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1話

「凄いじゃない」

 神崎紅音が俺に向かってそう告げる。

「以前のあんたなら私に傷一つ付けられず、地面へ這いつくばっていたのだけどね」

 神崎は己の脇腹を撫でながら褒める。

「結構痛かったわよ」

「それは嬉しいな」

 俺は息の乱れを悟らせないようにしながら言い返す。

「これでお開きにしてもらうと俺が喜ぶ」

「それは無理?」

「やっぱりか……」

 俺はため息を吐く。

 神崎の戦闘狂癖は健在なようだ。

「休憩がてらお話をしましょう。犬神君、私とあんたの潜在能力の差はあまりないのに、何故学園であれほどまでの差が出たと思う?」

 神崎は髪を掻き上げながら問う。

「勉強も人気も入学前はあんた方が上回っていた。けれど一年後には逆転し、私は全てにおいてトップを取り、片や落ちぶれて退学した犬神君。何故そうなった?」

「……俺が弱かったからだろ」

 俺は顔をしかめながら吐き捨てる。

「俺の心があの地獄に耐え切れなかったんだ」

 思い起こすのは夢宮学園での煉獄生活。

 強さこそが唯一であり絶対を掲げる夢宮学園の生徒は、上位も下位も安寧が無い。

 故郷とは違うあまりに殺伐とした環境に俺は心を折られて退学した。

「違うわ、師弟よ」

 俺の心を見透かしたのか神崎は強く言い放つ。

「私には教官が入学当初で見つけたけど、犬神君は師がいなかったのよね。だからここまでの差がついた。けど、犬神君は退学後に師匠と出会えたからここまで強くなった。それこそ他の鬼人とは一線画す化け物に――いえ、私達鬼人も人間から見れば十分化け物よね」

 鬼人。

 それは人間とは似て非なる人間。

 コンピューターの支配からの脱却を掲げた財団が開発した超人であり、胎児期にある遺伝子を組み込むと生体機構は人間と変わりないものの、その中身は既存からかけ離れた人間が生まれる。

 大砲の直撃を受けても無傷、戦車を片手で持ち上げ、空を飛び、おまけに気弾も放てる。

 しかし、姿形は人間と大差ない。

 しかも遺伝子を注入したら確実に定着するわけでなく、失敗も当然存在する。

 母子共々死のリスクを負うがゆえに人々は畏怖と尊敬を込め、彼等を“鬼人“と称した。

「……何が言いたい?」

「師弟って大事だなあ、と思ってね」

 神崎はクスクスと笑う。

「先祖の業績を否定したり、独力で強くなった者の武勇伝があるけどさあ。そういう人間ってすぐに消えるのよね。不思議だなと思っていたけど私はこの光景からようやく謎が解けたわ」

「人それぞれの受け取り方だ。一様に否定するのは良くない」

「何を言っているのよ。私は教官の薫陶を毎日受けた結果、最強と称され、星影原理の下で修業した犬神君は私と肩を並べるまで成長している――私達と他の鬼人、師弟関係以外の何が違うの?」

「よくしゃべるな」

「ああ、ごめんごめん。嬉しくてね。何せ教官が唯一嬉しそうに語るのは、私じゃなく星影原理関連だけなのよ。で、その者の下で育った君が私と唯一実力が拮抗している。これを喜ばないで何を喜ぶの?」

 神崎は嬉しそうに目を細める。

「さあ楽しみましょう。互いの師匠の因縁を受け継いだ弟子同士の決闘をね」


 エネルギー文明。

 それは化石エネルギーなど資源を基盤に置いた文明の総称。

 石油や原子力といった固定エネルギーの活用は全世界へ浸透し、数ある文明の中で最も強大かつ持続した文明として評価を受けている。

 だが、万物には終焉があるように、過去最強の文明でさえ時代の変化には抗えなかった。

 資源エネルギーの枯渇はそのまま隣国への火種となり、エネルギー文明は皮肉にも最も人類を栄えさせた反面最も人類を殺戮した文明ともなっている。

 エネルギー文明の後に登場したのが鬼人文明。

 鬼人を中心に置いた文明。

 鬼人とは大砲を受けても無傷で済み、戦車を片手で持ち上げ、気弾を放ちあまつさえ空を飛べる人類。

 文字通り鬼の強さを持った人類である。

 そして、軍事力はこの鬼人の質や量によって決まるがゆえに各国はこぞってこの鬼人の育成及び確保に腐心していた。

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