第8話「もう一度、種を蒔くために」
彼は、荒地に膝をついていた。
小さな畑。
まだ不揃いな芽。
一人では限界がある。
それでも――
前とは違う。
(これは、“増やす力”じゃない)
(“つなぐ力”だ)
背後で、草を踏む音。
振り向く。
そこにいたのは――
あの村の少女。
「……見つけた」
息を切らし、泥だらけの足。
長い距離を歩いてきたのが分かる。
二人の間に、言葉はない。
風だけが吹く。
「……なんで来た」
少しだけ、冷たい声。
少女は答える。
「迎えに来た」
彼は首を振る。
「戻らない」
「違う」
少女は一歩近づく。
「連れ戻しに来たんじゃない」
「教えてほしい」
彼は、言葉を失う。
「みんな、バラバラになりかけた」
「でも……あの人が、畑を始めて」
あの母親の姿がよぎる。
「まだ、争ってる人もいる」
「でも……少しずつ、戻ってる」
「芽が出たの」
彼は目を伏せる。
(……やっぱり、あの一粒は)
少女は言う。
「でも、足りない」
「やり方が分からない」
「だから、教えてほしい」
「どうやって、“育てる”のか」
彼は問い返す。
「……なんで、お前が来た」
少女は、まっすぐ見る。
「見たから」
「あの時」
「一粒で、命がつながるところ」
風が止む。
彼は、少しだけ笑う。
「……大げさだな」
そして、立ち上がる。
「じゃあ、やるか」
土を掘る。
少女に種を渡す。
「埋めろ」
少女は、ぎこちなく土に触れる。
彼はその手の上に、自分の手を重ねる。
発動
一粒万倍
今回は違う。
光は、二人の間に流れる。
土が、呼吸するように変わる。
芽が出る。
一つ。
そして、周囲にも。
少女の目が見開く。
「……これが」
彼は言う。
「一人じゃ無理だ」
「だから、お前が必要なんだろ」
少女は、うなずく。
夕日。
小さな畑に、二人の影。
遠くに、まだ荒れた土地。
でも――
その一角だけ、緑がある。




