表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

第4話「豊穣の歪み」

あの日以来、村は変わった。


空腹で倒れる者はいなくなり、

子供たちは笑い、畑には人が戻った。

――はずだった。


「ねぇ、今日もお願いできる?」

「うちも頼むよ、昨日は隣がもらってたろ?」

彼の前に並ぶ人々。

手には、空の袋。


彼は気づく。

畑に出る人が、減っている。

落穂を拾う者もいない。

代わりに――

「どうせあの子が増やしてくれる」

そんな声が聞こえる。


最初は感謝だった。

でも今は違う。

「もっと増やせるだろ?」

「なんでうちだけ少ないんだ」

「隠してるんじゃないか?」

言葉に、棘が混じる。


彼は試す。

いつものように一粒。

――増えない。

もう一度。


――かすかにしか増えない。

(……欲、か)

女神の言葉がよぎる。


その日の夜。

村で争いが起きる。

「お前のところばかり優先されてる!」

「違う!順番だって言われたんだ!」

食糧が原因じゃない。

“分配”が原因だ。


(俺のせいだ)

与えたことで、

“働かなくてもいい理由”を作ってしまった。

助けたはずなのに――

村は弱くなっている。


翌朝。

倉庫が荒らされていた。

残っていた穀物が、ほとんど消えている。

「……盗まれたのか?」

否。

犯人はすぐに分かる。

村人だ。


広場に集まる人々。

その目は――もう“救われる側”ではない。

「増やせよ」

「お前の仕事だろ?」


彼は、ゆっくり首を振る。

「……今日は、やらない」

ざわめき。

「は?」

「なんでだよ!」


彼は言う。

「このままじゃ、村は終わる」

「俺の力は、全部を解決するものじゃない」


「ふざけるな!」

「今さら何言ってんだ!」

「お前が始めたんだろ!」

怒号。

誰かが、石を投げる。


(……これが、“欲”か)

人の欲。

そして――

自分の中にもあった「認められたい欲」。


彼は静かに言う。

「……一粒は、増やせる」

「でも、村までは増やせない」


沈黙。


遠くで、風に揺れる稲の音。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ