『平民出の可憐な少女を庇ったつもりが、全部勘違いだった王太子の俺は卒業式で詰んだ』
気軽に読んでもらえるとうれしいです。
俺は、フェルディナンド・リヒトベルクという王太子である。
いや、正確には王太子に転生してしまった元日本人の29歳、会社員である。
気づけば金髪碧眼のイケメンに鍛え上げられた肉体。
そして、豪華な寝室に常に警護の騎士が付いて回り、身の回りの世話は全て侍女がしてくれる。
そんな男なら一度は憧れる境遇を俺を手に入れていた。
最初こそ戸惑ったが、前世の一人暮らし生活に比べると天国と言える。
会社で理不尽な支持を受け、成功すれば上司の手柄、失敗すれば責任を負わされる。
今は、なんとその逆ができる。
できるが、俺はそんな理不尽な支持を受ける者の辛さも知っているので、
心優しい王太子であろうと努力してるいるところだ。
そして、俺には婚約者がいる。
エーデルシュタイン侯爵家の令嬢であるクラウディア嬢。
真面目で気品があり、誰に対しても節度を保ち、決して出しゃばらない女性。
スタイルも抜群、長い黒髪の類を見ないほどの美女である。
欠点らしい欠点の見当たらない女性。
俺はすばらしい婚約者を得た、とみな羨望の眼差しで見ているだろう。
だが、それは完全に間違いだ。
完璧すぎる女性は、前世で自堕落な生活を送っていた俺にはつらい。
気の休まる時がないのだ。
冗談を言えば笑ってくれるが、目は笑っていない。
瞳の奥では小馬鹿にしてるようなまなざしがある。
恵まれた生活をしていると思えるが、唯一どうにも息苦しい思いをしている。
そんな時に彼女は現れたのだ。
平民ではあるが、魔術の才能を見出され、ブランシェット男爵の養女となり、
格式ある王立学園に転入してきた。
彼女の名はリリアーナ。
花の名を含み、その名の通り柔らかく可憐な女性で、庇護欲を掻き立てる。
誰にでもやさしい笑みを浮かべ、顔つきは幼いがかわいらしく愛嬌のある笑顔を見せる。
クラウディアとはまるで何もかも反対の女性だ。
そんな彼女にクラウディアが嫌がらせをしていると学園中に噂が広がった。
きっと平民出であるリリアーナにあれこれ説教くさいことを言って
それがいじめでもしているように映っているのだろう。
だが、その噂はある意味真実とも言える。
俺を慕っているリリアーナに嫉妬している、などということは
クラウディアに限ってないだろうが、
俺が息苦しく感じているように、平民でのリリアーナも同じように感じているだろう。
そして、それが周りに伝わってしまっている。
とても素直なリリアーナは、俺と違ってその感情を隠しきれていないようだ。
ただ、そのわかりやすさも彼女のいいところだと思う
リリアーナを庇う俺に好意を抱いてることも、とてもわかりやすく伝わってくる。
そして、それがこの上なく心地よい。
こんな女性が妻となるなら、この上なく幸せに過ごせるのではないか?と。
そして、俺は思うのだ。
俺自身がしっかりしていれば、リリアーナのような平民出の女性が
王妃となっても問題はないはずだ。
あれこれ口出ししてくるようなクラウディアのような王妃は、みな望まないに違いない。
素直でかわいらしいリリアーナのほうがみな受け入れてくれるのではないか?
少し都合のいい妄想をしてしまったかもしれないが、
悪い噂を立ててしまったクラウディアにも責任はある。
思案の末、俺は決意した。
学園の卒業式でクラウディアを断罪し、婚約を破棄する。
そうすれば、全てがうまく収まると信じて。
卒業式の当日。
大講堂には生徒たちが集まり、華やかな雰囲気に包まれていた。
俺は深呼吸し、声を張り上げた。
「クラウディア・フォン・エーデルシュタイン」
会場がざわめく。
「殿下…?」
クラウディアは何故、今、自分の名前を?というような顔をしている。
あらかじめ、俺のすることを伝えていたリリアーナは涙ぐみながら、こちらを見ている。
もう後戻りはできない。
「クラウディア・フォン・エーデルシュタイン。
お前を断罪…」
その時だった…。
「ちょっとまったぁ!!」
講堂に響き渡る大声。
全員が振り返る。
そこに立っていたのは、隣国アルトラ王国の第二王子、レオン・アルトラだった。
銀色の髪に赤い瞳。
野性味あふれる日焼けした肌は一部の女性とに絶大な人気を誇っていた。
交換留学生として、この学園に在籍している。
まだ2年生のはずなので、在校生だ。
「レオン殿下、何か問題が?」
「貴様、今、麗しのクラウディア嬢を断罪しようとしていたな?」
在校生代表として、何か祝辞でも述べる予定はあっただろうかと俺はすばやく考える。
いや、そういう予定があったかもしれないが、今はそれどころではない!
「リリアーナ嬢に働いた悪行の数々を見過ごすわけにはいかない。
それゆえに王太子妃の候補としては不適格と言わざるを得ない!
ゆえに断罪し、婚約解消を言い渡す!」
俺はレオン殿下だけではなく、会場中の来賓客含め全ての人を見渡して言い放った。
講堂中がしん、と静まりかえる。
「フェルディナンド、お前はバカなのか?
根も葉もない噂を真に受けたのか?
リリアーナ嬢、その女こそ、クラウディア嬢を陥れようとした真犯人なのだ!」
ばばーんとレオン殿下がリリアーナ嬢を指さす。
え?私?と突然話を振られたリリアーナも戸惑い気味だ。
おろおろと手を口元に持っていき、しきりにあたりを見回している。
その仕草もかわいらしい。
「火のないところに煙は立たぬ!
直接リリアーナが俺に助けを求めたわけではないが、
クラウディアの悪行に困っていたのは事実なのだ!」
俺はレオン殿下に対し反論した。
「お前たちは何もわかっていない!」
その時、またどこからか空気を読めない声が響き渡った。
講堂の入口付近で、長い黒髪をかき上げながら、声の主は立っていた。
背は高く、すらりとした体つきだが、ナルシストで俺はあまり好いてはいなかった。
その男は隣国のさらに隣国のダウリス第一王子。
たしか、2年前に学園を卒業したはずだ。
なぜ、ここにいるのか理由はわからない…。
「悪行の数々と言っても、所詮は噂に過ぎない。
そんな世迷言に惑わされるとは笑止千万、笑いが止まらぬとはこのことよ!」
大事なことなのか、なんか似たような意味のことを2回言った。
「ダリウス殿下、それはいったいどういう意味か?
悪評をなかったことにせよ、というのか?」
俺は講堂の入口まで届くようにと声を張り上げた。
しかし、ダリウスは耳に手を当てながら首を傾げた。
どうやら聞こえなかったようだ。
ダリウスにこちらに来るよう手招きして、もう一度同じ事を告げた。
「なーに、くだらん事に惑わされるな、ということだ」
ダリウスは長い黒髪を何度もかき上げる。
その動作をやめると死んでしまうかのようだ。
「火のないところに煙は立たない、と言ったな?
お前は、その火がいったい何なのか?確かめたことがあるのか?」
そう言って、ダリウスはまた髪をかき上げた後、そのまま、リリアーナを指さす。
「ごめんなさい!」
突如、リリアーナが泣き崩れた。
「クラウディア様には礼儀作法の注意を、心得を受けただけなんです!
それが何故か変な噂が広がってしまって、私も怖かったんです…」
泣きじゃくる姿もかわいい。つい見とれてしまう。
いや、それより、なぜ今、そんな話をしてしまうのだ!
俺がこの後の言葉につまっていると、ずいっとクラウディアが一歩前に進み出た。
何かを決心した表情をしている。
「殿下。私の至らなさが誤解を生みました。
もし殿下が望まれるなら、婚約解消を受け入れます。
私は争いを望みません」
あたりが静寂に包まれた。
「そ、そうか…」
俺は、そう言うのが精いっぱいだった。
今まで、俺の言うことに反対ばかりしていたクラウディアだが、
何故か今は、少し寂しげな表情をしている。
しかし、それも一瞬だけで、すぐに何かを決意したような凛とした顔つきに変わった。
その時、俺は純粋に美しいと思った。
クラウディアは俺に近づき、静かに言う。
「殿下が選ばれる道が、殿下にとって最善でありますように」
そう言って講堂を後にする彼女を見て、
なんとも言えない後味の悪さを感じていた。
俺は、どこかで何かを間違ったのだろうか?
これが俺が転生してからやりたかったことなのだろうか…?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「この続きが見たい」「別の配信企画も読んでみたい」などあれば、ぜひ感想で教えてください。
★やブクマ、コメントなどの反応を、次の企画に活かしたいと思います。
5/12(火)の21時過ぎくらいに次の短編を投稿しようと思いますのでよろしくお願いします。




