第7話「万倍の先へ」
彼は一人、荒れた大地に立っていた。
何度も試した。
一粒万倍。
――だが、うまくいかない。
増えない。
増えても、すぐ枯れる。
思い出す。
「欲が強すぎると、力は応えない」
「命の巡りに従え」
(なんでだよ……)
(ちゃんと増やしてるじゃないか)
手のひらのひびが、痛む。
遠くで、子供たちが土をいじっている。
あの村で見た光景。
不器用な手で、苗を植えている。
(……なんで、あっちは育つ?)
自分は“増やしている”。
あちらは“育てている”。
彼は、落穂を握る。
そして――
地面に埋める。
(増やすんじゃない)
(つなぐんだ)
発動
一粒万倍
だが今回は違う。
光は、外に広がらない。
――土の中に沈む。
周囲の空気が変わる。
風が、やわらかくなる。
乾いた土が、わずかに湿る。
数時間後。
地面から、芽が出る。
一つじゃない。
周囲一帯に――
一斉に、芽吹きが広がる。
(これが……)
(本当の“一粒万倍”……?)
それは“増殖”ではなかった。
一粒を起点に、周囲の命を呼び起こす力
彼は気づく。
自分だけでは発動しない
土・水・人の手が必要
“場”が整っていないと無効
手のひびを見る。
消えている。
代わりに――
強い疲労。
(これは……消耗じゃない)
(循環だ)
女神の声(風)
「ようやく、気づいたか」
「増やす者ではなく――」
「巡らせる者になれ」
彼は立ち上がる。
広がる芽を見つめる。
「……一人じゃ無理だな」
だから、歩き出す。
人を探すために。




