最終話 おとうとから。
帝国暦九三四年、北部第五基地第八部局格納庫。
カイはそれの前に独り、佇んでいた。
帝国最強の兵器にして、帝国最大の技術の結晶だ。
本来、触れることを許されていたのは、コハクのように特殊な能力を有した一握りの人間だけだった。カイの触れ得る余地なのなかったはずのその兵器は、三年間の実験期間を経て、一般軍人にも扱えるように改良を加えられた。
これまでは実験用の二機のみがあった場所に、今は十機が鎮座している。カイは三年間自分が乗ってきた機体に目を向けてから、真新しい機体に目をやった。
これを見て、あの人はどう思うのだろう――物思いに沈んでいたカイは、背後の足音に気付かなかった。
「何をぼんやりしているんだ、おまえは」
カイの後頭部を左腕で小突いたのは、シュタンだった。カイが返す言葉を捜している間に、シュタンは更に歩を進めた。
「これがVEMか」
「はい。三年、僕とフジ少尉で乗って、能力者以外でも機動性があることを確認出来ました」
「おまえ、これをどう思う」
周囲に誰も居ないことは、とうに確認してあった。それでもカイは本心を告げることを言い淀み、口にするまでしばしの時を要した。シュタンは無言のままでカイが決意するまで待った。
「――悪魔のようなものだと、思っています」
それはいい、と答えて笑ったシュタンの目は鬼気迫っていた。義手となった右の拳を握り、口元を笑みに歪める。
「連中にとっては地獄の悪魔というワケだ。乗ってやるさ」
カイはヤマブキの言葉を思い出す。今になって、その言葉の重みが身に染みた。同時に、シュタンがここに来た理由も氷解していく。シュタンはその腕の痛みを忘れていない。復讐を果たすまで、進み続けるだろう。
それでも、とカイは姉の言葉を拠り所に口を開いた。
「あまり無茶はしないで下さい、義兄さん」
シュタンが表情を一変させて振り返った。見る見るうちに、その頬が赤くなっていく。カイは姉の言葉をもう一度思い出した。
『あの人は、人前で私の名さえ呼べないような照れ屋だから、貴方に義兄と呼んで甘えて欲しくても、面と向っては言えないのよ』
シュタンは何度か口を開き、ようやくの思いで言葉を搾り出す。
「スっ……あいつかっ! 言うなと言ったのに!」
耳まで赤くなったシュタンを見て、カイは遂に噴き出した。シュタンが益々赤くなるが、すぐに諦めて項垂れた。鉄の右手で、真っ赤になった頬を隠す。カイが笑い止まずにいると、次第に諦めがついたのか、シュタンも笑い出した。屈託無く笑う姿に、カイは姉の浮かべる満面の笑みを思い出す。
これなんだ、とカイは胸中で叫んだ。
ここで完結です。お読み下さった方、ありがとうございました。
なお番外編は数十年後の話です。
ハッピーエンドぶち壊していますので、ご注意下さい。




