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幼なじみに「どうせ押し倒す度胸もないくせに」と散々煽られたので、朝チュンしてやった  作者: 本町かまくら


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第18話 付き合ったらダメ、だから


 眞利子さんの言葉が、混沌と化したリビングに響き渡る。


「付き合ったとき、すぐに言ってくれればよかったのに~。私、ふたりのことは最前線で応援していたつもりなのよ? 推し活ってやつ? うふふっ、たぶん違うと思うけど~」

「何を言っているの⁉」


 眞白が真っ赤な顔で反論する。


「わ、私が兼助と付き合ってる? そ、そんなわけないでしょ?」

「いやいや、そんなわけあるわよね~? ね~」

「ね~じゃないですって」

「本当にそうよ。私が兼助とだなんて……」


 ちらり、と眞白が俺に視線をやる。

 しかし、目が合うと慌ててすぐにそらされた。


「ありえない。本当にありえないから。冗談でもそんな心がすり減るようなこと言わないで」

「眞白のその言葉で俺の心が削り取られてるんですが……」

「へぇ、まだ兼助には削れる心が残っていたのね。私がもうすでに削り切ったと思っていたのだけれど」

「なんだよ削り切ったって。ってか意志持って削り切ろうとするなよ」


 なんて話して、ふたりハッと我に返る。

 俺たちをニマニマと、実に微笑ましそうに見ている眞利子さんに気が付いたから。



「うふふっ。言葉なんて無粋よね~。今のふたりを見ていれば、いつからなんてどうでもいいことだったと思い知らされるわ~」



「お母さんっ!!」


 眞白が珍しく声を荒げる。

 あの眞白でも、眞利子さんには敵わない。


 つまり、力関係としては、


 眞利子さん>眞白>>>>>>>俺


 なるほど、これは詰んでる。


「ふたりとも、喧嘩はしてもいいけど仲よくするのよ~? 若いうちは目先のことに囚われがちだけど、ふたりはちゃんと長い目で交際を……」

「だ、だから! 付き合ってないって言ってるでしょ⁉ 誰がこんな……」


 眞白がズバッと俺を指さし、再び目が合う。

 しかし、眞白はその先の言葉(悪態)を出さなかった。いや、出なかったという方が正しい。


 今、俺たちの状況で「付き合ってる」と勘違いされるのは気まずいことこの上なかった。


 眞白は自分の意志でキスしてしまったことを認め、謝罪までした。

 でも、キスしたのは俺に好意を抱いているから、というのは絶対に認めようとしない。


 そこにさらに二回もシてしまった事実が重なっているのだから、全く持って意味がわからない、複雑極まりない状態だった。


「だ、誰がこんな奴と付き合うわけない、って?」


 ――その状況で、俺は攻めの一手を打つ。


「っ⁉ な、何よその挑発的な目は……」

「……いつまでも、俺がペコペコ従ってるだけだと思うなよ」

「な、生意気な……」

「生意気なのは眞白の方だ。生意気な上に素直じゃなくて、色々と拗らせてる」

「っ! こ、この……!!」


 バチバチと火花を散らすように視線をぶつけ合う。

 一触即発の雰囲気の中、ひとりだけ全く違う空気感でこの場に存在していて、



「うふふっ。若いっていいわ~」



 ちくしょう眞利子さんが邪魔だ!


「フンっ!」


 眞白が肩にかかった髪を払い、足音を鳴らしながら階段を上っていく。

 マズい……また逃げられる……!


「ま、眞白! おい待てって!」


 慌てて追いかけるも、眞白は自分の部屋の扉を勢いよく締め、拒絶の意志を示す。

 

「眞白! まだこないだの続きが……」


 意を決してドアノブに手をかけると、眞白の方から開けてくれた。

 かと思えば、開いた扉の隙間から俺を睨みつけ、



「部屋に入ってきたら殺すから。焼くか――煮るか」



「…………は、はい」


 そして、バタン! と大きな音を立てて扉が閉まった。

 

「何なのよ兼助は……! 気持ち悪い! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! ほんっと最低……勘違い男! 勘違い変態男! 勘違いド変態男!!」


 枕をドスンと殴る音と共に、眞白の悪態が扉越しに聞こえてくる。

 勘違い男の三段活用までされてるし……これはさすがに入っていけない。


「…………はぁ」


 どうすればいいんだろうか……なんかもう、より分からなくなってしまった。










   ▽   ▽   ▽










 昼休み。


 中庭のベンチに座り、深いため息をつく。


「…………どはぁ」


 もう一度、ため息をつく。

 すると、後ろから肩をトンと叩かれた。


「ため息をつくと、幸せが逃げるってさ~。あと女房も」

「幸せだけでいいって。あと呼び方古いから」

「たはーっ。今日も北っちすっるどー」

「今日も長谷は初速が謎だな」


 長谷がウキウキした様子で俺のとなりに座った。


「で、なんでため息ついてんの?」

「長谷には関係ない」

「うっわ~、そうやって友達突き放すのよくないと思うよ~?」

「うぐっ……珍しく正論だな」

「ため息ついてる理由を聞いてくれる友達(可愛いメス)なんて普通いないんだよ~? 北っちは一日五回、私の家に向かってお祈り捧げた方がいいレベル」

「お前んちメッカなの? ってかイスラムなの?」


 またため息がつきたくなった。別の意味で。


「まぁ話してみなよ。どうせ、ましろんのことなんだろうし」

「⁉」

「私、意外に北っちのこと見てるんだからね~? にひっ」


 してやったり顔の長谷を見て、思わずドキッとしてしまう。

 これだから長谷は……。


「実はさ」


 それから、俺は眞白に対して悩んでいることを話した。

 

 とはいえ、さすがに意地の張り合いで二回もシてしまったことや、眞白からキスされたことは眞白に配慮して話さず。


 俺が眞白に好意を寄せていること。

 そして、眞白が俺のことをどう思っているのか知りたい、ということ。


 その二つを話すと、長谷は「ほぉん」とよくわからない声で頷いた。


「なるほど。第三者からすれば一番エンターテイメントな状況だね。うっま」

「お前ほんと容赦ないのな」


 呆れてツッコむと、長谷が勢いよく立ち上がった。



「ま、私に任せて。いい案がある」



 ……なんでだろう。すごく期待が出来ない。




















 ――五分後。


「何? わざわざ私を呼び出して」


 俺と長谷が待つ中庭にやってきたのは、不機嫌そうな眞白だった。

 長谷が呼び出してすぐに来るあたり、眞白は本当に長谷を信頼しているんだろう。


「というか、どうして兼助と一緒なのよ……楽しくないわよ、そんなのと一緒にいても。エロい目で見てくるし」

「おい見てないから」

「しょうがないよ。北っちってエロいから」

「なんでお前が肯定してるんだ」


 俺のエロいを知らないだろうが。……眞白は知ってるけど。じゃないじゃない。


「で、何? 何の用?」


 眞白が急かしてくる。

 長谷はわざとらしく咳ばらいをすると――唐突に俺の腕に抱き着いてきた。


「っ⁉」


 密着するやわらかい体。

 眞白とは違った柑橘系の匂いが鼻をかすめる。


 それに眞白より質量を感じる胸が押し当てられて……。




「実は私、北っちと付き合ってるんだよね~。いぇい」




「……え?」

「……は?」


 一瞬、頭がバグったのか情報が処理できなくなる。


「ちょっ、長谷? お前何言って……」

「何なら付き合ってすぐに一発かましてしまいました~。気持ちよかったね、北っち?」

「ほんとに何言ってんだ⁉」


 ってか、そんなこと言ったら冗談でも眞白が……。



「へぇ、で?」



 腹の底に響くような低い声。

 まるで俺を汚物でも見るかのような目で見ている。


「ち、違うんだ眞白。これは長谷が……」

「や~北っちと付き合ってめっちゃハッピ~なんだよね~。いくらため息ついてもよゆ~なくらい」

「……そ、で?」

「ましろんにはきちんと報告しておこうと思ってさ。ましろんは私の親友だし、北っちの幼なじみだしね。――まぁ、でも」


 長谷はニヤリと挑発的な笑みを浮かべると、眞白に向かって言うのだった。




「ただの幼なじみなましろんにとっては、私と北っちが付き合うなんてどうでもいっか~」




 長谷のひとことに、眞白が俯き黙り込む。


 俺はひとり、長谷の胸の感触を何とか忘れようと必死になりながら冷や汗をかいていた。


 粟原さんに告白されたことで、眞白は俺に風穴を開けようとしたくらいブチギレたのだ。

 それが眞白の友達である長谷と付き合ったなんて、中庭が消し飛ぶくらいの憎悪の感情が溢れて……。





「で、その茶番はいつ終わるわけ?」





「「……え?」」


 眞白はスンとした表情で続ける。


「八江子と兼助が付き合うわけないって、考えないでもすぐわかるわよ。それに、こういう嘘は八江子が考えそうなことだし……というか、いい加減離れなさい」

「うへぇ~」


 眞白が俺から長谷を引きはがす。


「え~、ましろんつまんないよ~」

「つまらないのは兼助よ。兼助ただひとりだわ」

「俺何もしてないんだけど……」

「まったく……私も舐められたものね」


 眞白が不機嫌そうにフンっと鼻を鳴らした。


 きっと、長谷は眞白の反応で俺に好意があるかどうか見極める算段だったのだろう。

 でも、作戦は失敗。ただ眞白の長谷に対する理解が深い、という友情を確認できただけだ。あと、長谷の胸の大きさが分かった。じゃないじゃない。


 俺にとっても茶番だったし、ここらでお開きか、と思ったそのとき。


「まぁ、でも」


 眞白は長谷の腕を掴みながら、俺を圧で押しつぶすように、低く冷たい声で言い放った。






「もし兼助が八江子と付き合っていた場合、兼助がどんな方法でどんな苦痛を味わうのかは私自身も想像ができないのだけれど」






 砕けた雰囲気が、一瞬にして締められる。


「私が言いたいのはそれだけよ。わかった?」

「……は、はい」


 よくわからないけど、頷くことしかできなかった。

 ほんと、なんで怒られてるんだよ。俺のこと好きじゃないって言ってたのに。でも、こんなの明らかに……。


「ほら八江子、行くわよ」

「うへぇ~」


 眞白に手を引かれ、長谷が力なく歩いていく。

 教室は同じなので、その少し後ろをついていった。


「というか、もうこんなつまらない茶番はやめなさい。ユーモアにひどく欠けるわ」

「次はユーモア重視で行くね~」

「そもそもをやめなさい」

「ふはぁーい」


 仲良く歩くふたり。


 結局今日も収穫なしか……と肩を落としていると、眞白がんんっと咳ばらいをし、長谷に向かって言った。









「それから、八江子でも兼助と付き合ったらダメよ。嘘でも本当でも、どちらでもダメ……なんだから」









「! ま、ましろん。それって……」


 長谷の視線を受けて眞白がもう一度、強めに咳ばらいをする。


「とにかく! いい? わかったわね?」

「……にひっ、おっけ~」

「ったくもう……」


 眞白が呆れたように、でもどこか満足げに呟き、ふとその少し後ろにいた俺と目が合った。


「っ⁉ な、何ついてきて……!」

「えっ? いや、だって教室同じだし……」

「お、女の子の会話を盗み聞きしてるんじゃないわよ!!」

「えぇ⁉」


 そ、そんなのあんまりだ。


 ……というか。


 今のって完全に、俺のこと好きってことじゃないんですか⁉


 嫌いだって避けてくるけど……や、やっぱり好きだよな⁉ 俺のイタい勘違いじゃないよな⁉

 ……いや、でも勘違い男だって、付き合うわけないって散々罵倒されたし……実際に否定されてるし。とはいえ、眞白はあまのじゃくで、照れて素直になれないだけの可能性も……ってか、眞白が俺を好きになってくれるか? でもキスされたんだぞ⁉ それにさっきの発言は明らかに……で、でも……!


 あーっ! 眞白もめんどくさいし、俺も負けず劣らずめんどくせぇ! 全部全部、ありえんくらいにめんどくせぇ!!


「ったく……これだから兼助は」


 呆れたように呟く眞白の後ろ姿に、思わず足を止める。


「ど、どっちなんだ……どうすればいいんだ……」


 事態はより面倒な方へ拗らせていく……。


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