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幼なじみに「どうせ押し倒す度胸もないくせに」と散々煽られたので、朝チュンしてやった  作者: 本町かまくら


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第26話 幼なじみと、朝チュン


 お風呂から上がり、ソファーに座る。


 時間の流れはいつだって同じなのに、今はやけにゆっくりと流れている気がした。

 それなのに、胸の鼓動はあまりに早い。


「ま、マジか……いや、その……ま、マジか……」


 元々ない語彙力が壊滅状態に陥る。


 今、眞白はお風呂に入っている。

 ただ入っているのではなく、今日俺の家に泊まるから入っているのだ。


 夏休み最終日、泊まり、お風呂、ふたりきり――彼女。


 そこから導き出される答えは、ひとつしかない。

 手をつないだ初日から、俺たちなりのペースで歩いてきて……遂にここまでやってきた。


「……そういうこと、だよな」


 そういうこととはつまり、そういうことである。

 

 俺たちは付き合う前に二回、シている。

 ただそれは意地の張り合いの結果で、かなり変則的。


 要するに、長い遠回りの末に今日ようやく正規ルートに入ったのだ。


「ヤバい……ドキドキする……正常じゃいられない……!」


 言うなれば、ほぼ初めて。いや、初めてではないんだけど、三回目にして一回目……ダメだ、よくわからなくなってきた。


 とにかく、健全な男子高校生として動揺を隠せなかった。

 だから、近づく足音に全く気が付いていなかった。



「…………お待たせ、兼助」



 声をかけられ、振り返る。

 そこにはお風呂から上がったばかりの眞白が立っていた。


 水色のパジャマ。それも長袖の開襟シャツのタイプで、私服とも制服とも全然違う、今から寝るためだけの服。

 黒髪は湿り気を帯びていて、頬は紅潮していた。


 いつもより数段艶やかで、色っぽい眞白。

 思わず見惚れてしまい、眞白が恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「み、見すぎよ……ばか」

「わ、悪い。つい……」

「ついって何よ」

「いや、なんかこう……不可抗力というか。やっぱり、その……いつもと雰囲気違うから」

「そう? ……どう違うの?」

「どうって……なんていうか、風呂上がりだなっていうか、寝る前っていうか……」

「そのまんまじゃない……」

「……まぁ、あと…………エロい、とか」

「っ! す、ストレートに言いすぎよ……ほんと、兼助はすぐに欲情するわね」


 いや、こんな眞白を間近に見て、欲情しない方がおかしい。


「…………」

「…………」


 沈黙が流れる。

 

 俺と眞白は、今から……。


「な、なんか飲むか?」

「え、えぇ。飲むわ。飲む飲む。すごく飲む」

「そ、そっか。おっけーおっけー……ほんとおっけー」


 焦らなくていい。夜はまだ長いのだから。




















 それから。


 ソファーに座って慣らすようにゆっくりし、一緒に歯を磨いて二階に上がる。

 もちろん寝るのは、同じベッドだ。


「ね、寝るか」

「そ、そうね」


 枕を二つ並べ、布団に入る。

 大きいベッドではないため、必然的に距離が近づいた。


 ふんわりと同じシャンプーの匂いが広がる。

 眞白の甘い匂いもして、さすがにドキッとした。


「…………」

「…………」


 静かに、ゆっくりと時間は流れていく。


 カーテンの隙間から月の光が漏れているだけで、部屋の中は薄暗かった。

 それでも、となりに眞白がいることは確かにわかる。


 体温が触れ合っているところからお互いに移って、溶けて、馴染んでいく。


 眞白はまだ起きていた。

 ふたりして同じように仰向けで、天井を眺めていた。


 眞白が体勢を変える。

 俺の方に体の正面を向け、右肩にこつんと頭をぶつけてきた。


 体温がまた、ふたりの間で溶けていく。


 俺も体勢を変え、眞白と布団の中で向かい合う。

 眞白の後頭部に頭を乗せると、眞白の体がわずかに震えた。


 ドキドキしている。

 胸の鼓動が怖いもの知らずで速まっていく。


「っ……!!」


 眞白の指に、そっと触れる。

 眞白もそれに応じるように、指を絡めてきた。


 手をつなぎ、しばらくそのままでいた。


 やがて少し離れ、顔と顔を見合わせる。

 眞白の瞳は薄暗い部屋の中でも輝いていて、瞳に張った薄い涙の膜がわずかに揺れていた。


 布の擦れる音を立てながら、ゆっくりと顔を近づける。


「眞白……」

「兼助……」


 生暖かい吐息と共に名前がこぼれ、その口を塞いだ。

 

 初めは軽く、そっと触れるように。

 やがて唇を重ねる時間が長くなり、より強くお互いを求め合う。


「んっ……けんすっ……あっ……」


 顔に手を添えると、眞白の声がたまらず漏れる。

 触れた頬は熱くて、俺の意識をぐにゃりと曲げるようだった。


 一度離れ、見つめ合う。


「けんすけ……」


 とろんとした瞳は俺を求めているようで、わずかに残るツンとした雰囲気が俺を激しく刺激した。


「んっ……んぁっ……ん……」


 強く眞白に口づけをし、舌を絡め合う。

 激しく体温が溶け、ひとつに混ざり合うような不思議な感覚に陥った。

 

 夜は深まり、眞白と共にどんどん沈んでいく。


 眞白もまた、短い舌を使って俺を求めてきた。

 それでもやはりしおらしくて、どこか弱弱しくて。


 いつも強気で女王様みたいで、俺に悪態ばかりつく幼なじみだからこそ、もっとその甘い表情を見たいと思う。


「はぁ……はぁ……」


 息継ぎも忘れてキスを交わし、お互いに見合う。荒い息が漏れる。


 ふたり、同じ布団の中。

 暑くて暑くてたまらないのに、それより眞白に触れていたかった。


「あっ……兼助っ……そこはっ……やっ……」


 眞白の体にそっと触れると、ビクンと反応する。

 やわらかくてか細くて、強く抱きしめれば崩れてしまうんじゃないかと思うほどに華奢な体。


 眞白は口をきゅっと引き結びながらも、俺をじっと見ていた。

 そこに言葉はいらなかった。


「んっ……」


 布団をどかし、眞白に覆いかぶさる。

 眞白は顔を真っ赤にし、小さな体をよじりながら俺の背中に手を回した。


 Tシャツが引っ張られる。

 絶えず耳元でこぼれる甘い吐息。

 眞白の目じりにたまった涙が、顔のラインに沿って流れ落ちた。


「大丈夫か?」

「……これくらい、なんてことないわ。だから……続けて?」


 眞白が俺を受け入れる。

 触れれば触れるだけ、幸せが溢れて零れていく。


「兼助……好きって言って」

「好きだよ……眞白」

「……私も、兼助が好きよ」


 照れや恥じらいを超えて、お互いに求め合う。

 月の光が届かない場所で、名前を呼び合う。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 じんわりと滲む汗。


「風呂、入ったのにな」

「……そうね。でも……また入ればいいもの」

「そうだな」


 眞白の顔を見て、思わず頬が緩む。


「何ニヤケてるのよ」

「いや、眞白はやっぱりエロいなって思って」

「っ! そ、それを言うなら兼助が……」


 眞白がはだけた服に気が付き、ふいっとそっぽを向いた。

 

「……け、兼助も脱ぎなさいよ。私だけこんなの……フェアじゃないわ」

「眞白が脱がせてくれるのか?」

「っ! ……そうしてほしいわけ?」

「……まぁ、俺が眞白の服を脱がせるから、それでフェアってことで」

「……全く、最近の兼助は調子のいいことばかりね」

「調子がいいのは間違いないからな」

「…………そ。別に、気に食わないけれど」


 そう言って、眞白がぺたんとベッドに座る。

 

 そして、伏し目がちに俺の服に手を伸ばしてきた。

 慣れない手つきで俺のTシャツを脱がせ、すぐとなりに置く。


「……チンケな体」

「そんなこと言うなよ」

「……ま、兼助らしくて嫌いじゃないけれど」


 眞白がからかうようにふっと笑う。

 俺もつられて笑ってしまった。


「じゃあ……」

「う、うん……いい、わよ」


 眞白のパジャマのボタンをひとつずつ外していく。

 少しずつ露わになる、抜けるように白い肌。

 

 脱がせたシャツを俺のTシャツに重ねて置く。

 眞白は恥ずかしそうに腕で隠しながら、視線を彷徨わせていた。


「……な、何よ」

「…………綺麗だなと思って」

「っ! ……当たり前じゃない。私……なん、だから」


 ツンとした表情が、どんどんほぐれていく。

 

 目を合わせると、どちらかともなくキスをした。

 そして、眞白をベッドに押し倒す。


「なぁ、眞白」

「何よ」

「もう俺、意気地なしじゃないよな?」

「……それ、今聞くこと?」

「今かなと思って」


 そう答えると、眞白が小さく笑った。


「……ほんと、兼助はどうしようもない人ね」


 眞白が俺の頬に両手を添える。


 シーツに広がる、艶やかな黒い髪。

 すぐ目の前に眞白の顔があって、触れられた手のひらがあたたかい。


 眞白は優しく微笑むと、いつものように挑発的に上から言うのだった。





「それはまだ、これから次第ね」





 俺は笑って、眞白にそっと――




















 ――翌朝。


 鳥がチュンチュンと鳴いていた。

 ベッドには、裸の男女が――ふたり。


 つまり、いわゆる朝チュン。


「……おはよう、眞白」


 俺が言うと、となりでじっと見つめてくる眞白が布団を口元まで被った。


「…………おはよ、兼助」


 そんな眞白の耳は真っ赤で、そのしおらしい態度がたまらなくかわいかった。


「行こうか」

「……そうね」


 今日からまた、日々が始まる。 



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