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*32*

 人は見かけによらないのは、本当らしい。


「夕貴より、早いじゃないか計算」

「そんなことないよ。書き方適当だし」

「……やり直し」

「ひどっ」

「あ?」

「……良、時々さ不良みたくなるよ」


 誰がさせてんだ。まだましだろ。ほんとだったら“あ”に濁点ついてるぞ。


「ていうか、なんでぼくが会計?」

「推薦」

「誰の?」

「正しくは2年生対象のアンケート」

「えー、じゃやだよ」

「拒否権はなし。生徒会全員の承諾済みだからな」

「良、僕がこういうの嫌いだって知ってるくせに」

「俺が反対しても、多数決で負けだ。満場一致だったし」

「青葉は繰り上げ、夕貴も繰り上げでしょ?あれ、朝貴は?」

「風紀委員長か迷ったらしいが、結局夕貴がいるからと」

「みんなやりたくてやってんのに、なんで僕だけ……」

「あとこれと……こっちも全部数字出してください、会計」

「まだ会計じゃないし。なんで手伝わなきゃいけないの!?」

「習うより慣れろ」


 唸るより手を動かせ手を。夕貴が副会長の仕事、頑張って覚えてるんだ。澪が会計できなくてどうする。

大体、この時期俺も暇じゃない。新生活に向けてあれこれ準備しなきゃいけないんだ。俺はさらに会長の仕事を淳に教えなきゃいけないし……。正直今が一番忙しいんじゃないか?

 大学行ったら少しは落ち着くだろうか。

 文句を言いつつ、会計の仕事をなんとか片付けた澪と共に寮に戻る。少しずつ荷造りを進めてはいるが、正直はかどらない。こんなにも時間がないとは思ってなかった。今日だってもう日がくれてから帰ってるわけだし。

 ふと、隣を見ると眠たそうに大きな欠伸をする姿が目に入る。授業中は昼寝ばかりな彼が珍しい。


「……さっさと卒業しちゃえ」

「は?」

「違うよ。良じゃないよ。良は卒業しないもんね」

「留年させるな。じゃあ、誰だ?」

「キス魔」

「……あぁ」


 そういえばそんなことあった。思い出したくないこと思い出させやがって。今思うと殺意が芽生えて来るな。


「あんなことになるなら。無理矢理しちゃえばよかったな」

「……は?」

「あの変態は、幼稚園からやり直せばいいんだ。そうすれば……」


 なにやら物騒なことを言ってるが。急にどうしたんだ一体。


特に一言目は聞き捨てならん。


「無理矢理って……」

「だからさ、あんなやつにキスされるなら、良としたかったなって……ん!!?」


 気づいたら体が勝手に動いていた。すぐ目の前にある気配がすごく動揺している。だがそれは俺も同じだった。なにやってるんだ俺……。


「んー……んっ!!んんー!!!」

「は……もう少し息続かないのか?」

「はぁ……はぁ……無茶言わないでよ!!ていうか……っ!!」


 茹蛸が現れた。口元に手を当てて、見開いたその目が潤いを持って揺らめく。それを見て、俺は澪の顔の横に顔を寄せた。


「可愛い」

「なっ!!」


 ますます赤くなる顔をした彼を一瞥し、俺は止まっていた歩みを再開した。後ろで何か文句を言っているが、おいてくぞというとしぶしぶといったように再び俺のよこに来る。素直じゃなくてかわいげがない。まぁ、そういうとこもある意味可愛いというんだろうな。

良介は一体何者だ?


書いてるこっちがわからなくなるような行動をさらっとするんですけど。

そのうち澪の事押し倒すんじゃないのかあいつ。

もう、どうなっても知らない。というか、どうなるんだろう。

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