第3話「一粒の価値」
村に戻ると、空気が重い。
「……あの子が、もう……」
一軒の粗末な家。
中には、ぐったりと横たわる子供。
母親は泣きながら言う。
「もう三日、何も食べてないんです……」
彼は、袋の中の穂を見る。
(これを使えば助かる)
でも同時に、思い出す。
使いすぎれば体が蝕まれる
欲で使えば、力は弱まる
そして何より――
(これ…本当に“助ける使い方”なのか?)
村人の声。
「もう無理だ……」
「冬まで持たない……」
子供の呼吸が、浅くなる。
彼は、そっと落穂を一粒取り出す。
「……これでいい」
大きな山じゃない。
たった一粒。
目を閉じる。
(増やすんじゃない)
(“つなぐ”んだ)
光は、静かだった。
暴れるような増殖じゃない。
まるで――
命が巡るように、増えていく。
掌の上で、穂が増える。
だがそれは「山」ではない。
ちょうどいい量。
炊けば、一人が生き延びられる分。
母親が震える手で受け取る。
「……いいんですか……?」
彼はうなずく。
「早く、食べさせてあげて」
湯気の立つおかゆ。
スプーンを口に運ぶ。
子供の喉が、わずかに動く。
数分後。
「……おいしい……」
誰もが息を呑む。
奇跡じゃない。
でも確かに――
命がつながった。
家を出たあと。
彼は壁に手をつく。
「……っ」
手のひらに、またひび。
さっきより、深い。
(これ……軽く使う力じゃない)
(でも――)
振り返ると、家の中から笑い声。
彼は小さく笑う。
「一粒でいいんだな」
空を見上げる。




