事件は唐突に
「この腕輪なんてどうかな? ユーゴさんに似合いそう」
「綺麗なのです。……でも、お仕事の邪魔になるからと、あまり腕輪はなさらないのです」
「そうなんだ。うーん。じゃあ、こっちの飾り布とかは?」
「ふわぁ。落ち着いた感じで、とても似合うと思うのです」
「うんうん。私もこれは、ユーゴさんにピッタリな気がする。あ! でも、こっちの色も似合いそうだよね」
装飾店できゃっきゃっと、ユーゴへのおみやげを選ぶリルディとラウラ。
「……」
「……」
それを一歩離れたところで、複雑な表情で見守るカイルとアルテュール。
「みやげ一つに少し時間を使いすぎではないか?」
「まったくだ。なぜ、リディがあいつへの贈り物を見立てる必要がある」
「ははっ。珍しく意見があってんな」
茶化すアランに、カイルは殺気立った視線を向ける。
「貴様の上司なのだろう? お前が選べばいいだろ」
「いやいや。それを言うなら、王様……カイル様こそ。それに、長い付き合いなんでしょ? あの人の喜びそうな物とか知らないんすか?」
「……あそこにある置物とかでいいんじゃないか」
通りの露店をグルリと見て、指さしたのは、古道具屋にある不気味な木彫り人形。
入口付近にドンッと置いてあるそれは、人の子ほどの大きさがあり、そこはかとなく禍々しい。
「冗談だろ。あんなものが部屋にあったら、間違いなくこれからの付き合いを考える」
「悪趣味すぎ。いくらなんでも適当にもほどが……」
「そうか? ユーゴは意外にああいう、占術に使えそうなモノは喜ぶと思うのだが」
アルテュールとアランのツッコミに、カイルは至極真面目な顔でそう返す。
「あの男は占術までやるのか?」
「知らないっすよ! てか、ホントあの人は、底が見えなくて怖い……」
占術をしているユーゴを想像し、似合いすぎるその姿に、アランは口元を引き攣らせる。
「それなら、せっかくだし買って行ったらどうです?」
ユーゴに不気味な人形を手渡すカイル。
なかなかシュールな光景だ。
それを想像して、ネリーは笑いをかみ殺す。
「俺からよりもむしろ、ネリーからの方が喜ぶと思うが」
「はぁ!? そんなはずないでしょう!」
いきなり矛先を向けられ、思わず言葉使いが乱れる。
「あると思うぜ~。宰相様は、意外とあんたを気に入ってるとみた」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、アランもすかさず話に乗る。
「どこをどう見ればそういう風に見えるのよ。ひどい誤解だわっ。あぁ、もう! いいかげんに決まらないとホントにあの人形に……あれ?」
「どうした?」
「……二人の姿が見えないんですけど」
リルディとラウラ。
二人の姿がその場から忽然と消えていた。