね?その決める誰かが一番危ないのでは?」

「そうだね。確かにローテーションを決める人間やその家族の命は危険に晒される。だが何よりも重要な役目でもある。

だからこそ、この一帯で最も有力な家が決めていたんだ」

「この一帯で有力な家って、もしかして溝畑家と泣ヶ丘家ですか?」

聞き覚えのある家名を口にする拓也。

「よく知っているね、康人君。その二つの名家だよ」

えっ。

「まあ今でもそれなりの力を持ってるっておじいちゃんやら奥様方がしゃべってましたし」

あの先輩ってそんな名家の生まれだったのか……。信じられん。

そして何より、康人の趣味があ役立つ日が来るとはな。

「今はどうなのかは僕は知らないけどね。

『神主』っていうのはコードネームみたいなものなんだよ。

名前を名乗ればその年の生贄の遺族に命を狙われるからね」

「でも姿を見せなければいいんじゃないですか?」

「それがそう上手くいくもんじゃないんだよ。生け贄は、村人の前で神主によって清められるんだ」

「つまり一度は村人の前に姿を表さなければならないと?

でもそれじゃあその気になれば特定できるのでは?その場にいない村人を探すなりすれば」

「そうだね。確かにそうだ。でも君たちも知っているだろう?毎年12月の第二日曜日に催される祭りを」

12月にある祭りと言われればこの辺りに住む人間ならすぐに思いつく。

「なるほど!仮面祭りですね」

仮面祭り。

やることなすことは普通の祭りと変わらないが、自分の顔を隠すお面などを付けて参加するお祭りだ。

「そう仮面祭りだよ。

昔は隠れ祭りと言われていて、体のラインが出ないような服と顔をみられないようなお面だったんだがね。最近じゃ随分ゆるくなった。

それに今は商店街で開かれているけれど、あれは元々麓の神社の境内周りで開かれていたんだ」

「「へー」」

「まあそんな感じで僕の本名は一応有ったけど、今は『神主』になったんだよ。わかったかい?康人君」

「はい。仮面祭りの根源を知れて満足ですわ」

そっちかよ!

「ちなみに昔の名前は……」

「秘密だよ、秘密。教えてもいいけど後が怖いよ」

「遠慮しときまーす」

後が怖いって何が起きるんだろ。

茶を飲もうとするが湯呑みの中は既に空っぽであった。

「じゃあ次は拓也君の持ってきた話だね」

「おお!そうだぞ拓也!有馬さんの相談聞かせろや」

神主さんと康人が俺の方を見る。

「有馬」という単語に神主さんが一瞬反応したのをそれとなく感じたが、それよりも俺は茶が飲みたかった。

「ええっと…。お茶のおかわりもらっていいっすかね?」

スーパードラァイ

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