意外な味方
「どうもこうもない。そこの耳長族の女とそっちの女は連行すると言っているんだ」
「話が違えーだろ。舞いが納得できるものなら、無罪放免だって言っただろ」
「俺たちは納得したなどとは言っていない」
「さんざん見惚れてただろうよっ」
「うるさい! 女二人以外は見逃してやると言っているんだ。それだけでも、ありがたく思え」
そのやりとりにカイルは軽く息を吐く。
こうなることは目に見えていたことだ。
どんなに素晴らしいものを披露したところで、性根の腐った者たちは納得しない。
いや、むしろ関心をひいてしまった今、ますます見逃してはくれないだろう。
「さあ、一緒に来てもらおうか?」
「……」
近づく男をリルディは強くに睨みつける。
(やはり諍い事はさけられぬか)
ここでリルディを渡す気など毛頭ない。
「誰がお前らと行くか!」
「?」
魔力を使わずにどう撃退するか。
リルディを引き寄せながら、あれこれと思案していたカイルだったが、どこからともなく聞こえてきた声に顔を上げる。
「そうだ、そうだ!」
「それはないだろ! 役人のくせに約束も守れないのか!?」
「嬢ちゃんの舞いは文句なしに完璧だったじゃないか」
「卑怯だぞー」
それは観衆の中から発せられたもの。
一人を発端に声は増えていき、今や周りを囲む群衆が一斉に不満の声を上げている。
「これは……」
「みんなが味方してくれてる?」
カイルはもちろん、リルディもことの成り行きに驚きただ目を瞬かせている。
「き、貴様ら、警ら隊に逆らうつもりか!? 俺達に逆らうということは、国賊だぞ!」
「ここでこの横暴を見逃したら、それこそイセン国の恥じゃないか!」
「そうだとも。私等はことの成り行きを見ていたんだ。このまま、知らぬ顔なんて出来ないさ」
怒鳴る警ら隊に臆することなく、非難の声は鳴りやまない。
「さすが嬢ちゃん。民衆の心を鷲掴みだな」
「理由は知らないが、相手の高圧的なあの態度は敵を作るな」
形勢は逆転し、男たちは予想外の事態に戸惑い、先ほどまでの威勢がなくなっている。
(驚いた。こんな短時間で民の支持を得るとは)
イセン国は、他種族や移民が入り混じる複雑な国民性がある。
それ故に、他国よりも結束やまとまりが薄い。
繁栄と先進の裏で、いつもどこかでいざこざが起きている。
そんな国なのだ。
そのため、イセン国を取り締まる警ら隊の地位は高く、普段であれば楯突こうなどという者はいない。
だからこそ、民衆が一丸となり、警ら隊を非難するその光景は、とても信じがたいものだった。
「ふ、ふざけるな! 我々は誉れ高き警ら隊だ! 貴様ら全員連行してやるっ。俺達に逆らってただで済むと思うなっ!!」
「これは何の騒ぎですか?」
喚きまたも抜刀する警ら隊に、リルディが口を開きかけたその時、後ろから冷ややかな声が落とされた。