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出発! でもその前に


 建国祭当日。


 リルディを迎えに来たアルテュールは、その場にいるメンバーを見て目を丸くする。


「いらっしゃい! アル」


 駆け寄ってきたリルディは、澄んだ空を想わせる浅黄色の生地に金刺繍が施されたガラベイヤを身に纏っている。

 すでに髪の色は金から黒に変えられており、細やかな編みこみで一つに纏められ、いかにも祭り見物にやってきた少女とうい出で立ちだ。


「……なぁ。後ろの連中は」


 リルディの姿は予想の範囲内。

 だが、後ろにいる面々にも大きな変化がある。


「私も最初見た時はビックリしたけれど、何せお城の中でしょう? 顔見知りにバレたらまずいからっていうことで、こんな感じになったんだよね」


「そういうこった。本当はもとの赤髪にしたかったんだけどよ。元職場の連中にバレると洒落にならねーし。今日の俺、ちょー地味」


 仰々しく肩を竦めて見せたのはアラン。

 鋼色の髪を黒く染め、同じく鋼色の瞳の色を隠すために、色眼鏡をかけている。


「地味というか……胡散臭いな」


 黒髪に丸い色眼鏡。

 加えて緩い服装。

 怪しい露店商のような出で立ちだ。


「確かに怪しげ?」


「姫さんまでひでぇ! ミステリアスって言ってくれよな」


 アランが抗議したその時だった。

 パタパタとこちらへ向かってくる足音が聞こえてくる。


「姫様~……きゃうっ」


 バターンッと派手な音がし、声の主である少女は床に張り付いていた。


「ラウラ! 大丈夫!?」


 リルディが慌ててかけより抱き起す。


(何もないところで、なぜ転ぶんだ?)


 段差もなにもない床の上で転ぶのは、一種の才能かもしれないと、アルテュールは思う。


「はぅ。大丈夫なのです。それより姫様。ラウラ、変じゃないですか?」


 立ち上がったラウラは、若葉色のワンピースに身を包んでいる。

 目には大きなグルグルレンズのメガネ。

 頭には、つばの広い大きな帽子をかぶっている。

 傍からみれば、どこぞのお嬢様かという出で立ちだ。


「変じゃないよ。すごく可愛いし。何だかそのメガネも懐かしいね」


 グルグルメガネはメイド時代のラウラのトレードマーク。

 城に来てからは、メガネをかけることもなくなっていたので、その姿を見るのも久しぶりだ。


「耳と目の色は目立つからとユーゴ様が。けれど、こんなお洋服初めてで、何だか変な感じなのです」


「ふっ。ラウラはまだいいわよ……。私なんてこんな姿にされて。一体何の嫌がらせかと思うわ」


 後からヨロヨロと姿を見せたネリーは、完璧な化粧と体の線が綺麗に出る服で、グラマラス美女へと変貌している。

 疲労困憊なのは、フルメイクのため、つい先ほどまでユーゴに軟禁されていたためだ。

 ユーゴを苦手としているネリーには、予想以上の苦行だった。


「うわっ。化けたな。やっぱ、別人だわ」


 アランはその姿を上から下まで見て、感心したように頷く。


「すごく綺麗。その服もなんていうか、胸が……羨ましい」


 自分の微かなふくらみのみの胸を見返し、リルディは小さく息を吐く。


「こんな厚化粧で綺麗って言われても複雑だわ。しかもそれをあいつにやられるとか。なんか屈辱」


「あ、私の髪の編みこみもユーゴさんがやってくれたんだよ」


 リルディの髪は、最新の編みこみヘアで整えられている。


「女の髪型までうまいとか、ますます怖いわよ」


「まったくだ。何で一国の宰相が女の服選びだとか、髪いじりが出来るんだ?」


 三者三様に整えられた姿は、完璧な出来上がりだ。

 それを氷の冷相とあだ名される人物が施したなどとは、到底信じられない。


「ユーゴ様はなんでも出来るのです」


「あの面で化粧とか髪いじりが得意とか、イメージとかけ離れすぎて不気味だろ」


 尊敬の意を表すラウラに、すかさずアランがツッコミを入れる。


「あいつはああ見えて、色々経験しているからな。変装だとかそういう類は得意分野なんだ。ある意味、趣味の範ちゅうかもしれぬがな」


 少し離れた位置で傍観していたカイルが、口元を緩めそう説明を付け加える。

 その姿は、意外にも普段と変わらない装いだ。

 確かにいつもより簡素な服装ではあるが、見た目に大きな変化はない。


「お前は大して変わらないんだな」


「本当。それじゃあ、すぐにバレちゃうんじゃないのかな?」


「お前といると、王務の時の威圧感が抜けているから、それだけでいいそうだ。あとは他人のそら似で押し通せとユーゴに言われた」


 歩み寄って来たリルディにカイルはそう説明をする。


「それでいいのか?」


 思わず突っ込まずにはいられない。

 この中で一番正体がバレるのがまずいはずの人物が、一番普段通りとは、まったく解せない話だ。


「問題ないと思うぜ? 王様は、姫さんが隣りにいると別人だからな」


 王である時の顔を一番知っているアランは、得心顔で大きく頷く。


(王務の時のカイルって、いつもとそんなに違うのかな? ちょっと見てみたいかも)


 そんなこと想いながら、リルディはその姿を見つめる。

 と、視線が合い、カイルはふわりとほほ笑みを向ける。


「その姿、初めて砂漠で会った時を思い出すな。覚えているか? 必死の形相で俺に無理やりククリの果実を押し付けて」


「もちろん覚えてるよ。でもあれは、カイルが意地を張るから」


 初めてあったのは、砂漠のど真ん中。

 しかもカイルは、砂漠で脱水症状に陥っていた。

 心配するリルディの好意を拒否し、そのうえ剣まで突き付けられた。

 思い起こせば出会いは最悪なものだった。


「あぁ。そうだったな。あそこでリルディと出会わなければ、俺は野垂れ死にしていただろう。お前は、いつだって俺を救ってくれる」


「カイルってば大げさ。私だって、カイルにはたくさん助けられているもの。それに、私の願いも聞いてくれて、とても感謝しているわ」


 政略的ではなく、心を通い合わせ、周りに祝福されて結婚をしたい。

 そんな願いを聞き届け、カイルはリルディの決心がつくまで、婚姻を待ってくれているのだ。


「感謝よりも、俺はそろそろお前に受け入れられたいのだが」


 カイルはリルディへ身一つ分近づく。

 手を伸ばせば、抱きしめられる距離だ。

 待ってくれてはいるが、求婚は嵐のように幾度となく繰り返されている。

 カイルの甘く熱っぽい視線に、リルディは頬が熱くなるのを感じる。


「だ、だからそれは……」


「それは?」


 カイルの手がリルディへと伸ばされる。


「はいはい。そこまでだっ」


「リディ、用意が出来ているなら出るぞ」


 アランが二人を引き離し、アルテュールはリルディを引っ張り出す。


「アル! ちょっと待ってよ」


「待たない。モタモタするな」


 甘やかな雰囲気から我に返ったリルディの声を聞き流し、そのまま部屋を後にする。


「あ、私たちを置いて行かないでよ!」


「待ってくださいなのです」


 その後を、ネリーとラウラは慌てて追いかける。

 瞬く間に、その場には二人だけが取り残される。


「……アラン、どういうつもりだ?」


 リルディの姿が見えなくなると同時に、カイルの王スイッチがオンになる。

 目で人を殺せるならば、すでにアランは死んでいる。

 それほどまでに、カイルの視線は冷たく鋭い。


「これは宰相様の命令なんだよ! 婚姻前にあんなことやこんなことが起きないように阻止しろって! 俺の直属の上司は宰相様なんだ。文句はそっちに言ってくれよなっ」


 射殺さんばかりに睨まれたアランは、ダラダラと冷や汗を流しながら後づ去り言い募る。


「チッ。ユーゴめ、余計なことを」


 カイルは忌々しげに舌打ちする。


『手を出すのは、姫君を口説いて婚姻を結んでからにしてください』


 と、常々釘を刺されているのに、今回妙にすんなりと要求が通ったのは、監視役を付けていたからだろう。


「つーことで、俺達もサッサと行こうぜ。あの坊ちゃんに姫さん独り占めされんのも癪だしな」


「言われるまでもない」


 こうして、一行はやっと祭りへと繰り出したのだった。

 


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