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第一話です。
基本、澪視点です。
2年生の春がやってきた。相変わらず、変化も何もない朝。いつも抱いて寝ているテディベアをわきに抱えて、洗面所に向かい顔を洗う。テディベアをソファに置くと冷凍食品のパンをレンジで温める。大体自炊なんかしない。というかできない。テレビをつけて、朝のニュースを見る。といっても聞き流すだけ。要は部屋が静まってなければいい。ほかほかに温まったパンを加えながら、カップにミルクを注ぐ。
食事を済ませて、制服に着替える。Yシャツを着てその上にクリーム色のセーターを着る。ネクタイはあえてしていない。してなくてもそれほど注意をされないのは校則の緩さのおかげだと思う。その上にブレザーをはおって、洗面所に再び向かう。簡単に櫛で地毛の茶髪の髪の毛を梳かす。といっても、僕の髪の毛は癖っ毛だからどうしてもぼさぼさしてしまう。まぁ、それも仕方がないことだからそれ以上の抵抗はしない。再びリビングに行き、テディベアの横に置いてあるイヤホンを首にかけ、プレイヤーをブレザーのポケットに入れる。さらに通学用のかばんを持てば準備完了だ。
「行ってきます……」
ぽふぽふとテディベアに別れを告げ、僕は寮の部屋を出た。ちなみに、僕は一人で寮の部屋を使っている。これも実は良のせい。同室生に秘密をばらされるのを防ぐためらしい。何とも用意周到だし、そこまで僕の事を信用してないのかと悲しくもある。イヤホンを耳に当て、僕は学校の校舎へと向かった。
教室に入っても、誰ひとり僕に声をかけてくる人はいない。僕が誰も寄せ付けない、そんな雰囲気を出しているからだと、前誰かに言われた気がする。とくにクールを気取っているわけじゃないけど、どうやらそう思われているらしい。だから別に僕の方からも声をかけようとはしない。窓側の一番前の席が僕の席。鞄を机の横にかけてイヤホンをしたまま机に伏せる。どうせ今日も、何事もなく過ぎてくんだろうな。今日は何回会えるかな。今日は何回話せるかな。今日は何回あの人の目に映ることができるかな。そんなことを考えてしまうのは、もう日常茶飯事だった。
「お、澪じゃん。どこいくんだ?」
昼休み、昼食も食べた後教室を出たところで青葉淳にあった。同じ二年で生徒会書記をしている。数少ない僕が話す人。僕に話しかけてくる人。イヤホンをしていてもその声はよく聞こえた。イヤホンを外しつつ、そのほうに振り向く。
「保健室、サボろうと思って。どうせ良にあえないし。教室いても暇」
「副会長なら会いに行けばいるんじゃね?」
「いい。じゃあね」
「暇なら今から体育館でバスケやんだけど来ないか?」
「……バスケ?」
「そ、暇なんだろ?」
「……仕方ないから行く」
「素直じゃねーの」
別に、スポーツは嫌いじゃないだけ。体動かしてるといろいろ考えなくて楽だし、もともと運動神経は悪くない。ただそれだけ。ただ無関心で、あまり熱中できないから部活には入ってない。そういえば、良は何かスポーツ得意なんだろうか。あまりそういう話はしないからよくわからない。誕生日すら……知らないかもしれない。今度聞いてみようか。けど、教えてくれるかな。まだまだ知らないこと多い。だから知りたい。秘密なんかより、良自身のこといっぱい知りたいのに、良は教えてくれない。あまり自分の事を話したりするのが好きじゃないみたいだし。知りたい。好きだから、知りたい。少しでも近付きたい。
「澪―?どうかしたのかよ」
「あ……なんでもない、やろう」
だめだ。良の事考えると、周りが見えなくなる。
澪はどこかで書いた気もしますが素直じゃない寂しがりやなイメージです。ツンデレかも。