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火花散るお茶会

 イセン国城。


 とある日、テラスに設けられたテーブルを囲む三人の男女。

 一人はこのイセン国の王。

 歳若い王は、連日の激務を経て数日ぶりに、愛しい婚約者のもとへとやってきたのだった。

 そしてその向かい側には、少年らしさを残した見目麗しい中性的な雰囲気の青年。

 南の小国リンゲン国王子。

 社会勉強との名目でイセン国へと留まって久しいが、実際は隣りに座る少女の存在が彼をここに止めている。

 悲しいかな。そのことに、幼馴染たる少女はまったく気が付いていないのだが。

 そんな二人の間には、長い金の髪に青い瞳の少女。

 南の小国エルンの姫君である少女は、う余曲折を経てイセン国王と想いを通じ合わせ、イセン国へと留まることとなった。

 日々、王に相応しい伴侶になるべく猛勉強中だが、時折設けられる大好きな王と気心の知れた幼馴染とのこのお茶会は、姫君の何よりの楽しみでもある。


「建国祭?」

「あぁ。明日から執り行われる。イセン国の一大イベントだそうだ。確か、城内の一部を解放するとか。聞いていないのか?」

「今初めて聞いたわ。カイル、アルの話は本当?」


 その問いに大きく頭を振ってから、隣りにいるイセン国王ことカイルへと視線を向ける。


「……あぁ。そういえば、言っていなかったか」

「もう! どうして、そんな楽しそうなこと教えてくれなかったの?」


 不満げに頬を膨らませるリルディに、苦虫を潰したかのように顔を顰めるカイル。


「お前のことだ。参加したいというのだろう?」

「もちろん!」


 キラキラと瞳を輝かせるリルディとは対照的に、カイルは憮然とした面持ちで、断固とした口調で言葉を放つ。


「言っておくが、お前の参加は許可出来ない」

「どうしてよ!? 町に出るわけじゃないし、城の中だけだもの。少し見て回るくらいいいでしょ?」

「何が問題だと言うんだ? 目立つと心配なら、リディの自称護衛の魔術師に髪色を変えてもらう」


 ここトリア大陸とは別にある、ランス大陸の民を母に持つリルディは目立つ。

 特に黒や茶の髪色が一般的であるトリア大陸で、リルディの金色の髪は、とても目を引く。

 加えて、イセン国王の婚約者が金の髪の姫君であるのは有名な話だ。

 落ち着いてきてはいるものの、イセン国では、まだまだ情勢が不安定な部分が多い。

 例え城内であろうとも、不特定多数が行き交う場所では、何が起こるか分からない。

 だからこそ、リルディを溺愛しているカイルには、とても許可出来ない。


「だめだ。その日は、俺も王として式典に参加する。お前の側に居られぬのだ」

「だから俺が一緒にいるといっている」

「ますますダメだ」


 アルテュールの言葉に、カイルは間髪を入れず答える。


「そう……だよね。カイルがお仕事なのに、私だけ遊びに行くなんて不謹慎だよね」

「あ、いや……」


 リルディがアルテュールと一緒に行くのが嫌だ。

 というのがカイルの本音だが、リルディは別の意味に捉えたらしい。

 落ち込み瞳を伏せる。


「うっ」


 シュンッと叱られた子犬のようなリルディの姿に、カイルはオタオタと視線を泳がせる。


「…………あまり時間は取れぬのだが」

「え?」

「式典までの空き時間、ほんの一時だけだが付き合ってやる」

「いいの?」

「未来の夫としては、聞かぬわけにもいかない。そういうことだから、幼馴染殿の手は煩わせることもない」


 心持ち、“未来の夫”と“幼馴染”という言葉に力を込める。


「心配は無用だ。リディのエスコートには慣れている。多忙な王と違い、俺は一日中でも側にいることが出来る。あんたは心置きなく王の仕事に専念すればいい」


 カイルのけん制を受け、アルテュールもすかさず応戦する。


「心遣い痛み入る。まったくもって不要だがな」

「それは差し出がましいことを。だが、俺も一人では味気ない。ぜひリディとまわりたい」


 口調は穏やかながら、二人が合わせた目からは火花が散っている。

 その場は剣呑な空気が流れる。


「うん! じゃあ、三人で回りましょう。あ! そうだ。せっかくだから、ネリーとラウラも一緒に。あとは……アランもきっとそういうの好きだし、誘ってみるわね。ふふ。楽しくなりそう」


 一触即発な雰囲気は、リルディの弾んだ声に一掃される。


「……」

「……」


 あまりにも楽しそうなリルディの様子に、カイルとアルテュールは毒気を抜かれ、無言のままに各々お茶に口を付ける。


「勝手に私たちも巻き込まれているわね。あーあぁ。何事もなければいいけど」


 少し離れている場所で待機していた、リルディ付の女官であるネリーはボソリと呟く。


「ラウラは嬉しい。姫様とお出かけ。きっと楽しいと思うのです」


 同じくリルディ付女官のラウラは、耳長族特有の長い耳を嬉しそうに小さく動かす。


「ま、行くからには楽しむけどね。けど、やっぱり平穏に終わらない気がしてしょうがないわ」


 そんなネリーの不安は的中することとなるのだが、その時は誰も知る由もなかった。


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