第6話「残された種」
彼が去って、三日。
村は静かだった。
誰も、あの名前を口にしない。
だが――
空気が、足りない。
広場で言い争い。
「戻ってきてもらうべきだ!」
「甘えるな、あいつはもういない!」
村は、二つに割れる。
倉庫は空に近い。
「まだ残ってるだろ、隠してるんじゃないか?」
疑いが広がる。
誰かが、誰かを責める。
あの母親が、畑に立っている。
手には――
あの一粒から育てた苗。
「……やってみよう」
土を掘る。
不慣れな手つき。
それでも――
自分の手で植える。
そのすぐ隣で。
別の男が吐き捨てる。
「そんなの待ってたら冬越せねぇよ」
彼は、他人の畑から作物を抜き取る。
盗みは、すぐに広がる。
見張りが立つ
畑に入るなと怒号
夜に争い
村は、少しずつ壊れていく。
一方で。
母親を中心に、数人が集まる。
「……手伝うよ」
子供も、大人も。
ぎこちなく、土をいじる。
数日後。
畑の一角に――
小さな緑。
「……出た」
芽が出た。
たったそれだけ。
でも――
誰もが、言葉を失う。
増えたわけじゃない。
奇跡でもない。
でも確かに――
“自分たちで生み出した”
夜。
ついに大きな衝突。
「返せ!」
「俺のだ!」
殴り合い。
泣き声。
同じ夜。
畑では、水をやる音。
翌朝。
村人たちは、二つの光景を見る。
① 荒れた倉庫と争いの跡
② 小さく育った芽
誰かが、ぽつりと呟く。
「……どっちが、続くんだろうな」
風が吹く。
芽が揺れる。
遠く、彼が去った道。




