光の中
「こっからだとよく聞こえねーんだけど!」
「というか、盗み聞きとか無粋じゃないですか!?」
「違げーよ! 俺は王様が心配だから、見守ってんだよ。大体、姫さんと二人きりとかずるいだろ!?」
「それ、後半が本音でしょーが。ていうか、邪魔だし」
「うわっ!」
声が上がり、隣接する部屋からアランが転がり出てくる。
「……」
「よ! 王様、見舞いに来てやったぜっ」
唖然としているカイルと目が合うと、いそいそと立ち上がり何事もなかったようにニカリと笑う。
「いや、覗きしてたのバレバレかと。あ! 自分は違いますよ!? 純粋に心配しておりました。あの殺しても死なないようなカイル様が、熱を出して倒れたと聞いて」
後に続いて出て来たエルンストが爽やかに言い放つ。
「そうです! 本当に心配したんですよ? あぁ。それにしても麗の君に心配されるなんて、本当に羨ましい」
「お前も、ここに来た動機、俺と大して変わらなくね?」
「失礼な! 私はきちんと、果物と消化によさそうなものを見繕ってもってきたんだから」
「あの、あとお薬も。耳長族に伝わる薬なのです。急いで煎じてきたのです! ちょっと苦いのですが我慢してくださいなのです」
ネリーとラウラも姿を見せる。
「な、なんだ。これは? なぜ、お前たちまで……」
「それはこちらのセリフです。姫君はあなたの元を離れないし、この者たちは様子を見に行きたいとしつこいし。仕方がないので、アランの魔術で此処へ連れてきたのです」
カイルの呟きに、最後に現れたユーゴがひどく憂鬱そうな顔で答える。
「それから、ユーゴさんもですよね。カイルが心配で来てくれたのでしょう?」
「当たり前でしょう。王が病などと知れては、弱みに付け込まれてしまいます。さっさと治してもらわねば、困ります」
そう言い放ってから、その部屋にいる面々を見渡す。
「そこの二人は邪魔です。様子を見たのだからもういいでしょう? 即刻、部屋を出る様に。ネリーとラウラはこちらへ。他にも仕事がありますから」
「ひでぇ!? 俺らは除け者かよ」
「この人はともかく自分まで?」
「お前、今サラッとひでーこと言ったよな」
「本当のことじゃない」
「病人がいるのですから、静かになのです!」
「はぁ。まったく」
騒がしい面々を見ながら、リルディがカイルの手を握り絞める。
「ほらね? カイルは十分愛されているわ。お願いだから、この場所を暗く荒んでいる。なんて言わないで。カイルがいるここは十分、明るくて優しい場所なんだから」
「違う。それはここにお前がいるからだ。本来のこの場所は……」
打算と謀略が巣食う、冷たい暗闇が広がるだけの孤独な場所だったはずだ。
「変わらないものもあるけれど、それと同じくらい変わるものもあるんだから。カイルはもうとっくに光の中にいるんだよ」
「!?」
虚を突かれたカイルはリルディを見返す。
「俺は……」
「カイルは独りじゃないわ。手を伸ばせば握り返してくれる人たちがいるもの。大体、私を閉じ込めるもなにも、私はもうとっくの昔に、カイルに心を奪われているんだからね」
陽の光が差し込むその場所で、リルディは頬を朱に染めながら、柔らかくほほ笑んだ。




