無謀な作戦
「待って!」
リルディはカイルと警ら隊の間に立つ。
「お前はどいていろ」
「大丈夫だから」
ビリビリと殺気立つカイルへと、その場にそぐわない明るい声で言い放ち柔らかにほほ笑む。
「私を信じて」
「リルディ……」
「ほぅ? いい心がけだ。一緒に来る気になったか?」
「いいえ。申し訳ありませんが、私もあの子も行くことはできません」
男たちへと向き直り、やや芝居かかった動作で恭しく頭を垂れる。
「なに?」
剣呑な眼差しを向ける警ら隊の男たちに、笑みを絶やさず更に言葉を続ける。
「私たちは旅の一座なのです。芸を披露し、町から町へと渡り歩く者。次の舞台があり、もうすぐに、この国も出なければならないのです」
「は?」
「なっ」
「ふゃ?」
リルディの口から出た突拍子もない言い訳に、カイルたちから思わずおかしな声が漏れる。
あまりにも無理がありすぎる言い訳。
(そんな口先の言葉で解放してくれるほど、目の前の相手はお人好しではないだろうが)
思わず額を押さえ心の中で呟くカイル。
「ふんっ。口から出まかせを。お前たちが何の芸を披露するというんだ?」
「私が舞を。あの子はまだ見習いです。彼らは、私たちの護衛をしてくれている用心棒で、ココにはいませんが、他の仲間は音楽を奏でます」
胸を張って堂々とそう言い放つ。
「ほう? ならば、舞いを見せてみろ」
案の定、男は意地悪い笑みを浮かべ言い放つ。
「……納得していただけたら、解放していただけますか?」
「いいだろう。俺達が納得すればな」
「ありがとうございます。ご慈悲に感謝いたします」
安堵の息を吐き、リルディは無邪気なほほ笑みを向け優雅に一礼をしてみせる。
(は? リルディが舞いを? どうしてそんな話になるんだ!?)
事の成り行きにカイルは唖然とし言葉も出ない。
顔面蒼白でラウラがリルディへと駆け寄る。
「あ、あの、リルディ……」
「ラウラ。大丈夫? 恐い思いをさせちゃったね」
「そんなことは平気なのです! それより、ラウラの所為でこんなこと……」
「なんか思いつきで言葉が出ちゃって。まぁ、やるからには本気で頑張るわよ」
一度目を閉じ深呼吸をし、リルディは綺麗に結い上げられた髪を解く。
「さあ、さあ!! お立合いっ。美しい舞い姫が踊りを披露するよ! 道行く方々、ご観覧あれ!」
声高らかにアランが声を放ち、茫然としていたカイルは我に返る。
「アラン! 貴様までこんな馬鹿げたことに乗るつもりか!?」
「やってダメなら俺が何とかする。あんたを守ろうとしている、姫さんの気持ちを汲んでやれよ」
「!?」
低く囁くアランの声に、自分の魔力が高ぶっていることにようやく気が付く。
「だが、いくらなんでも無謀すぎる」
「まあな。けど、俺はけっこういい線行くと思うぜ?」
「?」
自信ありげなアランの様子に、ますます訳が分からず混乱するカイル。
「やっと見つけたと思ったら……これは何の騒ぎだ?」
いつの間にか出来上がった人垣をかき分けて、その場に姿を現したアルテュールは、呆れ返った顔でその場の面々を見る。
「うわぁ。グットタイミング! アル。今から舞うから歌をお願い」
アルテュールへと駆け寄ったリルディは瞳を輝かせる。
「は!? お前、何を馬鹿な……」
「お願い。アルの歌じゃないとうまく踊れないわ」
「……」
出来上がった人だかり。
殺気立っているカイル。
不安げなラウラ。
抜刀し睨んでいる男たち。
約一名。
普段通り緊張感なくヘラヘラしている男もいるが。
「意味がまったくわからん……が、必要なんだな」
懸命に懇願するリルディの姿に、アルテュールは一つ息を吐く。
「うん」
「分かった。終わったらちゃんと説明しろ」
「ありがとう。アル」
「! サッサと始めるぞ。適当に合わせるから、お前は思う通りに動け」
こういう時に見せるリルディの笑顔にアルテュールは弱い。
どんな無理難題も、笑顔一つでチャラにしたくなるのだから、何とも始末に負えない。
これも惚れた弱みなのだろう。
「つーことで。始まるから、カイル様とラウラはこっちだ」
「……」
「はぅ」
カイルとラウラは困惑しつつ、アランに引きずられるように、リルディから引き離される。