果物かご
童話と遊びのフルーツバスケットを合わせてみました
一時的とはいえ深い眠りについてしまった事に対しての恨みが、とあるモノへ向けられている。
事が始まる理由を作り出したのはそのモノではない事を充分理解しているものの、それのせいで苦しんだのだから憎い存在である。
永かった眠りから解放されたセツカの中に、恨みが蓄積されていく。
(一日でも忘れた事は無い……私が受けた苦しみを、今度はあなたが受けなさい!)
セツカは嫁ぎ先で身に付けたある力を駆使し、自身を深い眠りにつかせた『ソレ』が苦しむよう『呪い』をかけた。
(人々に忘れ去られて、この世から存在そのものを消してしまえば良い!)
セツカは脳裏に思い浮かべる『ソレ』に『忘却の呪い』をかけ、黒い恨みを全身から解き放つ。
(これで皆、あなたの事を忘れていくわよ)
必然的に見付けた『呪いの書』を抱え、セツカは黒い笑顔を露にした。
セツカが身を置く屋敷から、かなり離れた所に在る市場では旬の果物を販売する屋台がお客に品を提供しているところだった。
店主はかごに次から次へと品の果物を詰めていき、テキパキと作業をこなしていく。
「ハイハイ、ちょっと待っててね!
今、詰んでいくから……あ!」
あまり多くの果物を詰めすぎたが為に、その中の一つがかごからこぼれ落ちた。
店主の手がこぼれ落ちた果物を拾おうとした時、伸ばした手が行方を失ったのだ。
「ん……あれ?
今、何を拾おうとしたんだっけか?」
何かの果物を拾うつもりだったが何を落としたのか……それともかごからは何も落としてはいないのかもしれないと感じた。
「桃にキウイにオレンジにさくらんぼに梨……」
梨を見て、店主もお客も考え込む。
「お客さんが買ったの、これだけですよね?」
「ああ……その筈だが……何か一つ、あったような……いや、これだけだよ。
ありがとう!」
「毎度~!」
何も落としてなどいない……そもそも落とした物など無い。
市場でのやり取りを遠方自覚で垣間見ていたセツカは、成功した事に笑みを浮かべた。
(ざまあみなさい!
私を苦しめていた……何だったかしら?
まあ良いわ。
覚えてないけど、何かに復讐した事は確かなんだから)
「セツカ、見っけ!」
「あ!」
目的を果たせたセツカを見計らったかのように、七人の青年が彼女の前に現れた。
「みんな、今日も会いに来てくれたの?」
青年達を前に、セツカは女の顔になる。
そんなセツカに青年達も、うっとりとした表情を見せた。
「勿論、セツカは俺の姫、だからな」
「抜け駆け禁止!」
「わたし達の姫、だろ?
なあ、セツカ」
「云いながらセツカに近付き過ぎるぞ!」
「旦那様は、出掛けられた」
「明日の朝まで戻らないらしい。
今がチャンスだよ」
「今日こそ僕達の中から、本命を決めてくれよな」
次から次へと青年達からのアプローチを受け、セツカはまんざらでもない顔を見せている。
セツカにはれっきとした配偶者がいるが、ときめくのはこの世話係の七人の青年達なのだ。
「決められないわ。
だって、全員好きなんですもの」
七人とも、セツカの好みの青年なので、一人に決めるなど勿体無い。
複数からモテるのは気持ちいいし、好きだと云われれば出来るだけ多くと繋がりたい。
「そうだわ、今朝梨の良いのが入ったの!
みんなで食べましょう」
青年達の表情に、変化が起きた。
「梨って……俺達を嫉妬させる気か?
セツカ……!」
「そ、嫉妬させるの。
ふ……毒の梨を食べた私を、眠りから覚まさせてくれるのは誰……かしら?」
ポケットから出した梨を一口噛り、セツカは眠りについた風に横に倒れこむ。
永遠の眠りにつくふりをするセツカの姿は、青年達の心をときめかせた。
(目覚めさせて、王子様)
「セツカ……」
「眠りから覚まさせるのは……」
「他でもない……」
「分かってて試すなんて……」
「小悪魔な姫だ」
「渡さない!」
「俺がセツカを……」
眠る演技を見せるセツカへと、七人の青年達がジリジリと迫りつつある。
「「「「「「「目覚めさせる‼」」」」」」」
その様子を市場から視ていた『ソレ』は、黒い感情を剥き出しにしていた。
〈いい気なものね……わたしの存在を消しておきながら‼
今のうち男をはべらせておくが良いわ。
次こそ貴女を、毒牙にかける‼〉
かごからこぼれ落ちた『ソレ』は、自身に宿る毒をゆっくり膨らませていく。
『ソレ』の名は……―…………ゴ―
梨と姿が似ている果物……




