争奪戦の勝者は
城内には人が溢れ返っている。
いつもは閑散とした広い通路の両脇には、ところ狭しと露天が立ち並んでいる。
焼き物や蒸し物を扱う店からは、食欲そそる匂いが漂い、色鮮やかな果実の飲み物を売る店や、珍しい鉱石を扱う装飾店。
果ては、生活用品を売る店まである。
城の中とは思えないほどのにぎわいだ。
「露店がいっぱい! 市場みたいね」
「人もたくさんなのです」
「そりゃーね。普段入れない城の中だし、見物人もたくさんいるわよ。ま、さすがに入場制限しているけど。それにしても多すぎよね」
通路を埋め尽くす人も半端な数ではない。
「イセン国は規模が違うな」
「本当に。そういえば南では、太陽祭の時期だよね?」
「あぁ。そろそろ準備にかかっているころだな」
「それはエルン国の祭なのか?」
追いついたカイルは、さりげなくアルテュールとリルディの間に入り込み問いかける。
「あ、カイル。太陽祭は、南の国々が合同で開催するお祭りだよ。作物の豊穣を祈って舞を舞ったり……」
「そんな話は後でいいだろ。サッサと周ろう。あまり時間がないのだろう?」
カイルとは反対側のリルディの隣りへと移動し、アルテュールはさりげなくリルディの手を取る。
「あぁ。そうだな。この人出だ。ボヤボヤしていては、周りきらないからな」
リルディの肩を引き寄せながら、カイルはそう言葉を返す。
「あの、二人とも……歩きづらいのだけど?」
「……」
「……」
リルディの両隣で、静かに火花を散らす二人と困惑げなリルディ。
「まったく、姫さん絡むとあの二人も大人げねーな」
「あー、やっぱりこうなるのよねぇ。もう! ここはラウラの出番ね」
「え? あの、ラウラが行っても邪魔になってしまうと思うのですが」
唐突な指名に狼狽えるラウラ。
「いいのよ。せっかく楽しみにしてたのに、このままじゃあの二人、喧嘩になるかもしれないでしょう? そうしたら、リルディが悲しむわよ」
「そ、それは嫌なのです」
「でしょ? だから……」
ネリーはラウラへと何事かを耳打ちする。
「はい、なのです。行ってきます」
リルディが悲しむという言葉に、ラウラは意を決して三人のもとへと向かう。
「ラウラ?」
「あのあの、姫様、お願いがあるのです」
「お願い?」
緊張した面持ちのラウラの様子に、リルディは小首を傾げる。
「ユーゴ様にお土産を買おうと思うのですが、一緒に選んでほしいのです!」
「なんだ。もちろんいいよ。そうだよね。色々やってもらったし、お礼もかねて、とびっきり素敵なものを選ぼう」
ラウラの申し出をリルディは快諾する。
「ありがとうなのです」
「うん。あと、今は姫様じゃなくてリルディって呼んでね」
「はいなのです。リルディ」
二人はニコリとほほ笑み合い、連れ立って歩き出す。
「……」
「……」
まんまとリルディを連れていかれたカイルとアルテュールは、茫然とその場に立ち尽くす。
「お二方もボーッとしてないで行きましょう。はぐれてしまいますよ!」
ネリーに背を押され、やっと我に返る。
「とんだ伏兵が……」
「……一番最初に誘ったのは、俺のはずなんだがな」
相手がラウラでは、無理に引き離すことも出来ない。
不承不承ながら、その後をついて行く。
(なんかあの姉ちゃん、日を追うごとに姫さんの周りの交通整理がうまくなってくよなぁ)
カイルが王だと知る前からの付き合いの所為か、イセン国王という立場であるカイルにも物怖じしない。
とりあえずは敬意をはらいつつも、基本的には、リルディ主体に物事を考えている。
それに加えて、リルディを慕い無心で仕えているラウラ。
二人の存在はある意味、鉄壁の守りともいえるだろう。
「アラン! あなたも何を他人事みたいな顔してるの? サッサと行くわよ」
「へいへい」
ネリーに一睨みされ、アランもその後に続くのだった。