第9話「ふたりで蒔く」
道の先に、あの村が見える。
煙は上がっている。
――まだ、終わってはいない。
少女が小さく言う。
「……こわい?」
彼は少し考えてから、笑う。
「正直、ちょっとな」
門をくぐると、空気は張りつめている。
畑は二つに割れていた。
手入れされた、小さな畑
荒れたままの土地
人も、同じように分かれている。
彼に気づいた村人たちがざわつく。
「……戻ってきた」
「今さら何しに」
歓迎はない。
広場で、以前怒鳴っていた男が前に出る。
「で? また増やしてくれるのか?」
彼は首を振る。
「増やさない」
ざわめき。
「その代わり――」
少女が一歩前に出る。
「一緒に、作る」
言葉は弱い。
でも、響く。
彼は言う。
「一粒万倍は、もう“俺一人の力”じゃない」
「働いた分だけ、返る」
「何もしないやつには、何も起きない」
「そんな悠長なこと言ってられるか!」
「今すぐ食うものが要るんだ!」
彼は袋から穂を取り出す。
「これが最後の“そのままの救い”だ」
「これで、三日つなげ」
「その間に――畑を作る」
村人たちは迷う。
今すぐの楽
少し先の安定
最初に動いたのは、あの母親。
「……やります」
少女も続く。
「私も」
一人、また一人。
少しずつ、人が集まる。
土を耕す。
石をどける。
水路を掘る。
ぎこちない。
でも、確かに“人の手”が動く。
彼と少女が、同時に土に触れる。
発動
一粒万倍(進化)
光は見えない。
でも――
空気が変わる。
乾いた土が、やわらぐ。
種が、根を張る。
「……あったかい」
誰かがつぶやく。
数日後。
畑の一角に、揃った芽。
前よりも、広い。
前よりも、強い。
あの男が、黙ってスコップを持つ。
何も言わない。
でも――
参加している。
夜、焚き火の前。
彼は言う。
「分けるんじゃない」
「回すんだ」
働いた分、食べる
余りは次に回す
誰かが倒れたら、みんなで支える
誰も反論しない。
もう、分かっている。
朝。
畑に並ぶ人影。
子供も、大人も。
土に触れている。
彼は少し離れた場所から、それを見る。
少女が隣に立つ。
「これで、よかった?」
彼はうなずく。
「……やっと、“始まった”な」




